呪い(クレア視点)
わたくしは「呪い」を持って生まれてきました。
正確には「呪い」ではありませんが、こんなモノは呪いと同じです。
[魔王殺し]。
それがわたくしが生まれ持ってきた称号です。
王女として生まれてきたわたくしは、生まれて直ぐ、鑑定板で調べられたそうです。
王族に生まれた者は皆、生まれた頃に調べるそうです。
そこで、わたくしに[魔王殺し]の称号があるとわかりました。
それを見た皆は喜んだそうです。
生まれながらにして称号持ち。
それも[魔王殺し]という、聞いたこともないような特別なもの。
将来、何かすごい事を成し遂げる証では?
悪い魔王を倒して[勇者]になるのでは?
そんな期待と共に生まれててきました。
しかし、そんな皆の期待に応える事はできません。
それどころか、その強大な力を制御することはできず、わたくしの命を削っていくばかりです。
どんな治療師にみせても、この「呪い」は解けませんでした。
それもそうです。
これは本当は「呪い」ではなく、ただわたくしが、力を制御出来ていないだけなのですから。
幸いだったのは、この力が他の人には危害を与えなかった事です。
そして、こんなわたくしですが、家族はわたくしを愛してくれました。
皆からの期待に全く答えることが出来なかったわたくしをです。
それがとても嬉しかったです。
それだけがわたくしの人生の喜びでした。
14歳になりました。
未だ、力は制御できずにいます。
もう、わたくしは長くないでしょう。
そう感じるのです。
無理を言って学園に通うことになりました。
残された時間何かしたいと思ったからです。
わたくしには友達がいません。
暖かく優しい家族や使用人はいましたが、そういった存在の人が一人もいませんでした。
なので一人でもと、
心から笑い合えるような友だちと呼べる人をと、
何度もお父様に頼み込んで学園に来ました。
最初、ルームメイトの方もお父様が決めた人にすると言ってましたが断りました。
そういう人でなく、偶然同じになって、わたくしとも身分の差をなく話会えるような人がよかったからです。
入学試験も無事、合格となり、寮の自分の部屋からへむかいます。
お父様が決めたような人じゃないかと、少し不安な気持ちで部屋の扉を開けます。
そこに二人の少女がいました。
部屋は二人部屋です。
どっちの子がルームメイトの子かと思いながら、まずは挨拶をします。
ルームメイトの子はアンズという子でした。
話を聞いていると、平民だそうで、お父様の決めたような人でないことに安心します。
そしてもう一人、白銀色の髪の8歳くらい美少女。
彼女を見たとき何か胸にドキリとくるものがありました。
何でしょう?
こんな感覚は初めてです。
ルーフェス・クフフルと名乗っていましたが、クフフルなんて家名聞いたことがありません。
この国のものではないてしょう。
どこか他の国の貴族でしょうか?
翌日、ココナ先生に呼び出されて、ルーフェスさんのことを聞きました。
なんでも彼女は[魔王]だそうです。
そんな彼女がわたくしに近づいたのも何か目的があるかもしれないとココナ先生は仰っていましたが、わたくしにはそうはみえません。
昨日、彼女と出会ってから、何かずっと気になって、彼女のことを見ていました。
ですが、彼女に何か目的があるようには全く見えません。
だからでしょうか。
ココナ先生に注意しろと言われたのに、そのことを本人に言ったのです。
本当ならもっと警戒しておくべきなのでしょう。
わたくしは王女。
わたくしを利用して何か良からぬことを考えていると思っても不思議ではありません。
でも、わたくしには何故か彼女を疑う事が出来ませんでした。
彼女と出会ったのを運命のように感じ、彼女はわたくしの救世主に感じたのです。
わたくしが[魔王殺し]の称号を持っているから、[魔王]である彼女に反応したのかとも思いましたが、何かそうでは無いような気がします。
だから、わたくしはルーファスさんを信じ、あの方——サーレイシャ様に会ってみないかと提案したのです。
サーレイシャ様はこの国の守護者様です。
何百年も前に悪い魔王にこの国が滅ぼされそうになったところを、勇者様と共に救ってくださいました。
表向きは勇者様一人がこの国を救ったとなっている今も、多くの人はそう思っていますが、王族や一部のものには、真実が語り継がれており、サーレイシャ様もこの国に守護者として、居続けてくれています。
サーレイシャ様は4000年前の大戦前から生き続けていると仰っていらしたので、何かわかるかもと思ったからです。
そしてなにより、そうするのが正しい事と理由のない確信を抱いたからです。
学園が終わりルーフェスさんと城は帰ることになりました。
突然のことだったので、馬車などはありません。
アンズさんも同行することになりました。
本当はサーレイシャ様のことは極秘なので、あまり知られたく無かったのですが、ルーフェスさんがアンズさんに話してしまったため、知ってしまったなら、もういいかと思い、同行を許可しました。
アンズさんは申し訳なさそうにしていましたが、これは別にアンズさんのせいでは一切ないのでそんな顔しなくてもいいと思います。
むしろルーフェスさんが極秘事項をさらっと喋ったことに反省して欲しいです。
そう思ってルーフェスさんに視線を向けましたが、「何?」って顔でこっち見るだけです。
はぁー
思わずため息が出そうです。
わたくしが彼女に感じた何かは気のせいなのでしょか?
少し不安に思いましたが、未だ彼女への何かは消えていません。
なので、この何かを信じます。
もしかしたら、わたくしの「呪い」をなんとかしてくれるかも。
そんな淡い期待を胸に秘めながら、わたくしはサーレイシャ様のいる部屋の扉を開くのでした。




