プロローグ4
「では、ようやく本題。長くなりそうだ。ううんと、天音くん。君は死んでしまいました。これはわかるね?」
「いえ、正直全く分からないんですけど……」
「おおそうかい。じゃあそこからだな。君はね、殺されたんだよ。このルナにね」
「……なんで、殺されなきゃいけないんですか」
「ああ怒らないで怒らないで、ね? 君はこの世界にいちゃいけない存在だったんだよ」
「いちゃいけない存在?」
「そうだよ? もし君がこのまま地球上で暮らしていたら、君のいた世界が滅んでいたかもしれない」
「なっ……」
「ちょっと誇張しちゃった言い方だけどね。でも、君は君のいた世界にとって、君は毒だったんだ」
「……それは、どうしてですか?」
「それはね、君が普通の人間には持っていない強大で特殊な力を持っているからなんだ」
「特殊な……力……」
「そう。でもね、君だけじゃないんだよ? 兄弟で特殊な力を持っている人間たちは。私は分かりやすくそういった存在を【イレギュラー】と呼んでいるがね。でね、そのイレギュラーをそのままこの世界にのさばらせるわけにはいかない。世界の均衡・バランスを一人で壊しちゃうからね。だから、そのイレギュラーを世界から取り除いてね、別の異世界に転生・転移させちゃうんだ。聞いたことないかい?異世界転生・異世界転移って」
「……聞いたことあります。でも、その異世界なんとかって、チート能力がもらえるとかって聞いたことがあるんですけど……」
「チート能力? ははあ、今の世界ではそんな広まり方をしているのかい。まったく、人間ってやつは……いつの時代も神話や伝承の中で真実が歪んで伝わっていくもんだよ」
「じゃあ、違うんですか」
「違うね。正確じゃない。確かに異世界に行く人間はみんなチートとも言えそうな力を持っているけど……別に私が授けたものじゃない。彼らが持って生まれた力そのものだよ」
「……そうなんですか」
「そう。でもね、そんなイレギュラーが普通の人間の世界にいちゃいけないんだ。だからさ、そういうイレギュラーは神様である私が責任を持って取り除いているのさ。君もその取り除かれた一人だ」
「……そんな簡単に取り除いて、その人たちは怒らないんですか」
「ん? ああ、彼らイレギュラーにはある共通点があってね。あまり自分のいた世界に愛着・帰属意識がない、って特徴があるんだ。自分がいた元の世界に戻りたがらないんだよ。君は怒っているようだけど、かなり珍しいかな」
「……」
「でもね。流石に人の人生を簡単に取り除いてはいおしまい、ってのも罪悪感があってね。転生や転移といった形で別の世界で暮らしてもらうことにしているんだ」
「神様にも罪悪感ってあるんですね」
「当たり前だろ? 私に似せて人間を作ったんだから、私が持っているものは君たちも持っているはずさ」
「そうですか。でも、そのイレギュラーと呼ばれる人達を異世界に送ってしまったら、その異世界も危険なんじゃないんですか」
「おお! 君、頭いいんだねえ! その通りさ。よく他の世界の神様とも議論になるんだよ。危険じゃないかって」
「他の、神様……」
「そうさ。だからね、私たち神様は、転生・転移させるときに、ある条件を布いたのさ」
「条件?」
「そう、条件。転生・転移させるには、その送り先の異世界が、【英雄】を必要としている世界である、ってことだ」
「えい、ゆう?」
「そう、英雄。ちょっと専門的な話になっちゃうけど、頑張って聞いてね。世界って、最初から成熟しているわけじゃないんだ。そして、世界には、神様の存在意義である人間が必要なんだ」
「存在意義?」
「その話はまたいつか。でね、世界を成熟させるには、人間が必要なんだ。人間が繁栄して、歴史を築いて、宗教を作り、人間に神様の存在を認めてもらう。それが神様たちが世界を作る意味なんだ」
「人間に、神の存在を認めさせる?」
「そう、人間に認めてもらうとどうなるかわかるかい? それはね、認めてもらった世界には、神様が降りてくることができるんだ。神様がいた天空から、人間のいる地上にね。その成熟した世界に住むことによって、神様はようやく一人前になれるのさ」
「つまり、神が世界を作る理由は、一人前の神になるため?」
「その通り! 君、本っ当に頭がいいんだねぇ! 素晴らしい。君がいた世界を作った神様として誇らしいよ!」
「それで、何で英雄が必要なんですか?」
「褒めてあげたのに……。まあいい、成熟した世界には、歴史を築く人間が必要。だけど、その歴史にはとても長い時間が必要なんだ。人間が石器からスマホを持つまでにどれくらいの時間がかかるか、君も学校の授業で習っただろう? その歴史の流れの愚鈍さを解消させる存在、それが、英雄だ」
「神様にも長いって感じるものなんですね」
「当り前さ。私も君のいた世界を作るのに、どれだけの時間を費やしたことか!」
「はい」
「はい、って……。こほん、英雄は、歴史・時代の流れを促進させることができるんだ。もちろん、君のいた世界にも、異世界から転生・転移してきた英雄がたくさんいたんだぜ?」
「ええっ、本当ですか⁉ でも、そんな英雄、一人も知りませんが……」
「おいおい、人間は歴史の授業を疎かにし過ぎではないかい? かつてはいたのさ、英雄が。思い出せるかい、いただろう、まるで別世界からやってきたような力を持った人間が、何人も」
「……?」
「君のいた世界は、多くは戦争によって人間の技術が発展してきた。そうだろ? その戦争の中で、沢山の英雄たちが活躍していたんだ。英雄が分かりにくいなら、偉人、天才と言いかえてもいい。たくさんの偉人や天才たちが、時には発明をして、時には人を殺して、戦争を活性化させた。ほら、思い当たるような人物はいるかい?」
「うーん、アインシュタインとか?」
「アインシュタイン! まあ、その人間が異世界からやってきた英雄かは私は覚えていないが、とにかくそのアインシュタインのような英雄たちが戦争を作り、歴史を加速させていったんだ」
「アインシュタインが、異世界転生者?」
「どうだろうね。君のいうチート能力ってのを、そいつは持っていたのかい?」
「わかりません」
「そうだろうね。そのチート能力ってのも、様々だ。例えば君がいた世界には魔法がなかっただろう? そういう世界に、魔法を使う英雄を送り込むわけにはいかないのさ。逆に魔法を用いる世界には、魔法なんててんで使えない英雄を行かせるわけにはいかない。その世界のルール、特色に沿った英雄が存在してしかるべきなんだ」
「だから僕の世界には、魔法を使う人間がいなかったんですか」
「だけど魔法のような力・知能・経験を持っていた人間はいただろう? 彼らが英雄さ。最近の世界創造には、英雄がトレンドなんだ」
「トレンドって……」
「まだ人間が未熟で歴史が浅い異世界に、英雄として転生者・転移者を送り込む。それが、世に言う異世界転生・異世界転移の全貌だよ。わかった?」
「……何となくは」
「そうかい。それは良かった」
「それで、その、……僕も、英雄をとして、転生なり転移なりするんですか」
「……」
「どうしたんですか?」
「……いや、君には転生も転移もさせない」
「はあ?」
「ここまでは基本。これからは応用だ。付いてこられるかい?」
「自分にかかわる話なら、聞かざるを得ないでしょう」
「それはよかった。……ここで、イレギュラーを取り除くためには、その人間を殺さないといけない。それは、教えたね?」
「はい。トラックで轢かれたりとかですよね」
「本当に君は優秀だなぁ。でもね、ごく、ごく稀に、殺せない人間がいるんだ」
「殺せない、死なないチート能力を持ってたってことですか?」
「いやいや、その程度の能力なんて神様にはあってないようなものだよ。でもね、そんな神様をもってしても殺せないような、そんな能力をもって産まれてしまった人間がいるんだ。神様でも手が付けられないような存在を再び人間の世界に送り込むなんて、危険極まりない!」
「そういった存在を、どうするんですか」
「そんなイレギュラー中のイレギュラー、そうだね、【超イレギュラー】とここでは呼ぶことにしよう」
「……ダサい」
「ダサくてもいいさ。その超イレギュラーはね、神様の管理下に置いて、天界で働いてもらうんだ。そして、天界で働いてもらっている元人間のことを【天使】って言うのさ」
「天使……」
「そう。そして君も天使さ」
「……え?」
「仕方ないじゃないか。私たちは何度も君を殺そうとしたのに、死なないんだから」
「殺そうとって……、あっ」
「そうだよ。今君が見ている少女、ルナが、君を殺そうと何度も頑張ってたんだ」
「……」
「ルナは何も言ってくれないけど、彼女は何度も君を殺そうと努力したんだよ? トラックや電車で轢こうとしたり、鉄骨を落として見たり、病死させようとしたり、最後は、力づくだったけどね」
「……」
「ちなみにルナも天使だよ。天界では、死神の役職に就いてもらっている」
「天使が、死神?」
「そうだ。頻繁に地上に降りて、天界から命令された人間を殺す役割。最近では専ら転生・転移のために殺してもらってるけどね」
「ルナが、天使で、死神……」
「君も今日から天使だ。ようこそ、天界へ!」
「そんな……」