プロローグ2
目が覚める。視界には、真っ白な天井。
(ここ、どこだ……?)
どうやら僕は仰向けになっているらしい。置かれている状況を確認するために、起き上がろうとすると────
「ぐぁ、あ、い、痛っ!」
激痛が体を駆け巡った。なんだこれ、か、体がロクに動かないし、動こうとすると、痛みが体中から襲ってくる。痛すぎて叫ぶこともままならない。僕の周りは静かで、僅かな僕の声が小さく響くばかりだ。なんだこれ、僕はいったい、どうしちまったんだ⁉
これが、トラックに轢かれてからの、目覚めて最初の記憶だ。事故からの目覚めから数日が経過し、僕は今、病室でベットに腰を下ろしていた。テーブルにはクラスメートからのお見舞いの品の数々。仲の良いオタク友達からの分、話したこともない女子からの分、他にも誰からか分からないようなものもある。あのトラック事故から目覚めた時には体中が激痛だったが、なんと信じられないことに、トラックに轢かれたにもかかわらず、僕の体には、目立った傷はないというのだ!信じられないのはもちろん張本人の僕だけじゃない、すぐさま病院に駆けつけてくれた両親も、診察した病院の先生たちも、このことをメディアで知った見知らぬ人々の誰もが、このことを信じられなかった。だって、トラックに轢かれたんだぜ? 轢かれた映像も動画サイトに載っていたが、轢かれた本人の僕がそれを見ても、あり得ないと言わざるを得ない。巷では、「奇跡の少年」「事実は小説より奇なり」などとささやかれたが、今でも信じられない。お見舞いのお菓子を食べながら、そんなことを想っていた。そこに、
「おまたせ、遠藤天音くん。アマネくん、で言い方あってるよね?あはは、最近の子はカッコいい独特な名前が増えているからね。私もいちいち確認しているんだ」
病室にお医者さんがやってきて、近くにあった椅子に座り、僕に話しかけてきた。
「体は大丈夫? 本当に? ああ、それは良かった良かった。君には本当に驚かされたよ。まさか無事どころか、かすり傷の一つもないなんてね。後遺症もサッパリだ。もしよかったら、君の体を解剖させて────あはは、冗談だよ。とにかく、今日で退院おめでとう、天音君」
そう、今日は退院の日。目覚めた日は激痛だったが、すこし経つとその痛みも段々と薄れていき、今では学校行かずの快適な病室生活だった(無事とわかって宿題は出されたけど)。どうやら外で両親が迎えに来ているようだ。先生に今までのお礼を言い、お医者さんに連れ添われて病院を後にした。両親もすっかり元気な僕を車に乗せ、家に帰る。夕飯はお寿司だって。やったぜ。
それから数日。何事もなく平和に暮らしましたとさ────とは、どうやらならなかったようだ。
僕には、ある3つの新しいことが起きていた。
一つ目は、当時のことを聞きたがる人間が周りに沢山現れたこと。マスコミの人に何度も取材されたし、学校でも以前は面識のない人からも話し掛けられるようになってしまった。口下手な僕には勘弁してほしいものだ。最近ではようやく騒ぎも落ち着き、いつものオタク友達と特撮やアニメの話をしながら学校生活を過ごしている。
二つ目は、疑問だ。僕にはあるいくつかの疑問が残っていた。なぜあのとき、咄嗟に
少女を助けようと思ったのか。確かに僕はこの年になっても特撮大好きなオタクだが、ヒーローになって活躍したいとは思ったことがない、あのとき以外は。当時は、何か勇気が湧いてきて、勝手に足が動いてしまったような感覚だった。またあのときのように助けようとすることができるかと尋ねられたら、おそらく「無理です」と答えるだろう。ていうか、マスコミは無理だって言った。
疑問はもう一つ。それは、銀髪の彼女の正体だ。あの少女は、なぜあそこにいたんだろう。何が目的でお底にいて、そして、僕に言った言葉、
「ごめんなさい」「死んでください」
前者を言った理由は察せられる。「助けてもらって、ごめんなさい」ってことだろう。だが、後者、「死んでください」とは……、意味が分からない。あの少女は、僕を殺したかったのだろうか? 殺すために、あんな場所にいたのか? そおおなはずはない、回りくどいし、見知らぬ少女に殺される理由が全く分からない。日本人ではない、銀髪、女の子。僕に関わるような要素は皆無だ。少女の正体を探ろうと、退院してからはニュースなどを調べまくったが、情報は、全くと言っていいほど出てこない。不思議にもほどがある。あの日は、横断歩道の誰もが少女に注目していたのに、情報のかけらもないなんて。誰もあの少女に関心がないとでもいうのか。そんなのあり得ない、はずなのに。
もっとおかしいことがある。その少女の姿を、退院してから僕は何度も目撃しているのである。そう、何度も。街中を歩いていたりすると、不意に視界に彼女が映りこんでくるのだ。そして、彼女が現れる時間にはある共通点があった。それは────僕が、死にそうになったときである。
退院してから初めて彼女を目にした場所は駅のホームだった。僕がふともうすぐ来る電車を待っていると、向かいのホームに、ふと、銀髪の彼女の姿が。それを見て僕は言葉が出ずに呆気にとられていると、後ろから、誰かが、僕を線路に押してきたのだ! 幸い電車が来る前に線路から逃げることができたが、そのときにはもう彼女の姿はなかった。また、街中を歩いていたとき、それから鉄骨が落ちてきたこともあった。間一髪それにはぶつからなかったが、落ちてくる直前、視線の先には彼女がいた。他にも例を挙げると枚挙に暇がない。彼女が現れる度に、僕は知りそうになるのだ。それが、三つ目である。