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旋律はいつもドリン系  作者: 鍵森 裕
1章 始まりは、そんなもん。
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3話 はじまりは、そんなもん。

 兄貴の身長180センチ、ガキのころから野球で鍛えた体は、ねじった針金のようだ。兄貴とちがいワシは小さい時から小柄で当時160センチそこそこ。


 なので兄貴の命令には絶対だったが、この命令は法外だった。


 決死の覚悟で……。


「い、いやじゃ。絶対にむりじゃ。音楽なんてやったことないし楽譜も読めん」


「わかる、わかる。でも、マンドリンなんて一般的じゃないだろう。だから、みんなも初めてなんだ。最初は楽譜を読めんやつも大勢いる。俺もそうだったからな」


「今さら何故ワシをマンドリンクラブなんかに誘うんじゃ。中学に入った時、野球部には誘わんかったくせに」


「商業科は女が多いんだ」


「知っとる。試験や入学式の時にわかった」


「音楽クラブは、さらに女ばっかりなんだ」


「そうじゃろうな。男女半々の中学のブラスバンド部でさえ、男はひとにぎりじゃから……」


「男がいると、頼りになるんだ。女ばっかりだと、いろいろあるからなあ」


「ワシは頼りにならんのじゃ」


「まあ、とにかく男だったら誰でもいいんだ」


「……誰でもええんか」


「あっ。いや、そうじゃなくてな……」


 命令というより懇願だった。ようするに兄貴は卒業していくクラブの事を心配していたのだ。


 数年後、自分もこの時の兄貴の気持ちがわかるようになるのだが、この時は『なんで、ワシがマンドリン?』という思いでいっぱいだった。


 兄貴は、しばらく腕組みしてこう言った。


「わかった。クラブに入ったら小遣いをやろう」


 どうやら、作戦を変えたようである。


「えっ! なんぼくれるん?」


「なんぼって? うーん500円」


「それじゃ嫌じゃ、入らん」


「1000円」


「もう一声」


「1500円やる」


「入る!」


◆◆


 この当時の私の小遣いが1ヶ月2000円。

いっきに小遣いが約2倍になるのだ。なぜ2000円でなく1500円かというと、この頃、趣味でコミックスを集めていた。


 当時一冊約300円。五冊で1500円だ。


 こうして、1500円につられてマンドリンクラブ入部を約束してしまった私だったが、このお金をもらうことは一度もなかった。


 兄は卒業と同時に大阪の専門学校に行ってしまったからだ。そのことに気がついた時は、もうそんなお金のことはどうでもよくなっていた。


◆◆


「なあ、ネン。車内なんか不自然に混んでないか?」


「うん、僕もそう思う。まん中の方はすいてるようだけど……」


 これから始まる希望に満ちた高校生活に暗い影を落としかねない恐ろしい奴が、そこにいた。


 忘れていたわけではなかったが、できれば思いだしたくなかったのだ……。


***当時の後書き


※ワシ=わたし、俺、僕、自分のこと。


 私の地元、福山(備後)では高校生が自分のことを『ワシ』というのは当時としてはごくごく、あたりまえのことでした。

 テレビ、マスコミ等の影響で最近では少なくなりましたが、小学生くらいの男子でも『ワシ』は一般的でした。


 福山は言葉は汚いとか、きついとかよくいわれますが、福山の中でも「あそこは言葉が汚い」という地区があります。


 今度、宮崎アニメ『崖の上のポニョ』の舞台のモデルになる『鞆の浦(とものうら)』です。

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