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旋律はいつもドリン系  作者: 鍵森 裕
1章 始まりは、そんなもん。
15/66

15話 3分半の物語。

 吃りながら、フルネームを聞く藤本。


 ワシは、早くも三角関係におちいっていることに気づいた。これも、大人の恋の宿命か。


棗田(なつめだ) 裕子よ」


 女神さまは、ワシら恋の奴隷にそう仰られた。


「ゆうこのユウは、やっぱり優しいのユウですか? 棗田先輩」


「ううん。(ころも)偏に谷よ」


 ワシは字なんてどうでもよかったのだが棗田先輩と、とにかく何か話をしたくてそう聞いた。


 藤本も同じだったようだ。


「でも、裕子ってやっぱり優しそうな名前ですよね」


 藤本も、どうやらワシが棗田先輩に気があるのを察したのか、急に険しい表情をワシに見せる。


 あやうくライオンの尾を踏み付けることろだった。おおっと、いかん。こいつは顔を赤くするライオンなのじゃ!


 だからといって、ワシは棗田先輩を諦めるつもりは全くない。これこそ大人の恋の試練じゃなかろうか。


 藤本も武力行使をするのは、沽券にかかわると思ったか。こんな音楽クラブで自分の強さをアピールしようとするほどのバカでもなく、手を出すような素振りは見せなかったが、その代わりにとんでもない事を言いだした。


「チハル。おまえベースを、するんじゃなかった?」


 これには、ワシも慌てた。


「棗田先輩。チハルの兄ちゃんは前の部長さんで、どうもベースをやれと言われとるそうですよ」


 思いっきり意地悪そうな目つきでそう言う。


 な。な。な。な、何を言い出すんじゃ。今さら、おまえは!


 だいだい藤本がギターをしろって言ったくせに。ワシは何をどう言っていいのか焦っていると、その言葉に食い付いたのは驚いたことに棗田先輩の方だった。


「チハルくんのお兄さんって、青山史 吃りながら、フルネームを聞く藤本。


 ワシは、早くも三角関係におちいっていることに気づいた。これも、大人の恋の宿命か。


「棗田 裕子よ」


 女神さまは、ワシら恋の奴隷にそう仰られた。


「ゆうこのユウは、やっぱり優しいのユウですか? 棗田先輩」


「ううん。ころも偏に谷*なんよ」


〈*なんよ=備後弁の女言葉は、ちょっとやさしい〉


 ワシは字なんてどうでもよかったのだが棗田先輩と、とにかく何か話をしたくて、そう聞いた。


 藤本も同じだったようだ。


「でも、裕子ってやっぱり優しそうな名前ですよね」


 藤本も、どうやらワシが棗田先輩に気があるのを察したのか、急に険しい表情をワシに見せる。


 あやうく、ライオンの尾を踏み付けることろだった。おおっと、いかん。こいつは顔を赤くするライオンなのじゃ!


 だからといって、ワシは棗田先輩をあきらめるつもりは、まったくない。これこそ大人の恋の試練じゃなかろうか。


 藤本も武力行使をするのは、沽券にかかわると思ったか。こんな音楽クラブで自分の強さをアピールしようとするほどのバカでもなく、手を出すような素振りは見せなかったが、その代わりとんでもない事を言いだした。


「チハル。おまえベースを、するんじゃなかった?」


 これには、ワシも慌てた。


「棗田先輩。チハルの兄ちゃんは前の部長さんで、どうもベースをやれと言われとるそうですよ」


 思いっきり意地悪そうな目つきでそう言う。


 な。な。な。な、何を言い出すんじゃ。今さら、おまえは!


 だいだい、藤本がギターをしろって、言ったくせに。ワシは何をどう言っていいのか焦っていると、その言葉に食い付いたのは驚いたことに棗田先輩の方だった。


「チハルくんのお兄さんって、青山史浩(ふみひろ)先輩なの?」


 身を乗り出すように、手を握らんばかりに(握ってはくれんかったが)聞いてきた。


 ああ、短い恋じゃったー↓。


 この時、ワシは悟った。大人の恋を経験したワシにはわかるのじゃ。棗田先輩はワシの兄貴に恋しちょる。この潤んだ瞳を見れば、すぐわかるじゃろ。


 この展開について来られていない藤本は、いったい何がおこったのか理解できないでいる。


 藤本。おまえこそ、地雷を踏んだのじゃ。ピンポイントでビンゴの、ピンゴなのじゃ。


 ワシは、小さい頃から山のような(文字通り、物理的な意味で)兄貴を見上げてきたので、筋金入りの兄貴コンプレックスなのじゃ。


 兄ちゃんには、何をしてもかなわんのだ。兄ちゃんはもう大人(18才)で、ワシは先ほど大人の恋を経験したばかりのビギナーじゃ。これは勝負にならんわい。


 すっかり、負け犬モードである。


 よく見ると、棗田先輩って、やさしそうなけど、ちょっと目が細いな。笑ったら、目がたれてタヌキに、似てないか?(女神からいきなりタヌキとか……)


 だいだい、熱があったくらいで、痩せるわけないじゃろが。あほらしい。そういえば兄ちゃんと棗田先輩は、お似合いじゃのう。


 結婚したらほんとにワシの姉ちゃんになるのう。それはそれで良いか。ははっ。


 胸の痛みはどこへやら。藤本が棗田先輩に話している時、もう口を挟まなかった。


 とたんに、機嫌が良くなる藤本。器量の大きい所を見せたいのか話している時、棗田先輩との話を振ってきさえする。


 それがよけいに哀れをさそう。


 藤本よ。叶わぬ恋に身を焦がせ。どうせ実らない恋なら、せいぜい応援しちゃるぞ。そして恩にきろ。


 その隙にワシはギターを練習して。ふっ、ふっ、ふっ。女にモテてちゃる。


 暗い炎を胸に(とも)す、ワシであった。


***当時の後書き


まだ、練習がはじまらない。

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