幕間 勇者誕生:前編(ココナ視点)
私の名前はココナ。
[大賢者]マーリウスにスカウトされ数年前にこの学園――ラーラシア学園の教師として働いている。
私もここの卒業生で学園を主席として卒業している。
これも生まれ持つスキルのおかげだろう。
私が生まれ持ったスキルは二つで〈身体強化〉と〈聖剣創造〉。
〈身体強化〉は大して珍しいものではなく、同級生のものにも数名いたと思う。
だが、〈聖剣創造〉は聞いたこともないスキルだった。
自分の持つスキルは物心ついた時に大抵理解する。
稀に自分の持つスキルが分からないことがあるらしいが私は自分のスキルを理解していた。
〈聖剣創造〉というスキルはその名の通り「聖剣」を造り出すことのできるスキルだ。
このスキルを親や周りのものに伝えると皆がすごいと褒めてくれた。
将来は[勇者]になるかもしれないと。
教師として学園で生徒たちに授業を教えていたある日、警報か鳴り響いた。
この警報はこの街――王都になんらかの災害が迫っている時になるものだ。
警報音が流れ、それとともに災害が何なのかのアナウンスが入った。
アナウンスの内容はこの街に大量の魔物が迫っているというものだった。
それを聞いた私は少し安心する。
何があるのかと不安そうにしていた生徒たちも少し安心の顔色をみせていた。
この街の近くには巨大な森があり、そこから大量の魔物が攻めてくることが稀にある。
もちろんそれに対する準備も万全にされている。
数千の魔物が来ても大丈夫だろう。
対策とはこの街全体を覆う結界だ。
この結界は学園長が張ったと言われている。
[大賢者]である学園長が張ったんだ、そう簡単に壊せるものではない。
大丈夫だとは思うがこういった際は生徒はシェルターに避難することになっている。
なので私も生徒たちを避難させようと思ったのだが、教師が一人やってきて学園長が読んでいるとかで私と生徒の誘導を交代した。
私は生徒たちを頼み学園長室にむかう。
ノックをして入った部屋には何人かの教師が集められていた。
集められた教師たちは皆、実力のあるものばかりで、その中に一人混ざって騎士らしき格好の男もいた。
もしかしたら何か不味い状況なのかもしれない。
どうやら私が最後だったらしく、学園長の「皆集まったな」という言葉から説明は始まった。
「先程のアナウンスを聞いて皆も知っていると思うがこの街に大量の魔物が攻めてきたようじゃ。
それだけなら稀にあることしゃし、城の騎士だけで十分なんじゃが、今回はどうやらそうはいかんらしい。
なんでも数が一万をかるく超えているようなんしゃ」
学園長の言葉に部屋に集まった教師たちが驚きの顔を見せる。
一万を超える魔物。
たしかにいまの結界のままでは結界を突破されめしまうかもしれない。
だが、学園長がこの場にいるのなら結果の強化は行える。
なので結界の方は大丈夫だろう。
しかし、結界だけがあっても魔物がこの街に入ってこられなくだけで、結界の外に大量の魔物が貯まることになる。
普段はこういった場合王国の騎士が対象するのだが、今回は数が多すぎる。
つまりは、
「私たちをここに呼んだのは結界の外に溜まる魔物の駆除というわけですね」
「ああ、大体はそうじゃ」
やはりそうだったか。
面倒な話ではあるがやらなくてはいけない事だ。
命の危険ももちろんあるが、ここには優秀な治癒魔法の使い手もいるし、冒険者ギルドにも話はいっているだろうから、油断をしないかぎり大丈夫だろう、。
ここにいる皆もそう思ったのかそれぞれにやる気のある顔を見せている。
だが、学園長の話はここまでではなかった。
「それから魔物の中に『ロード』や『竜種』も確認されているらしいんじゃ」
学園長の言葉に皆が絶句する。
ロード。
ゴブリンロードやウルフロードといったそれぞれの魔物の最上位にあたるもの。
種類によって強さは違うが、普通の魔物に比べればどれも凶悪なものばかりだ。
それだけならここにいる者たちだけでも余裕を持って対処できるだろう。
だが、それに加えて万を超える魔物。
さらには竜種までいるという。
確認された竜種が何かまでは分からないらしいが、最低格のワイバーンでもかなりやっかいだ。
万の数を超える魔物とロードの魔物と戦い、さらに空からの攻撃も気にしなければならない。
果たしてこんな勝ち目の無さそうな戦いに勝てるのだろうか。
いったい何故そんな凶悪な魔物が一斉に攻めてくるのか、何者かの意図的なものを感じるが今はそんな事を考えている場合ではない。
この戦い、勝てたとしても、確実に犠牲はでる。
それも、少なくない、犠牲だ。
「すまんがワシは結界の強化で駆除の方にはいけん。
皆には命をかけてもらうことになるが、この街を守るためじゃ、悪が頼む」
学園長が頭をさげる。
はぁ〜。
これは死ぬかもしれないけど、行くしか無いわね。
そう思ったのは私だけでなく、この部屋にいる皆が「任せろ」といった感じで学園長の言葉に頷いていた。
私たちは街の外に出て魔物の軍勢を待ち構えていた。
魔物は街の西側にある森からだけでなく、南側の森と隣接したあたりからも攻めてくるようだ。
確認された竜種の種類の特定がおわり、どうやらワイバーンらしい。
数は四体もいるようだが、最低格のワイバーンでよかった。
これが成竜クラスだったら、私たちには勝ち目がなかっただろう。
ロードはゴブリンロードが二体とオークロード一体、ウルフロード一体の計四体だそうだ。
珍しいロードがこんなにいるなんていったいどうなっているんだ。
残りの魔物はゴブリンやオーク、ウルフばかりらしい。
飛行型はワイバーンのみなのでワイバーンさえ何とかすれば、空からの奇襲の危険はかなり減るだろう。
それらに対しこちらは、
王国騎士が約3000名、冒険者約1000名に私たち学園の教師を入れた人数だ。
学園長がこの場にいてくれれば心強いのだが、あの人には結界の強化という大事な役目がある。
結界を突破されれば街に大量の魔物が流れ込むので仕方ない。
ここにいる者たちで何とかするしかないのだ。
王国騎士の中には魔法使いの部隊も入っており、その部隊の隊長は[賢者]の称号を持つ凄腕だと言われているものだ。
武術部隊の隊長も[槍豪]の称号を持つ凄腕。
どちらの部隊にも活躍が期待ができるだろう。
冒険者たちの中には上位冒険者の『龍の牙』というパーティがいる。
彼らは前衛三人、後衛三人のパーティで、彼らだけで下級だが成竜を討伐したという功績を持つパーティだ。
他の冒険者たちも『龍の牙』ほどではないがすごい功績を残したものたちを中心に集められているようだ。
魔物の軍勢が攻めてくるまで、それぞれのリーダー格同士が集まり作戦会議が開かれた。
作戦としてはまず最初にやってくるであろうウルフロード中心のウルフ系の魔物たちに魔法を使えるものが、範囲魔法で数を出来るだけ減らす。
それから腕の立つ者はそれぞれ役割分担された魔物の対処。
他はそれのサポートと決まった。
ウルフロードはできれば他のロードが来るまでに倒すことになり、私もそこに加わることになった。
ウルフロードは速い。
単純な攻撃なら簡単に避けられてしまう。
なので数名で協力して連携を取り合い一気に畳みかけるということになった。
それからも様々な案を出していき、一人でも多く生き残れるようにと、作戦を決めていった。
ウルフロードの姿が見えた。
速い。
他の足の速い魔物を引き連れてきたようだが、ウルフロードはまだまだ速く動けそうな感じがする。
魔法使いたちが一斉に魔法を放つ。
それぞれの魔法が重なり合い今までに見たことのない威力を出している。
これでウルフロードにも大量のダメージを与えられると思っていたのだが、ウルフロードはさらに加速して、こちら側に進んで魔法を避けた。
っ、なんて速さ!
予想外の速さに一瞬身を固めるが攻撃に転じようと体を必死に動かす。
私は手に持つ剣に〈聖剣創造〉を発毛させ、聖剣を造りあげる。
何も無い所からでも作れるのだが、素材などを使った方がコストは減るので今回は剣を素材にした。
聖剣の性能は切れ味強化。さらに所有者に速度を上げる効果までつけた。
コストはそれなりに掛かるが、一時間はこの状態でを保てるだろう。
聖剣の効果で加速し、さらに〈身体強化〉も重ねてさらに加速する。
これでもウルフロードの動きより遥かに遅いが、他の人よりはかなり速く動けるようになったので、私がメインで攻撃をし、皆がサポートということになっている。
高速で接近したウルフロードに魔法が飛ぶ。
魔法部隊長の放った魔法で、ウルフロードに軽く避けられたものの、それは爆発しウルフロードを一瞬怯ませることに成功した。
その一瞬隙を逃さず聖剣を振るう。
聖剣は命中したものの、わずかにダメージを与えるだけとなった。
だがこれでいい。
こうして少しずつ相手の体力を削っていき、隙ができた所に強力な技を叩き込む。
私の攻撃が一番効いてるのか狙いを私にしたウルフロードが私に襲ってくるが、聖剣で攻撃をいなし、隙を作っては他の者が攻撃する。
ウルフロードとの交戦中、他の速い魔物がきたが予定通りそれぞれの役割を果たし、他のロードが来る前にウルフロードを倒すことができた。
ウルフロードを倒したからといって休んではいられない。
今も魔物たちは次々にやってくる。
それからしばらく魔物を倒していると、ゴブリンロード、オークロードがやってきた。
くっ、まさか三体同時にくるとは。
内心文句を吐きつつロードたちと対峙する。
魔力回復薬を飲み〈聖剣創造〉を発動する。
今度は無から造った魔力の塊の聖剣で、それは私の周りに10本浮いている。
それを魔物めがけ思い切り放つ。
放たれた聖剣は雑魚の魔物たちを蹂躙していく。私の操作のいらない自動追尾機能付きだ。
これで少しはロードに集中できるだろう。
前衛は私と他の教師、武術部隊団長を中心に攻撃していく。
思ったよりかなり優勢に戦えている。
これなら犠牲になるものも思ったより少ないかもしれない。
そんなとき空から4体のワイバーンがやってきた。
くそっ!
そめてロードを倒してから来てくれよ!
そう思いながらも皆の連携で思った以上に対処できている。
ワイバーンは「龍の牙」を中心に対処してくれている。
いける!
勝てるぞ!
ワイバーンを優先して倒し、残りはオークロードと雑魚の魔物だとなった。
オークロードもあと少しで倒せる。
皆の体力も限界に近いがオークロードさえ倒して仕舞えばなんとかなるだろう。
そして遂にオークロードも倒れた。
後は雑魚のみ。
思ったより犠牲を少なくすんだ。
皆も喜びを顔に浮かべながら雑魚処理に転じている。
そんな時、
GRUWWWWWWWWWW!
大きな咆哮が響きわたった。
「なんだまたワイバーンか?」
いや、違う。
今の咆哮は、
「違う!ドラゴンだ!
ワイバーンなんかの最低格なんかじゃない!成竜だ!」
そう成竜。
ワイバーンとは比較できない強さを持つ存在。
こんなもの万全の状態でまかなり厳しいのに今の状態で相手にしないといけないとは・・・
「もうだめだー」
悲鳴をあげて街の中に逃げていくものも少なくは無い。
私も逃げようとした。
街の中に入れば結界がある。
結界が成竜の攻撃にどこまで耐えられるかわからない。
だが、しばらくすれば今よりは動ける。
他のものもしばらく休めば体力は回復する。
それからでも戦うのは遅くない、と、街に逃げ込もうとした。
「龍の牙」もワイバーンとの戦闘でかなり消耗している。彼らに今から成竜と戦う気力は残ってないだろう。
だが私は見てしまった。
怪我をおい街まで戻れない人たちを。
そのものたちを治療する人たちを。
その中には学園で働く同僚の顔もある。
見なければよかったかもしれない。
見なければ、街に逃げ込めていたかもしれない。
だが、見てしまった。
見てしまったからには見過ごせない。
そう思った私の足は街の方ではなく竜の方に向いていた。
ああ、私はここで死ぬかもしれない。
だけど、皆が逃げる時間だけは稼いでみせる。
そう強く決意し全長10メートルを超える蒼い竜に向き合った。
そして頭の中に響き渡る言葉、それは世界からの言葉。
その言葉は『称号[勇者]を所得した』という言葉だった。




