11話 オンボロ木造校舎の2階で。
築、ん十年のオンボロ木造2階建校舎。部室はその2階にあった。……というより、2階全部をマンドリンクラブが使っていたのだ。
その木造校舎は全体が家庭科棟ということで、1階が調理実習用。2階が裁縫実習用になっていたのが、最近は家庭科の授業自体がなくなり使われなくなったのだ。
オンボロ校舎に入るとギシギシ鳴る廊下がつづいている。左手に階段があり、上からかすかにチリンチリンという音が聞こえてきた。
マンドリンの音かな?
そう思いながら、階段を上がって行った。
階段を上がると、また廊下が奥につづく。2階には教室が2つある。手前は普通の教室だったが、奥の教室は裁縫実習室でかなり大きかった。
◆◆
本当の部室はその2つの教室のまん中にある、実習準備室と呼ばれていた部屋だったが、
実際にはマンドリンクラブが2階を独占的に占有していたのだ。
女子生徒が顔を少し傾けて楽器の方を耳まで抱えあげながら、チリン、チリンと音を鳴らしていた。チューニング(音合わせ)をしていたのだが、この時は、まだそんなことは知らない。
「あの、入部したいんですが……」
ドキドキしながらそう言うと、彼女はチリンチリンさせながら目で奥の部屋の扉を指した。そこが部室だった。
扉の上には『GMC』と描いた、木製の手づくりの看板がかかっていた。
『ギター・マンドリン・クラブ』の略だ。
一応、遠慮がちにノックをしたが返事はない。扉をそっと開けて中に入った。
そこは部室というより、楽器庫だった。3メートル幅の細長い部屋で、片側の壁は見るからに自分達で作りましたという感じの棚があり、楽器ケースがずらりとならんでいた。
奥の壁は一面窓で、日当たりがよく、窓の外に校舎の屋根くらいまでの木が見えた。たぶん窓の下は自転車置場だ。
部屋の奥に木製の机とパイプ椅子が四、五脚あった。
男子生徒が2人いる。
一人は窓を背に大きな机の前に座っている。銀縁のメガネをかけたその人は陰気な目つきで、なんだ、おみゃーは? という雰囲気でこちらを見た。
(なんか、この人どっかで見たことある雰囲気だな)と思ったが、ワシに背を向けて座っていたもう1人がこちらに振り向いた。
藤本正輝だった。
***当時の後書き
やっと部室に到着しました。