ルーフェスの目的(ココナ視点)
すごく思い上がった子がきた。
目の前にいるのは8歳くらいの少女。
白銀色の髪でとても可愛らしい、将来はすごい美人になるであろう美少女だ。
だが、自分の力を過信しているように感じる。
学園の入学試験、それの実技の模擬戦の相手として私は選ばれた。
受験生たちは私を見て驚いた反応をしている。
まぁ、それはそうだろう。
自分でいうのもなんだが、私は有名人だ。
過去にこの街を救った際、[勇者]の称号を得て英雄となった。
そんな私にこの子は魔法が得意だからと武器もなしに模擬戦するという。
その歳で魔法が得意というのは本当なら確かにすごい事だろう。
だけど思い上がりは良くない。
だからここは少し痛い目を見て、自分がどれだけ思い上がっているのかを分からせようと、少し強めに踏み込んで、剣を振り下ろした。
当然当たると思われた木剣は、魔法でできた壁に阻まれてしまい、ルーフェスと名乗った少女に木剣が当たる事はなかった。
まさか今のを防ぐとは・・・確かに、その年で今の魔法の腕なら慢心しても仕方ないかもしれない。
さっき私が「威圧」を込めて受験生たちを黙らせたときも、彼女は少しビクッとしただけで、他の子たちよりは全然驚いていなかった。
もしかしたら彼女には凄い師がついているのかもしれない。
ならここは、その思い上がりを正すためにも、少し本気を出させてもらおう。
そう思い〈身体強化〉を発動させ、さっきよりも速い速度で木剣を振る。
しかし、それも塞がれてしまった。
それも、さっきより余裕のある感じで、さらに、魔法による反撃までしてきた。
っ!
ここまでとは・・・
彼女の魔法に少し驚いていると、彼女を見失ってしまった。
どこにっ!?
そう思った直後、背中に強い衝撃を感じ、その衝撃によって正面の壁に勢いよく叩きつけられ、私は気を失った。
目がさめると、そこは医務室だった。
「大丈夫ですか?ココナ先生」
「えぇ、もう、大丈夫よ」
私のことを心配してくれた医務教員の先生に大丈夫なことを伝える。
そうか、私はあの美少女・・・ルーフェスにやられたのね・・・。
「ココナ先生、あのルーフェスという少女について、話があるんですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、私もあの子の事は気になるので、大丈夫ですよ」
私たちは場所を変えて、ルーフェスという少女について話すことにした。
この場には、ルーフェスから話を聞いたという教員が数人と学園長までもが集まっている。
「まず私たちが彼女から聞いた話をします。
彼女は自分のことを[魔王]だと、言っていました」
[魔王]。
それが本当なら、油断していたとはいえ[勇者]である私が簡単にやられたのにも頷ける。
「それは、本当なのか?」
学園長が話を聞いた教員に問う。
「はい、彼女が持っていた鑑定板で確認しました」
鑑定板?
そんな貴重なものを彼女がもっていた?
まぁ、魔王なら持っていてもおかしくないか?
学園長は鑑定板を持っていたことに驚いているようだ。
確かに、あれは貴重なもので簡単に手に入るモノではないし、魔王でも待っている人は限られているはずだ。
「鑑定板が本物というのも確認しています」
と、いうことは、彼女は本当に[魔王]なのだろう。
しかし、ルーフェスなんて名前聞いたことないが、
「彼女は4000年前に封印されいて、先日、出てきたと言っていました」
4000年前。
大戦があった時期。
確かに大戦前の記録はほとんどない。
本当に4000年前に封印されていたのなら、「ルーフェス」という名前に聞き覚えがなくても頷ける。
でも、怪しすぎる。
「学園長、どうしますか?
魔王であることに間違いはありません。
筆記試験の方も、歴史の部分以外は素晴らしい回答がされています。
合格基準には達していますが・・・」
「うむ、そうじゃなぁ、そのルーフェスというものの真意がわからんからのぅ。
魔王として実力もある。なのに何故、学園に入学しようとしておるか」
そう、入学なんてしなくても、彼女なら色んな道があるはずだ。
でも、入学しようとしている。
目的は?
何かをたくらんでいるとしか思えない。
それだと気になることも出てくる。
何故、[魔王]だと明かしたのか。
何かをするにしても隠しておいた方が都合がいいはず。
「目的はわからんが、取り敢えずは合格でいいじゃろう」
「いいんですか、学園長!?」
「うむ、目的が分からん以上、目の届く所に置いておくのが一番じゃろう。
ここには、ワシもココナもいるし、他にも優秀な者はおるんじゃしな」
学園長の言うことにも一理ある。
確かに目的がわかるまで泳がせておくのがいいかも知れない。
「わかりました。
他のものには混乱を招かないためにも極秘にしておくので宜しいでしょうか?」
「そうじゃな、その方がいいかもしれんな。
では、ここでの話は、極秘事項とする。
念のため国にも伝えといたほうが良いかもしれんから、ワシが王城へ行って伝えておこう」
こうしてこの場は解散となった。
次の日、私が担任をする一年のAクラスへ行く。
このクラスには例のルーフェスがいるクラスだ。
[魔王]には[勇者]だろうということで、私が監視役となった。
面倒な話だが、彼女が何かをしても対処できるのは確かなのでしかない。
彼女を見ていると、何も考えていないように見えるが油断はいけない。
寝てる・・・。
今は入学式。学園長が話をしている。
新入生はもちろんのこと、教員も学園長の話に聞き入っている。
なのに、彼女・・・ルーフェスはスゥスゥと気持ちよさそうに寝ている。
ありえない。
学園長は[大賢者]としてその名をこの国だけでなく、他国にまで轟かせてきた人物。
そんな学園長に憧れて学園に入学してくるものも少なくない。
学園長の話は誰が聞いても、心にくる話だ。
彼女の目的は[大賢者]である学園長にあるのではとも考えたが、全く学園長に興味を持っていない。
気持ちよさそうに寝ている姿は、演技をしているようには見えない。
学園長は関係ないということだろうか。
そうなると目的は 、今年入学してくる、クレア王女にあるのかもしれない。
彼女も私のクラス。
二人を同じクラスにするのは危険だったかもしれないわね。
ルーフェスはアンズととても仲が良いようだ。
それにアンズも[魔王]のことを知っているらしい。
アンズも何か関係があるのかと思ったが、彼女は近くの村の出身でつい最近、ルーフェスと出会ったばかりらしいので、関係ないかもしれない。
ルーフェスに[魔王]である事を簡単に言わないようにと言っておく。
一応言っておいて良かった。
この子、全然隠す気とか無かったみたい。
この子を見てると何かを企んでいるとかは全然無さそうだから気をつけないと。
反応とかは普通の子供だから。
それから次の日。
教室に入った私はルーフェスたちを見て驚いた。
ルーフェスとクレア王女が仲良く話していたからだ。
どうして?
やっぱり、ルーフェスの目的はクレア王女に関係がある?
なにも考えていないんじゃないかと思いかけていたけど、クレア王女とこんなに早く接触するなんて、やっぱりなにかあるのかしら?
ここはクレア王女にも事情を説明して、本人にも気をつけてもらう必要があるかもしれない。
私たちだって、常に監視してれるわけじゃないしね。
そう考え、それなら出来るだけ早い方が良いと思い、クレア王女たちに話かけた。