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幕間  勇者誕生:裏側(ツベル視点)

 「国王陛下大変です!」


 執務室で仕事をしていると兵士が一人、勢いよく扉を開けて荒わただしく部屋に入ってきた。


 「なにごとだ!騒がしいぞ!」


 「も、申し訳ありません!

 そ、その、魔物の軍勢が攻めて来ました!」


 ななかと思えばそんな事か。

 魔物の軍勢の侵攻は数年に一回はあること。

 今更それほど慌てることでも無い。

 街にはサーレイシャ様に張っていただいた結界――ラーラシア学園の学園長が張ったことになってる――もある。

 いつも通り騎士団を派遣すれば済む事だ。


 「それが、その群れは一万を超える数とのことです」


 一万も魔物が・・・・。


 「そのうえ軍勢の中には竜種やロードが確認されております」


 竜種にロード・・・。

 ロードはその種の魔物の最上位にあたる存在。

 竜種はこの世界の上位の生物。

 そんなのが両方攻めてくるとは・・・。

 竜種が何かまでは特定されていないようだが、最低格のワイバーンでもかなり厄介だ。


 「とにかく住民たちにはいつも通り魔物の侵攻とアナウンスを。

 それから冒険者ギルドと学園にも事情を説明し、街の防衛の救助要請を出せ」


 「は!了解しました!」


 敬礼をして兵士が部屋から出て行く。

 騎士団への出動を他の兵士に指示しておく。


 一万の数を超える魔物の軍勢に加えて竜種にロード。

 マーリウスに結界の強化を頼むとして、念の為サーレイシャ様にもお伝えした方が良いかもしれないな。


 そう考えていると丁度街の警報が鳴り響く。

 住人たちはいつものことなので慌てず非難してくれるだろう。


 私もサーレイシャ様へご報告をと思いイスから立ち上がったところで知らない男がいきなり目の前に現れた。


 「初めまして、あなたが現国王ですね」


 誰だ!?

 それに、いったいどこから!?

 いきなり現れたという事は転移魔法の類の可能性が高い。

 だがこの城にはサーレイシャ様の張っていただいた結界があるため、転移魔法で侵入するのは不可能なはず。


 「何者だ!どうやってここに!」


 「転移魔法でですよ」


 「結界が張ってあるのにどうやって!」


 「あぁ、あの女の張った結界ですか。

 この程度のものなら、[魔王]である私には意味がありませんよ」


 [魔王]だと!?


 「おっと、自己紹介が遅れましたね。

 私は[魔王]オルトラニーです。どうぞお見知り置きを」


 っな!

 [魔王]オルトラニーとはかつてこの国に攻めてきて、サーレイシャ様とカノン様に敗れた魔王。

 この男の言っていることが本当かは分からないが、サーレイシャ様に早く報告しなくては!


 「なぜお前がここにいる」


 オルトラニーがいる前でどう報告に行こうかと考えていると、サーレイシャ様が転移魔法で現れた。

 さすがはサーレイシャ様。

 オルトラニーが来たことに気づかれて、駆けつけてくれたようだ。


 「久しぶりですね、サーレイシャ。

 あなたもおかわり無いようで」


 「何をしに来たと言っている!」


 「そんなに慌て無いでくださいよ。

 目的はもちろん復讐です」


 「復習?私へか?」


 「はい、あなたに負わされた屈辱を、あなたにも味わってもらいます」


 「ふ、また返り討ちにしてやろう」


 サーレイシャ様が魔法を放とうとした途端、魔王オルトラニがいきなり笑い出した。


 「ふははははは」


 「何がおかしい」


 「あの時は、あのバカ勇者がいたからなんとかなったでしょうが、今はあなたしかいませんよ。

 それで本当に私に勝てるとでも?」


 「お前ひとりくらい、私一人で十分だ」


 「あれ?もしかして知らないんですか?

 現国王、今の状況をこの無知な女に教えてやってあげてください」


 今の状況?

 魔物の侵攻のことか?

 ・・・まさか、魔物の侵攻にオルトラニーが関係している?


 「なんだツバル、今の状況とは」


 サーレイシャ様に一万の魔物の侵攻と、その中に竜種やロードが数体いることを伝える。


 「またかっ!オルトラニー!」


 また?

 前にオルトラニーが攻めてきた際にも魔物の侵攻が?


 「ええ、今回も一万を超える魔物を用意しました。

 それにロードも数体、さらには竜種は古竜を用意しました」


 ・・・古竜。

 成竜よりも格上の存在。

 そんな恐ろしいものまで・・・。


 「くそっ!古竜だと!

 そんなものまで用意するとは、私が行かないといけないかもしれないが・・・」


 「ええ、行かせるわけありませんよ。

 その為に私はここへ来たのですから」


 今この街に古竜に対抗できるのは恐らくサーレイシャ様だけだろう。

 だがサーレイシャ様は、オルトラニーに邪魔をされてその場には向かえない。

 そうなると、古竜に対抗できる者がいなくなってしまう。

 ・・・いったい、どうすれば・・・。

 街の結界もマーリウスに強化を頼んでいるとはいえ、古竜相手ではそう長くもたないだろう。

 そうなれば街に魔物が入ってくるのも時間の問題になる。


 こんなとき・・・勇者様がいてくれれば・・・。


 「それではこの街が一体どうなるか、一緒に見届けましょう」


 オルトラニーの言葉とともに空中に映像が浮かび上がる。

 恐らくオルトラニーの魔法か何かだろう。


 その映像には騎士や冒険者などと魔物のの死闘が写っている。


 「そんな悠長に見ていると思うか!

 今すぐお前を倒して助けに向かえばいいこと!」


 「おっと、待ってください。

 別に今ここであなたと戦ってもよいのですが、私とあなたが本気で戦うとなると、この城どころか街にまで被害が出るかもしれませんよ」


 そんなことになればこの街、いや、この国が滅びる可能性がある。


 「くっ、」


 そうなると流石のサーレイシャ様も手が出せなくなる。

 つまりここは魔物と戦う者たちを信じて待つしか無いということだろうか。






 街を守って戦ってくれている者たちも頑張ってくれて、ロードもあとはゴブリンロードだけとなった。

 だがまだ古竜は、現れていない。

 オルトラニーの言葉も嘘とは思えないのでこれから出てくるのだろう。


 そう考えていた直後、今まで聞いたことのない大きな咆哮が映像から響き渡る。

 この凶悪な咆哮は、恐らく、竜・・・古竜のものだろう。


 そしてその予想に答えるように、映像に一体の大きな存在が映る。

 それは予想通り恐らく古竜。

 全長10メートルは超える蒼い竜。

 蒼竜の登場に戦っていた騎士や冒険者たちが慌てて街の結界に逃げ込んでいく。

 負傷して逃げ遅れている者たちもいる。彼らは助からないだろう。


 そんな中ひとりの女性が蒼竜の前に立っていた。

 あれは確か学園の教師で、名前は確かココナといったはず。

 マーリウスに見込まれて学園卒業してすぐに教員になった実力者。


 ココナは恐らく逃げ遅れた者たちを逃すための時間稼ぎをする気だろう。

 こんな優秀な彼女は騎士団にほしかったが、流石はマーリウス、学園に先を越されたようだ。


 ココナが蒼竜に向かって行こうとすると彼女の隣に立つものが現れる。

 武術部隊の隊長のラースだ。

 ココナと協力すれば、あるいは古竜を倒すのは無理にしても、撃退なら成し遂げてくれるかもしれない。


 「ほう、古竜に向かって行く者がいるとは、なかなか勇ましい者もいたようですね」


 オルトラニーがラースたちをみて呟いた。

 勇ましいと言っていたがどこか馬鹿にしたような言い方だった。

 確かに普通の人間が古竜相手に立ち向かっていくなんてただの無謀だろう。

 しかし私は彼らのような者たちを英雄なのだと思う。

 彼らが生きて戻ってきたのなら、褒美を与えたい。

 だから、生きて戻ってきてくれ。






 蒼竜とラースたちの戦いはしばらく続いた。

 魔法部隊も結界を盾にして魔法攻撃による支援を行なっているようだ。

 蒼竜からは何度か光線のようなブレスが飛んできていたが結界にあたり、誰にも被害は出ていない。

 だが、この光線は危険だ。

 後数発もすれば結界も維持できないだろう。

 マーリウスが強大な魔力によって結界の強化をしているとはいえ、彼の魔力も無尽蔵では無いため時期に魔力もきれ、結界も破られる。

 そうなれば街に被害がでる可能性が一気に高まる。


 「思ったよりも耐えますね」


 オルトラニーが少し感心したやうに言う。

 確かにオルトラニーの言う通り、彼らは耐えている。

 一番これに影響しているのはココナだろう。

 彼女のスキル〈聖剣創造〉により造られた無数の聖剣が蒼竜に次々の刺さり、かなりのダメージを与えているようだ。

 優秀とは聞いていたがここまでだとは思わなかった。


 「あれは聖剣か?」


 サーレイシャ様に尋ねられたので「はい」と頷きスキルによるものだと説明する。


 「なるほど、それは凄いスキルですね」


 「どうやら彼女のおかげで街は助かったらしい。

 どうするオルトラニー。わたしとやるか?」


 ココナの活躍もあって、蒼竜は地に倒れた。

 まさか倒せるとは思わなかった。


 「まさか古竜がやられるとは思っていませんでした。

 聖剣を生み出していた彼女は勇者かなにかなのですか?

 また勇者に邪魔されてしまうとは・・・今回はあのバカも居なかったのでこれだけ用意すれば良いと思っていたのですが、どうやら慢心だったようです。

 今回も私の負けということで、私はそろそろ撤退させていただきます。

 また来るのでその時こそは復習を果たして身さらすよ」


 「待て!逃がさんぞ!」


 オルトラニーが転移魔法で逃げようとするのをサーレイシャ様が阻止しようとする。

 転移魔法を発動させたのと同時に何かをこちらに投げてきた。

 黒い玉状のもので魔力を感じるので恐らくなにかの魔道具だろう。

 何だろうと手に取って見渡していると段々と魔力が高まっていく。


 「それを寄越せ!」


 サーレイシャ様が私の持っていた玉状の魔道具を取り上げる。

 何か焦った感じだ。


 「これは爆弾だ」


 何だろうと疑問に思っていた私にサーレイシャ様が答えてくれた。

 この玉状の魔道具――爆弾にはこの城を簡単に吹き飛ばせるぐらいの威力はあるらしい。

 サーレイシャ様は爆弾に何重にも結界をかけていき、暫くすると結界内で爆弾が爆発した。

 激しい轟音と共に内側から何枚か結界が壊れたが、全ての結界は壊れる事なく被害は出ることがなかった。


 「ありがとうこざいます。サーレイシャ様」


 「だが、まんまとオルトラニーには逃げられたな」


 爆弾はこの城を破壊するためではなく、サーレイシャ様に追跡されないためのものだったらしい。


 「大丈夫ですか!」


 兵士が勢いよく部屋に入ってきた。

 爆発音を聞いてきてそうだ。

 何もなかったと伝えて、魔物の件も報告を受ける。


 この事に関しては表向きは魔物の侵攻ということにしておいた。

 サーレイシャ様のことも秘密なうえ、[魔王]の仕業だと公表すると民たちも不安がるだろうとの判断だ。

 本当のことを話したのも学園長など一部のものたちだけだ。






 数日後、街全体で祝勝祭が行われた。

 今回の魔物侵攻はいつもと違い竜まで攻めてきたため、その咆哮で怯えていた民たちを安心させる目的と、[勇者]が誕生したため行われた。


 ココナが古竜との戦闘の際に称号を獲得したと言っていたので鑑定したところ本当に[勇者]になっていたらしい。

 古竜を倒すことが出来たのも彼女のお陰だろう。

 祝勝祭が終わった後に城に呼び出して今回の件で褒美を与えることにもなった。



 今回は何とかなったがオルトラニーはまた来ると言っていた。

 それがいつになるのかは分からないが、恐らく今回以上の何かを仕掛けてくるに違いない。

 サーレイシャ様が動ければいいが、今回のようになる可能性も高いので、サーレイシャ様が動くのは難しいだろう。


 それらのことを考えておく必要があるかもしれない。

 今回はココナたちに本当に感謝だ。

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