6話 遥かなる教室。
1年5組は校庭側の一番南の校舎(南校舎)の3階にあった。
階段をあがってすぐの教室が5組。奥に6組、7組とつづいている。
ところが、上がりきった、その先の廊下から進めなくなってしまった。女生徒がこれでもかというくらい群がっていたのだ。
ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃぺちゃくちゃぺちゃくちゃ。教室の中で話せばいいのに、なぜか廊下でぺちゃくちゃ。
外の通学路の解放された場所でさえ、顔を赤くして小走りで登校しなければならいほど緊張したのに……。
女生徒の頭越しに見ると、どうやら階段を登りきったここが一番女子高生密度が高いようだった。後から来た女子は、「ちょっと、ごめんね」とか言いながら先へ進んで行く。
男子はみんなここで足留めをくらう。それがよけいに人口密度を高くしていた。
南校舎の反対側の階段からあがれば、なんとか教室にたどりつけそうだった。5、6、7組の男子はみんなお互いを見合わせた。
無理だ。ここは進めない。勇気をもって引き返そう。
そういう目をして、そこにいた男子はみんな階段を降りて行った。南校舎の二階全体は職員室になっていて、一般生徒は通り抜けできない。
一階まで降りた。
階段を降りる途中に何人か男子生徒とすれ違ったが、ワシ達はなんにも言わなかった。
もしかしたら、そいつは……。
「ふん、女子なんてかんけーねー」とか言って女子の海を泳ぎきれる奴かもしれないのだ。
南校舎の一番東の階段(東階段)から一番端まで行った。また階段(西階段)をあがって、やっと5組の教室の反対の入口までたどり着いた。
7組の連中は今度は階段をあがればすぐそこが教室だが、ワシは5組だから、今度は2教室分の廊下を歩かねばならなかったのだ。
その廊下にだって、女子が大勢いるのだ。先ほどの場所よりはいくらかましという程度だった。
後ろを見ると階段ですれ違ったやつもついてくる。でも、ワシはおまえ達を責めたりはしない。これから3年間、苦悩を共にする仲間だ。女子に負けず一緒にガンバロウじゃないか。
そんな、苦悩は1週間もすればすっかり慣れてしまい、しばらくは、喜びにすら感じ。更にそれが過ぎると、卒業まで当たり前のこととして何も感じなくなってしまった。
そして、卒業してから失ったものの大きさを知った。
◆◆
教室に入ると驚がくの事実を知ることになる。女子の海を渡ることなど、全然たいしたことじゃなかったほどの。
藤本正輝がそこにいたのだ。
***当時の後書き
すみません、まだマンドリンクラブに入部できません。