19話 マンドリン部に入れ。ベースを弾くのじゃ!
翌日、ネンと電話で待ち合わせの車輌を変えた。藤本と顔を合わせないためだ。
「ネン。マンドリン部に入れ。そしてベースを弾くのじゃ!」ワシはいつも単刀直入じゃ。
「うん。いいよ!」
「えー!!いいの?」
「青山君が今、入れって言ったんじゃないか」
「うーん。そうなんじゃが…」
こまった。昨晩、ネンのクラブ勧誘プランを脳内シミュレーションしていたのだ。
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「ネン。マンドリン部に入れ!」
「いやだ!」
「そう言うと思った。ならば、こうじゃ」
藤本登場。
「キャー。入部します」
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というシナリオだったのだが、これでは今度は藤本がいること自体が、ネックになりはしないか?
脳内シミュレーション2開始!
◆◆
「おめでとう、これでネンも部員じゃ」
藤本登場。
「キャー。入部やめます」
◆◆
いけん、いけん。これは不味いぞ!
ワシは放課後まで、休み時間になる度にネンのいる1組へ通った。もちろん、藤本がマンドリン部にいることは隠したままだ。
やれ、藤本が今日こんなドジをした。やれ、藤本は女子に弱い。やれ、藤本は案外いい奴だぞ。などなど、藤本正輝マイルド大作戦なのじゃ。
「なんで、そんなに藤本君の話ばかりするの?」
いくらのんびりしたネンでも、これだけ藤本の話ばかりしていると、おかしいと思うのは無理もない。
どちらかというと、一般人であるワシらにとってはできるだけ避けたいような話題だ。
「それは、キャンディーズのランちゃんが、かわいいとか、ピンクレディーのミ-ちゃんが好きとか、アイドルの話をするように藤本といえば、ある意味有名人。有名人が身近にいると、その話題が出るのが普通じゃ。藤本は実は、マイルドだった……。これは事件なのじゃ!」
ワシはネンの顔をのぞき込む様にして言った。
「じゃろ?!」
「そ、そうかなあ……」
ネンは納得はしないが、それでもワシの意図はわからないようだった。あたりまえだ。藤本がマンドリン部にいるなんて、ワシ自身そうだったように、ネンの想像のはるか外にあることだった。
◆◆
放課後、ネンをさそって部室に行く。
藤本には少し遅れて、クラブに行くように頼んでおいた。
「わー。ここは特に女子密度がたかいなあ」ネンが感心するように言った。
宮島部長にベース希望者だと紹介すると、思った以上に喜んでくれた。やはりベースはいつも悩みの種らしい。入部の手続きをして、ベースの2年の川田先輩に引き合わせた。ベースは3年生がいないので川田先輩がベースのトップだ。
「チハル。よくやってくれた。さすが、青山先輩の弟だ!」
川田先輩は兄貴の直接のベースの弟子だったから、非常に兄貴を尊敬しておった。
そして、ワシを抱き締めんばかりに喜んでくれた。というか、ホントにハグされた。
◆◆
そこへ、藤本登場!
***当時の後書き
マンドリンクラブに限らず、女性のベース奏者をよくお見かけしますが。女性がさっそうとあの大きなベースを弾く姿はほれぼれします。そう思うのは、わたしだけでしょうか。