テントの中で
アンズに手を引かれてやってきたのは街の広場のような場所だった。
広場にはいくつものテントが張られている場所があり、そっちの方へ向かって歩いていく。
その中の一つの水色のテントの前まで来てアンズに「これが私のテントだよ、入って。」と促されたので先にテントの中に入ることにした。
中はそれほど広くなく私とアンズが横になるれるぐらいの広さだ。
「狭くてごめんね。でも、野宿よりはいいと思うから。」
心配をかけても悪いので「大丈夫」と頷いてテントの中にアンズと向かい合って座る。
「ルーフェスちゃん、魔王様ごっこは別にいいと思うけどあんまり魔王様達を馬鹿にするようなことはしちゃ駄目だよ?魔王様の中には悪い人もいるんだから。」
アンズはそう言って私の頭を撫でてくれる。
完全に子供扱いされている。
この世界には魔王が複数人存在する。
魔王とは称号のようなもので世界がそれを決める。
強力な力を行使したときなんかに魔王となることが多い。
世界に認められた時、自分の頭にふっと世界の声のような物が浮かび上がる。
世界樹から作られた特殊な鑑定板を使うとその人の世界から送られた称号がわかるようになっている。
世界の声が届いた者はすぐにその鑑定板で確かめ周りからも認められるという流れになる。
だから魔王の中には悪い人も良い人もいる。
もし子供が「自分が魔王だ」なんて言っていたら、良い魔王なら遊びに付き合ってくれるかもしれないけど、悪い魔王ならその子供に腹を立てて危害を加えて、くるかもしれない。大怪我するかもだし、最悪殺されてしまうかもしれない。
アンズはそれを心配してくれてるのだろう。
この子はお菓子もくれたしとっても優しい子らしい。
「わかった。次からは気をつけるね。」
なので、そう言って安心させておくことにする。
「それより、何でテントに住んでるの?」
魔王の事はひとまず置いておいて気になってたことを聞いてみる。
「えっと、私も他の街から来たんだけど、その理由が学園に入学するためなんだ。
入学したら寮があるんだけどそれまではないからテントで暮らしてるの。
ここにテントを張って暮らしてる人はだいたいが冒険者で私も冒険者登録してるの。
入学金とか色々稼がないとだからね。」
「冒険者?」
「あれっ?知らないの?冒険者はギルドに登録して色々な人から依頼を受けて、その依頼を達成して報酬をもらう人のことだよ。」
なるほど、何でも屋みたいなものかな。
私が封印されてた頃にはなかった職業だな。
封印されてからどれぐらい経った分からないけど、もしかしたら私の知らないことが多いかもしれないな。
私の事を知らないのもそのせい?
時間が経ちすぎて皆忘れちゃったとか?
だったら今の時代の常識とかもちゃんと勉強しなくちゃかな。
んー、とりあえずお金は冒険者ってのになってみて稼ぐとして、アンズの言ってた学園ってのに通ってみようかな?
そこなら色々と勉強できそうだし。
「アンズ、そのギルドは、どこにあるの?私も登録しようかなって思うんだけど。
あと、私も学園に入学するよ!」
「冒険者になるって、結構危ない仕事も多いし危険だよ!
それに学園に入学って本当に?」
「うん。お金も必要だし色々しらないこと勉強しようかなって!」
「冒険者になるのも、学園に入学するのも自由だけど、簡単じゃ
ないよ?」
「うん!大丈夫!」
「じゃあ、明日ギルドに行ってみる?」
「お願い!」
「でも、入学試験は来週だからそれまでにお金貯まるかな?」
「魔物の素材とか買い取ってくれる場所ない?」
この街に来るまでに見た森なら魔物も多いはずだから、素材が売れるなら狩ってくるんだけど、そんな場所あるかな?
封印される前はそういうのをあんまり自分でしてなかったからよく分かんないな。
「ギルドで売れるけど、素材とかあるの?」
「あるよ」
まぁ、明日取ってくる予定だけど、アンズがいる時に森に行くなんて言ったら心配かけちゃうかな?
それなら、アンズが寝ている間に取ってこようかな。
相場とかわかんないけどなんとなく高そうに売れるやつ取ってくれば良いよね?
「明日お願いするね。」
「うん!それより、ご飯どうする?
食べるもの無いんだよね?」
「えっと、無い・・・」
「じゃあ、私が用意するよ。
なんでもいいかな?」
「できたら甘いお菓子がいいかなー。」
「お菓子って、ご飯は?」
「お菓子の方が良い!」
「駄目だよ!ちゃんとご飯たべないと!」
うっ、同じことを前にも言われた・・・。
「分かりました・・・」
「うん、聞き分けが良くてえらいね。」
そう言って頭を撫でてくる。
ホント、子供扱いされてるな・・・。
これでも[理不尽魔王]って呼ばれてる最強の魔王なんだけど・・・。