13話 生涯、愛する楽器!
「じゃあ、2人ともギターでいいんだな」
宮島部長がどっちでもエーけど、早決めーや! みたいな口調で聞いてきた。
藤本は当然と言う感じで返事をしたが、ワシはスンナリ答えられない。
「いや、ベースにしようかなあ……なんて」とか言いながら、はっきり決められない。
藤本の言った「女にモテルぞ」がボディーブローのように、じわじわワシの心の奥に効いてくる。
女にモテルぞ! 女にモテルぞ! モテルぞ、ルぞルぞ……。
朝から女に囲まれて、苦労したように感じた。……が、よく考えるとそれって本当に苦労か?
恥ずかしいのと女にモテたいのは別なんじゃないのか。
はっきりいってワシは女にモテタイ。せっかく高校生になったんじゃから、女子ともおつき合いしたいじゃないの!
さすが、1500円につられてマンドリンクラブに入部することにした、ワシ。気持ち的にはすっかりギター。
兄貴は恐かったが、それよりも約束を破って
1500円がふいになるかもしれない。ワシにとっては、そちらの方がよほど痛かった。
しかし、そんなことは口にせずに言った。
「ワシの兄貴、先代の部長でベースしとったんじゃ。だから、ベースをしろって言われとるんよ」
「へー、そうなんか。でも、他の奴が先にベースになりましたって事にしたら。どっちが後か先かなんて、わからないだろ」
藤本は人ごとのように、サラっと言う。
「あっ!」
ワシは思わず膝を叩きそうになった。叩きませんが。そして、ある男の顔がうかんだ。
ネン〈田中〉にベースさせたろ!
「ギターをやります」
ワシは高らかに宣言した。
***当時の後書き
入部のみならず、楽器まで決定しました。この日から私の長いギター人生が始まるのでした。