21話 最初は右手の練習よ。
昨日に引き続き、ギターの練習が始まった。まずは座り方だ。
「そんなに、深く腰掛けないで。藤本くん。もう少し浅く、背もたれは使わないように」
「はい、棗田先輩!」
嬉しそうに藤本が答える。今、わかっててやったろう、背もたれ!
ワシが昨日教わったように座っていると。
「はい。チハルくんは、よろしい」
藤本の目が光った。
ふっふっふ。ワシにはわかったぞ、藤本。君も『マーくん』とか『マサキくん』とか呼んで欲しいのだろう。しかし、さすがに自分から呼び方を変えてくれとは言えまい。
藤本が恨めしそうな目つきでワシを見る。
恋する人の弟ゆえか、はたまたワシ自身に年上の女性の何かを、くすぐるものがある。……のか?
「あっ、青山君。今は右手だけの練習だから左手は、ネックの根元の方に置いておくんでしょ」
……どうも、その時の気分のようだ。
◆◆
しかし、このギターというやつはどうも持ちにくい。クラシックギターは足を組む場合、正式には左足を上にして足を組むそうじゃが。ワシは通常、足を組む場合に右足を上にする。左足を上にすると違和感がある。
その上、その左足に瓢箪型のギターのくぼみを乗せるのだが、これが滑る。
どうも収まりが悪い。棗田先輩のようにピシッと決まらない。
藤本も同様に……。あれ、決まってるぞ?!
もちろん、棗田先輩のようには決まってないが。ワシのように右手で弦を弾く練習をしているより、滑るのを抑えるのに苦労をしてるのに比べると遥かに、安定している。
……もしや、藤本?!
ワシは、一抹の不安を覚えた。
トンテン、トンテン、トンテン。
藤本は右手人さし指と中指で調子よく。1弦のミの解放弦(何も押さえない)を──
トン(ミ)、テン(ミ)、トン(ミ)、テン(ミ)と弾いていく。
「いいんじゃない、マサキくん。その調子」
藤本は『マサキくん』と呼ばれて満面の笑顔だ。
ワシときたら……。
トンテン、ツルン、ゴソゴソ(ギターの位置を直している)……。
トンテン、ツルン、ゴソゴソ(ギターの位置を直している)……。
「……」
棗田先輩なんとか言って下さい。
「そのうち、なれるわ。青山君」
しかも『青山君』だし。
棗田先輩も藤本がギターに慣れているようなのを気づいていた。
「藤本クン。ギターやったことあるの?」
来ました。というような顔をして藤本が言った。
「知り合いにフォークをちょっと。ピックでコードを鳴らすくらいですけど」
不安適中。
しかもスラスラと言いやがって、絶対この台詞練習していたな。
藤本、ずるいぞ。やっぱり経験者だったのか!
◆◆
……って。コードって何?
***当時の後書き
現在はドリン系の人も足台を使うのが普通になっていますが、この当時(30年位前)のマンドリン部での合奏はギターでさえ足台を使わずに演奏をしている所が大勢ありました。




