4話 JR福塩線下り方向、府中行き。
「ネン、やっぱりおかしい。車内のまん中は空いてるのに、前後だけギュウギュウじゃ!」
JR福塩線(国鉄福塩線)下り方向、府中行きの沿線には、高校が新市商業を含めて4校あった。
途中から、さらに人が乗り込んできても不思議じゃないのだが、妙に車輌のまん中だけが空いている。その分、車輌の前後が混みはじめてきたのだ。
人の頭ごしに車輌の中ほどを見るとその理由がわかった。不良が車輌のまん中にすくっていたのだ。
30年前は荒れる中学、高校。校内暴力の吹き荒れる時代だった。
「オンドリャー、おみゃー、なんしょるんならー」
「見りゃ、わかろうがー。ガッコ行きよるんじゃー。おどれこそ、なんなら」
「オンドリャ。わしゃーのー、けーから。ガッコ、寝に行くんじゃ」
「ほーきゃーの」
……と、※「おどりゃー、すどりゃー」ほとんど意味のない会話をしていた。
以上は、別にケンカしているわけではありません。ふつうの会話です。(雰囲気で読めるかもしれませんが、念のため下に解説をつけておきます)
ふつうに不良がいるだけなら我慢して、明日から乗る車輌を変えればすむだけのことだったのだが、その中に藤本正輝がいた。
ワシ達の出身中学の不良トップスリーの一人だ。
【けんかならコイツ】
【危ないのはコイツ】
【怒らせたらこわいのは、コイツ】
の中の【危ないのはコイツ】だった。
上級生にまじって、一番でかい態度をしている。上級生の方が気を使っているようにさえ見える。
さすが、ワシらのトップスリー【危ないのはコイツ】!
上級生らしい1人が、藤本に何か言っている。下級生のくせに態度がでかいのに腹をたてたようだ。
一言、二言、言い合うと。
藤本が急に相手の胸ぐらを掴み、ドアに押し付けた。ボタンがはじけ飛ぶ。
あごを持ち上げるようにして藤本は顔を近づけた。
「なんか、文句あるのか?」
……みたいなことを言ったのだと思う。まわりの不良達が2人を、まあまあという感じで引き離した。
藤本は今度は止めに入った不良に向かって、あごをやや10度傾け、上目づかいでにらんでいる。狂犬か!
さっきまで不良どうしにこやかに※「おどりゃー、すどりゃー」やっていたのに……。
臨戦体制、やる気まんまんだ。さすが、ワシらのトップスリー【危ないのはコイツ】!
一般の生徒は誰もそちらを見ない。うつむいたリ、窓の外を見たりして息をひそめている。ネンとワシもできるだけそちらを見ないようにした。
新市駅に着くと、そそくさと電車を降りて逃げるように学校へ向かった。
【危ないのはコイツ】藤本正輝もおなじ新市商業高校に入学していたからだ。
***当時の後書き
「オンドリャー、おみゃあー、なんしょるんならー」
(おまえ、何してんの?)※オンドリャーは枕詞です。
「見りゃ、わかろうがー。ガッコ行きよるんじゃー。おどれこそ、なんなら」
(見たらわかるでしょ。登校だよ。あんたこそ、何してんの?)
「オンドリャ。わしゃーのー、けーから、ガッコ、寝に行くんじゃ」
(枕詞/俺は、これから、学校に寝に行くんだよ)
「ほーきゃーの」
(そうですか)
※「おどりゃー、すどりゃー」やっている。
(わきあいあい)やっている。
※本文での方言は『ワシ』と『○○じゃ』くらいしか使ってませんが、私たち一般の生徒の会話も文にすると、こんな感じでした。ちょっと枕詞が少ないくらいです。全部これにすると読みにくいし、書きにくいのでこれくらいにしてます。(オンドリャのリャは舌を巻きます)