お祭り 投げナイフ
あの後からも色々なものを食べて回った。
イチゴタルトを食べた後は何故か口数が減ってしまい、よそよそしかったけど、暫くするともとに戻った。
一体何だったのだろう?
訊いても「知らない」と教えてくれないし、体調が悪いのかなとすこっし心配にもなったけど今は何ともなさそうなので、もう気にしないことにする。
それから何故かあーんは禁止になった。
「あれ?ここって冒険者ギルドだよね?人がいっぱいいるけど、何かありのかな?」
冒険者ギルドの前は何故か人でいっぱいになっていた。
時々、「おー」と声がしてくる。
何かは知らないけど凄く盛り上がっているようだ。
「おっ!ルーフェスじゃないか!久しぶりだな!」
私に気づいて話しかけてきたのはギルマス。
名前はちゃんとあったと思うけど、最初はギルマスって言うのが名前だと思い込んでいて、それで認識していたから本当の名前は忘れちゃった。
皆もギルマスって呼んでるし、きっと皆も覚えていないよね。
「久しぶり。それでここで何かしてるの?」
ギルマスはギルドで一番偉いらしいから彼なら知っているだろうと訊いてみた。
「あぁ。冒険者ギルドでも出し物をやっているんだ。お前らもやっていくか?」
ギルマスの言葉に「うん」と頷く。
何をやってるかは知らないけど、こんなに盛り上がっているんだしきっと楽しいことだよね。
ギルマスの案内でギルドの横の広場に行く。
ここは私が以前、ウルフロードを出した場所だ。
ここでは何人かの人がナイフを的目掛けて投げていた。
「ナイフを投げて的にあったたら景品と交換。やるか?」
ざっくりとした説明と共に再度挑戦するかを訊かれたのでもちろん頷いた。
「ルー様、やるのはいいですけど自重してくださいね」
「分かってるよ」
サーシャは心配症だな。
私だっていつもいつも何かをやらかすわけじゃないんだから。
「様?」
「気にしないで」
ギルマスがサーシャの私に対する様付けに首傾げていたが説明もめんどくさいので気にしないように言う。
「まあいい。それで他の三人はやるのか?」
「私は遠慮とくわ」
「私も投げナイフとかは使ったことがないので」
「わたくしもですわ」
三人共しないみたいなので私だけすることになった。
的は五つあってそれぞれ大きさが違う。
私はその中で一番小さい所の列に並ぶ。
五つ共列ができているが、一番多く並んでいるのは真ん中の大きさの的で、私の並んだ一番小さな的のところは人が一番少ない。
私の前に並んでいるのは今投げている人を入れて三人。
一人三回ですぐに順番が入れ替わっていく。
そうして誰も的に当てることが出来ることなく私の順番になった。
「お嬢ちゃん、並ぶところ間違えてない?」
そう問いかけてきたのはナイフを渡してくれる人。
「大丈夫。間違ってないよ」
一番小さい的のところで会っていることを伝え、お金とナイフを交換する。
「本当に大丈夫?」
心配そうに訊いてくる店番の人に「大丈夫」と再度伝えてから的の方を見る。
的は一番小さいだけでなく距離も一番遠い。
20メートルほど離れているのに的の大きさは5センチ程度。
「頑張って!」
「頑張ってください!」
アンズとクレアから声援を貰う。
サーシャは何も言わずにただ見てるだけ。
心配なのは分かるけど少しは応援してくれてもいいのに。
けど、二人に応援してもらっていることだし、ここはいい所を見せよう。
指の間に三本のナイフを挟んで振りかぶる。
そして的目掛けて腕を振り下ろしナイフを三本同時に投げる。
私の手から離れた三本のナイフはまっすぐに飛んでいき三本全て的に突き刺さった。
「「「おー!」」」
それを見た周りから大きな歓声が上がる。
「ルーちゃん、すごい!」
「流石ルー様!」
アンズとクレアからも拍手を貰う。
サーシャも拍手はくれたんだけど、少し呆れるような顔をしている気がした。
「す、すごい…‥」
店番の人は口を開けて固まっている。
「流石だな!ルーフェス!ほら、景品だ!」
ギルマスが褒めながら何かを手渡してくる。
「これって、ポーション?」
「ああ、そうだ。それなりにいいやつだぞ。お前にとってはそうでもないかもだがな」
ガハハと笑うギルマス。
彼にはこの顔が一番似合ってるかも。
「なあ、あの子供って、ウルフロードの子じゃ」
誰かがそう呟いた瞬間、周りにどよめきが走る。
「本当だ!間違いない!」
更に騒ぎは大きくなっていく。
うわー。どうしよ。
よし!
こういう時は逃げる!
そう決めた私はアンズとクレアの手を引いて走り出した。
今日は楽しかったなー。
もうすぐダンジョンにも行くし、今日はお祭りに来て本当に良かった。
またあったら今度も皆と一緒に行こう!




