幕間 勇者誕生:後編(ココナ視点)
『称号[勇者]を所得した』という言葉が頭に鳴り響いた。
その直後、今までの戦闘での疲労感がどこかへ消えていった。
今のは世界の言葉?
まさか本当に私が[勇者]になれるなんて。
子供の頃、物語に出てくる勇者に憧れ、いつか私もなりたいと思っていた。
でも今は喜んでいる場合では無い。
目の前の蒼竜をなんとかしなくては。
さっきまでは時間稼ぎくらいはと思っていたが、[勇者]になった影響か分からないが、体力も魔力も回復している。
それどころか今までより多くはっている気もする。
さらには身体も軽く、スキルも今まで以上に使いこなせる気がしてきた。
これなら倒すことも出来るかもしれない。
「私が足止めする!その隙に街の中に避難しろ」
逃げ遅れたものたちに避難を促す。
成竜にも下級竜と上級竜の二酒類いる。
この蒼竜は気配からして上級竜の方だろう。
下級竜と上級竜ではかなり力の差があり、今までの私なら下級竜の方を撃退するのがやっとだったかもしれない。
しかし[勇者]になった今なら上級竜でも勝てる気がする。
油断はいけないが皆を救って私も絶対に生き延びる!
そう強気思えるようになった。
だが、私は絶望的な言葉を聞いてしまう。
「そいつは成竜なんかじゃない!
そいつは『古竜』だ!」
そんな言葉が私の耳に入ってきた。
古竜?
それは成竜よりも格上の存在。
[勇者]になった今でも勝ち目は薄いだろう。
だが逃げるわけにはいかない。
絶対に勝ってみせる!
震える心に鼓舞しながら剣を構える。
「やるなら俺も手伝うぜ」
そう私の隣に立ったのは武術部隊隊長のラースだった。
彼と横並びになりたつ。
彼が一緒に戦ってくれるなんてなんとも心強い。
「お互いに生き残ろう」と言葉を交わし蒼竜に突撃する。
私たちが突っ込んでいくと蒼竜はものすごい大きな声で咆哮する。
今までなら怯みそうなその咆哮も今の私なら大丈夫。
ラースは左から突っ込み、私は右から行く。
私たちめがけてブレスを吐いてきたが〈身体強化〉で強化された脚力で蒼竜の方に跳躍して躱す。
〈身体強化〉の効果も上がっており今までら遥かに強く強化されている。
蒼竜の方に躱した私は、蒼竜の首の付け根あたりに剣を振る。
だが剣は簡単に折れてしまった。
今使っていたのはウルフロードと戦っていた時のものと同じで、時間が来て壊れたあとの二本目だ。
こんな脆い剣では古竜の硬い鱗に傘をつける事なんてできない。
もっと強い聖剣を作らなくては駄目だ。
折れて普通の剣に戻ってしまた剣を材料に新たな聖剣を作る。
効果は切れ味と耐久力の強化に加えて所有者への身体強化。
前回と同じ魔力量で作ったが、性能は格段に上がっている。
時間も一日はもつだろう。
この新たな聖剣で蒼竜を斬る。
今度は鱗に傷をつけるどころか、血を流すことにも成功した。
今度はゴブリンロードたちと戦った時のように自動追尾型の聖剣を作る。
こちらもゴブリンロードとの戦闘の時と同じ魔力量だが切れ味と耐久力の強化が段違いで、数も5倍の50本まで増えている。
宙に舞う50本の聖剣が蒼竜目掛けて飛んでいく。
半分近くは落とされたが残りは蒼竜に突き刺さる。
GRUWWWWWWWW!!!
それが痛かったのかは分からないが悲鳴のように咆哮をあげた。
宙をまう聖剣が私の仕業と理解したのか私に狙いを定めてくる。
私が狙われている間は回避に専念して、ラースがメインで攻撃していく。
さすかの蒼竜も私たちの連携にはついてこれずにいて少しずつではあるが確実にダメージを、与えることができている。
さらに蒼竜に強力な魔法が着弾する。
この魔法は魔法部隊が街の外壁、つまりは結界内から放たれたものだった。
これも蒼竜にダメージを与え、蒼竜が怒ったように咆哮する。
いける。
これなら勝てる。
そう思った直後、蒼竜が大きく口を開き魔力が集まっていく。
これはブレスの兆候だ。
ブレスが来る方を予想し射程から外れたのだが、蒼竜の吐いたブレスはブレスというより光線といった方が正しい感じのもので魔法部隊の方へと放たれた。
光線は結界に防がれ被害こそ出ていないものの、今まで透明だった結界にヒビが入ったような模様が現れた。
あの光線を後何回も耐えるのは厳しそうだ。
そうなるとこちらにできるだけ注意を引かなくてはならない。
〈聖剣創造〉で宙を舞う聖剣をさらに100本造りだし蒼竜に追撃させる。
運がよかったのかそのうちの一本が蒼竜の目に刺さり蒼竜は今まで以上にに大きな咆哮をあげた。
このチャンスを逃すまいと私とラースは一気に突撃するが、身体を半回転させた蒼竜の尻尾がラースに当たり、ラースは勢いよく吹き飛ばされしばらく宙をまった後、地面に落ち地面を転がっていった。
かなりの衝撃だ。彼は生きているだろうか。
心配だが他人の心配ばかりしていられない。
再び魔法部隊からの強力な魔法が蒼竜に着弾しダメージを与え、私も隙を狙って攻撃していく。
しばらくそんな攻防が続き、やっと蒼竜の方にも疲労がみえてきた。
動きは鈍くなっているし、光線のようなブレスも吐かないようだ。
今しかない!
〈聖剣創造〉を発動させ新たな政権を造り出す。
新たに造る聖剣は刃渡り3メートルを超える片刃の大剣で、追加効果も切れ味を最高まで高めたものだ。
耐久力はあまり無いため、おそらく一太刀で壊れるだろうが、魔力を大量に込めたのでこの一撃で終わらせる。
その決意とともに聖剣を蒼竜の首めがけて振り下ろす。
振り下ろされた聖剣は見事に首を斬り落とすことに成功し首と胴体が分断されて地に落ちた。
勝った。
さすがの古竜も首を落とされては生きていけないだろう。
その証拠に蒼竜もぴくりとも動くことはない。
本当に勝ったんだ。
心の中を喜びの感情が埋めていくのがわかる。
だが身体の力が一気に抜け、ばたんと地面に倒れ意識を失った。
目がさめるとベッドの上だった。
まさか、今のは、夢?
いや違う。
私が[勇者]になったのは事実だ。
なんとなく[勇者]の称号を持っているのがわかる。
「ココナ!目が覚めたか!」
私の元に駆け寄ったのは学園長だった。
蒼竜との戦いで結界が何度も壊れそうになっていたが、学園長のおかげで壊れるには至らなかった。
学園長の大量の魔力でなければ成しえないことだろう。
さすがは〈大賢者〉。
「ココナ、お主のおかげでこの街は無事じゃ」
学園長が称賛してくれるが私一人ではあの蒼竜に負けていただろう。
一緒に戦ってくれたラースのおかげだ。
そうだっ!
「ラースは無事ですか!」
蒼竜に吹き飛ばされたのを思い出し学園長に問う。
「ああ、大丈夫・・・とは言い難いが、とにかく命に別状はない」
そう言って隣のベッドを指さした。
そこにはラースが寝ていて包帯が大量に巻かれているものの気持ちよさそうに寝息をたてながら寝ていた。
よかった。
彼も生きていて。
「本当じゃ・・・」
特にひどい怪我などしていなかった私はすぐに退院することができ、退院した私はあの戦いで[勇者]になったことを学園長に話した。
鑑定板で調べ、そこには確かに[勇者]の文字が浮かびあがる。
「いつかなるじゃろうとは思っておったがこんなに早くなるとは思わなかったぞ」
私が[勇者]になったことは国に報告され、国にも正式に[勇者]であると認められ、今回の事件で誕生した新たな[勇者]といて街中に発表された。
「「「新たな英雄、勇者ココナ様にかんぱーい!!」」」
発表の数日後、大きな祭りが開かれることとなった。
今回の事件は今までの魔物の侵攻と違い、竜、それも古竜までもが攻めてきたためこの街にも被害が出ると思っていた住人も多くいたようだ。
だが街への被害は一切でず、新たな勇者(私だが)が誕生したことにより街中が盛り上がり祭りが開かれることになった。
犠牲者も予想していたよりは遥かに少ないが出ていないわけではない。
なのでその名誉ある犠牲者たちへの感謝も含まれている。
私はパレードのゴンドラに乗せられ、派手な衣装まで着せられて街中を周ることになっている。
こんな目立つのはさすがに恥ずかしい。
顔が赤くなっているかもしれない。
そう考えると尚更恥ずかしくなっていきだんだんと頬の温度が上がっていく。
「勇者さまー!」
子供たちがゴンドラの上にいる私に手を振ってくるので振り返す。
笑顔で返しているつもりだが、果たして私は笑えているだろうか。
あー、恥ずかしい!
早くここから下ろしてくれ!
ようやく解放された。
ゴンドラから下ろされた今でも「勇者さまー」と私に手を振ってくるものは多くいるが、あんなに担がれていないのでさっきより遥かにマシだ。今度はちゃんと笑顔で返せただろう。
「おー、勇者様じゃないかー」
そう気軽に声を掛けてきたのは王国武術部隊団長のラースだった。
「あなた怪我は大丈夫なの?」
私が退院するときは動くのも辛そうだったのに今は何とも無いようにみえる。
「おう!当たり前だろ!
俺は武術部隊の隊長なんだぜ、あれくらい寝てれば直ぐ治る!」
なんて頑丈な身体。
それとも称号のおかげかしら?
私も[勇者]を得てから身体能力が上がっているし。
「そう。ならお祝いに一杯どう?」
「よしっ!そうだな!一杯いくか!」
彼と飲んでいたらそこに彼の奥さんがやってくる。
「なに病院から抜け出してるのよ!
それに仕事も終わって無いでしょ!」
彼の奥さんは彼の秘書的なこともしている。
というか・・・退院したんじゃなくて・・・抜け出してきたのか・・・。
抜け出してきたのを知らなかったとはいえ酒なんか飲ませてしまったことに誤ったのだが、「この人が悪いだけだからココナさんは気にしないで」と笑顔で返してくれ、ラースを引きずるように連れて行ってしまった。
ラースは「飲ませろー」と叫んでいたが奥さんは完全に無視だった。
なにやってんだあのオッサン・・・
あのときはあんなに頼れたのに普段はこれだからな・・・
祭りは夜まで行われた。
祭りが終わった後、王城に行く。
なんでも国王陛下自ら今回の褒美の品をくれるそうだ。
謁見室に入り国王隷下の前で跪く。
「此度の件、大義であった。
褒美にこれを授ける」
感謝を述べて褒美の品を受け取る。
褒美の品は剣だった。
その剣はそこらにあるものとは比較にできない名剣だろうことが一眼でわかる。
〈聖剣創造〉は素材とする剣の性能に上書きされる形で造られるので、今度からはこれをベースに造れば今まで以上の聖剣ができるだるう。
これはすごく嬉しい。
国王陛下からいただいたこの剣にかけてこれからも[勇者]に相応しい人間になろう。




