14話 大人の恋のはじまり。
どうも、10人前後の方が読んで下さっているようです。本当にありがたい思いです。今から12年くらい前に、さらに30年以上も前の事を思い出しながら書いてました。久しぶりに読み返すと、読みにくいなとか、わかりにくいなとか思います。でも自分の自伝みたいなものなので、私にとっては大切な作品です。
ワシはギターを弾くことにした。
マンドリンクラブでギター! つまりこれは、旋律からのお別れを意味する。
マンドリンクラブの花形は、やはりマンドリンなのだ。そう、いつも主旋律をとるのはマンドリン系だけなのだ。
だけどこの時は、ワシの頭の中はピンクの未来だけを思い描いていた。
ギターは女にモテル!
「ほいじゃ、ギターね。ちょっと待っとれ」
宮島部長が部室から出て行き、すぐに女の先輩をつれて戻ってきた。
その人は色白で肉付きがよかったが、しかし太っているというわけではなく、身体全体でやさしそうな笑みをうかべている……という印象の女性だった。
「この人が、おまえらの先生。3年のギターの棗田だ。しっかり教えてもらえよ」
宮島部長はそう言い残すと、自分の楽器を持って部室を出て行った。
「棗田です。えーっと」
「青山 千春です」ワシは、冷静に自己紹介をした。
「ふ、ふ、藤本 正輝です」藤本が吃りつつ、あわてて続けた。
クククク。藤本め、どもってやんの。と思った時!
「よろしくね、チハルくん。マサキくん」
棗田先輩は、そう言ってワシらに(特にワシに)向けて微笑んだ(はずだ)。
チハルくん。チハルくんて言われちゃったのじゃ……。
最初は、やさしそうなお姉さんだな……ぐらいにしか思わなかったが、この瞬間ワシの心臓は何かにわしづかみされた。
キュンなのじゃ!
体中の毛穴から何かが入り込んでくる。
その何かが血管を通して体中を駆け巡る。
足先から手の指の先から血が逆流してくるのが感じられる。
顔が赤くなり、動悸が激しくなっていく。
体温の上昇がはっきり感じられた。
あ、熱い。む、胸が痛い!
この熱はきっと、昼飯の弁当の熱量分くらいありそうだ。恋をすると痩せるのは、きっとこういう事だったんじゃな。これが高校生の恋なのね。ワシは今、大人の仲間入りなのじゃあぁ。……とか思っていると。
「な、な、棗田先輩のし、し、下の名前はなんですか?」
声を裏返らせ、引き続き吃ったまま藤本が聞いた。
なに? と思って藤本の顔を見ると顔が赤い。
あ、こいつも大人の恋!?
***当時の後書き
この恋の行方はいずこに?この頃は年上の人が綺麗に見えました。『綺麗なお姉さん好きですか』『はい。好きです』てな感じですかね。