15話 3分半の物語。
吃りながら、フルネームを聞く藤本。
ワシは、早くも三角関係におちいっていることに気づいた。これも、大人の恋の宿命か。
「棗田 裕子よ」
女神さまは、ワシら恋の奴隷にそう仰られた。
「ゆうこのユウは、やっぱり優しいのユウですか? 棗田先輩」
「ううん。衣偏に谷よ」
ワシは字なんてどうでもよかったのだが棗田先輩と、とにかく何か話をしたくてそう聞いた。
藤本も同じだったようだ。
「でも、裕子ってやっぱり優しそうな名前ですよね」
藤本も、どうやらワシが棗田先輩に気があるのを察したのか、急に険しい表情をワシに見せる。
あやうくライオンの尾を踏み付けることろだった。おおっと、いかん。こいつは顔を赤くするライオンなのじゃ!
だからといって、ワシは棗田先輩を諦めるつもりは全くない。これこそ大人の恋の試練じゃなかろうか。
藤本も武力行使をするのは、沽券にかかわると思ったか。こんな音楽クラブで自分の強さをアピールしようとするほどのバカでもなく、手を出すような素振りは見せなかったが、その代わりにとんでもない事を言いだした。
「チハル。おまえベースを、するんじゃなかった?」
これには、ワシも慌てた。
「棗田先輩。チハルの兄ちゃんは前の部長さんで、どうもベースをやれと言われとるそうですよ」
思いっきり意地悪そうな目つきでそう言う。
な。な。な。な、何を言い出すんじゃ。今さら、おまえは!
だいだい藤本がギターをしろって言ったくせに。ワシは何をどう言っていいのか焦っていると、その言葉に食い付いたのは驚いたことに棗田先輩の方だった。
「チハルくんのお兄さんって、青山史 吃りながら、フルネームを聞く藤本。
ワシは、早くも三角関係におちいっていることに気づいた。これも、大人の恋の宿命か。
「棗田 裕子よ」
女神さまは、ワシら恋の奴隷にそう仰られた。
「ゆうこのユウは、やっぱり優しいのユウですか? 棗田先輩」
「ううん。衣偏に谷*なんよ」
〈*なんよ=備後弁の女言葉は、ちょっとやさしい〉
ワシは字なんてどうでもよかったのだが棗田先輩と、とにかく何か話をしたくて、そう聞いた。
藤本も同じだったようだ。
「でも、裕子ってやっぱり優しそうな名前ですよね」
藤本も、どうやらワシが棗田先輩に気があるのを察したのか、急に険しい表情をワシに見せる。
あやうく、ライオンの尾を踏み付けることろだった。おおっと、いかん。こいつは顔を赤くするライオンなのじゃ!
だからといって、ワシは棗田先輩をあきらめるつもりは、まったくない。これこそ大人の恋の試練じゃなかろうか。
藤本も武力行使をするのは、沽券にかかわると思ったか。こんな音楽クラブで自分の強さをアピールしようとするほどのバカでもなく、手を出すような素振りは見せなかったが、その代わりとんでもない事を言いだした。
「チハル。おまえベースを、するんじゃなかった?」
これには、ワシも慌てた。
「棗田先輩。チハルの兄ちゃんは前の部長さんで、どうもベースをやれと言われとるそうですよ」
思いっきり意地悪そうな目つきでそう言う。
な。な。な。な、何を言い出すんじゃ。今さら、おまえは!
だいだい、藤本がギターをしろって、言ったくせに。ワシは何をどう言っていいのか焦っていると、その言葉に食い付いたのは驚いたことに棗田先輩の方だった。
「チハルくんのお兄さんって、青山史浩先輩なの?」
身を乗り出すように、手を握らんばかりに(握ってはくれんかったが)聞いてきた。
ああ、短い恋じゃったー↓。
この時、ワシは悟った。大人の恋を経験したワシにはわかるのじゃ。棗田先輩はワシの兄貴に恋しちょる。この潤んだ瞳を見れば、すぐわかるじゃろ。
この展開について来られていない藤本は、いったい何がおこったのか理解できないでいる。
藤本。おまえこそ、地雷を踏んだのじゃ。ピンポイントでビンゴの、ピンゴなのじゃ。
ワシは、小さい頃から山のような(文字通り、物理的な意味で)兄貴を見上げてきたので、筋金入りの兄貴コンプレックスなのじゃ。
兄ちゃんには、何をしてもかなわんのだ。兄ちゃんはもう大人(18才)で、ワシは先ほど大人の恋を経験したばかりのビギナーじゃ。これは勝負にならんわい。
すっかり、負け犬モードである。
よく見ると、棗田先輩って、やさしそうなけど、ちょっと目が細いな。笑ったら、目がたれてタヌキに、似てないか?(女神からいきなりタヌキとか……)
だいだい、熱があったくらいで、痩せるわけないじゃろが。あほらしい。そういえば兄ちゃんと棗田先輩は、お似合いじゃのう。
結婚したらほんとにワシの姉ちゃんになるのう。それはそれで良いか。ははっ。
胸の痛みはどこへやら。藤本が棗田先輩に話している時、もう口を挟まなかった。
とたんに、機嫌が良くなる藤本。器量の大きい所を見せたいのか話している時、棗田先輩との話を振ってきさえする。
それがよけいに哀れをさそう。
藤本よ。叶わぬ恋に身を焦がせ。どうせ実らない恋なら、せいぜい応援しちゃるぞ。そして恩にきろ。
その隙にワシはギターを練習して。ふっ、ふっ、ふっ。女にモテてちゃる。
暗い炎を胸に灯す、ワシであった。
***当時の後書き
まだ、練習がはじまらない。