俺の姉ちゃんは悪役令嬢
すみません、断罪された悪役令嬢は〜の執筆遅れてます。
今月中には更新しますので。
本編書いてる途中、書きたくなって書いてみました。
本編の合間にちょっとずつ更新していこうかと思ってます。
この話はアルファポリスにものせています。
「レベッカ・クリシュ・ナ・オトゥール!今この時この場でもって、私はお前との婚約を破棄することを宣言する!」
ギャ〜ハハ!宣言するだって!なんだよこれ?この王子、バッカじゃねえの!
自分が浮気しといて、何言ってんだ?
うわ〜、この婚約者、気の毒ぅ〜。ま、向こうが破棄するってんなら、いいんじゃね?
だって、こいつ、マジでクズじゃ〜ん。なんでこんなのがいいわけ?
顔?顔がいいから?ん〜〜わけわかんねえ。金髪碧眼の王子様ってのは。やっぱ女の憧れなんか?
いやあ、俺、こんな弱っちそうで女にだらしねえ奴、絶対やだわ。
───ええい!やかましい!黙れ、○ ○ !!
身体に激しい衝撃を受けた俺は、一瞬目の前が闇に包まれたような感覚を覚えた。
息ができない。肺に空気を送り込もうとしても全く機能してくれない。
ああ、まるで背中に象でも乗ってる感じだ。重い‥‥‥
うっすら目を開けてみたが、全てが真っ赤で何も見えなかった。
耳鳴りがする‥‥うるさくてたまんない。
それより息!息ができない‥‥息‥‥苦しい‥‥‥息!息!息したい!
俺は肺に空気を入れたくて、思いっきり空気を吸い込みそして吐き出した。
おぎゃあぁぁぁ!! ‥‥‥‥‥あれ?
□ □ □
ガツッと、何か硬いものが額にぶつかり、俺は目を瞬かせた。
目の前には肩までの黒いおかっぱ頭の少女。
濃い緑の瞳をした少女は、4歳くらい?
なんと、俺がこれまで見たことがないほどの美少女?いや、美幼女だった。
こんなに幼いのに、目鼻立ちははっきりしてるし、緑の目はややきつい印象だがすっごく綺麗だ。
ああ、やっぱり西洋人の子供って可愛いなあ。マジで天使みたいだ。
美幼女の手には、木の四角い塊が握られていた。え、と‥‥なんだっけ、あれ?
「まあ。レベッカ。駄目よ、弟を積み木で叩いては」
今度は頭の上から優しい声が聞こえてきたので見上げれば、これまた初めてお目にかかるほど壮絶美女と目が合って俺はポカンとしてしまった。
センター分けにした銀色の長い髪が、先の方まで細かいウェイブがかかっていて、その美しさはまさしく女神様!
ええ〜〜何?なんなの、この状況!俺、今どこにいるんだあ!?
俺、日本にいたはずなのに、いつの間に外国に来たんだあ?どこ?ここどこ?
わけがわからなくてすげぇパニックに陥った俺は、あろうことか泣き出してしまった。
おいおい。いい年して声上げて泣くなんて──あ、いや、これ泣いてるのってホント俺か?
声がまるで小さなガキなんですけど?
ふわっと身体が浮いた。
気づいたら間近に美女の顔があって、俺はヒックと引きつった声を出した。
「よしよし。痛かったね」
「お母様!私が悪いんじゃないわ!ルカスがお城を壊したのよ!」
「まあ、レベッカはお城を作っていたのね。じゃあ、もう一度作ってお母様に見せてくれないかしら」
美幼女は母親の言葉に目をパチクリさせる。可愛い。凄く可愛い。ほんとに天使!
「いいわ。今度はもっと素敵なお城を作ってお母様に見せてあげる!」
レベッカと呼ばれた天使ちゃんは、ニマッと笑うと崩れた積み木を手にとって積み上げ出した。
おお〜と俺は感心した。普通この状況であれば、殴った方が怒られるのに、この美女は怒らないで娘の機嫌を直した。
そうだよなあ。明らかに下の子が悪いのに、お兄ちゃんだからお姉ちゃんだからと怒られて我慢をしいられる。理不尽極まりないもんなあ。
でも、痛かったんだよなあ。俺何やったのか覚えてないけど。
白くて細い綺麗な手が俺の額に触れた。
「コブが出来てるわね。でも血は出てないわ。痛い?」
優しい声で問われた俺は、フルフルと首を横に振った。
美女がにっこりと笑ったので、俺はそれだけで天国に行けそうだった。
ここまできたら、鈍い俺でもわかる。抱っこされた俺が記憶より小さくなってること。
俺に笑いかけている美女が母親で、今積み木を積んでいる天使ちゃんが俺の姉だってこと。
これが夢でなければ、もしかしなくても。俺は転生した?
最後の記憶がふいに頭に浮かんで俺は美女、母親の手をギュっと掴んだ。
強い衝撃と息ができない苦しさ。ああ、俺、死んだんだ。あの時に。
俺を抱っこした美女が部屋を出ると、メイド服を着た女性が近寄ってきた。
いや、マジでメイド服だよ。紺地のワンピースに白いエプロン。きっちり編み上げてまとめた茶色い髪。メイドがいるって、ここん家、金持ち?
抱っこされたまま周りを見ると、ここが信じられないくらい大きな屋敷だとわかった。
長い廊下。大きな彫刻や絵画が目に入る。数えるのを放棄するほどたくさんあるドア。
なんだなんだ、俺ってすんげえ金持ちの家に転生したのか。やべえな。いや、嬉しいけど。
日本にいた俺ん家は2LDKのマンションだったけど、田舎の爺ちゃん家は農家だったからデカイ日本家屋だった。
ここは西洋‥‥だよな。靴のまま歩いてるし。第一、美女も天使ちゃんもメイドも西洋人だ。
美女は銀髪で緑の瞳をしてるし、姉らしい天使ちゃんは黒髪だったけど、やっぱり緑の瞳をしてた。
メイドは茶髪で茶色い瞳だ。
しかし、服装がなんか古風だな。美女が着てるのは、足元まであるワンピース──いや、ドレスかな。まるで19世紀あたりの感じだなあ。まさか、俺、時代を遡って転生したとか?
メイドがドアを開けると、美女、いや母親が中に入り、俺をベッドの上に下ろした。
メイドが靴を脱がしてくれる。
「夕食までゆっくり休んでいなさい。気分が悪くなったら、ちゃんと誰か呼ぶのよ」
母親はそう言って俺の頰にキスし、メイドと共に部屋を出て行った。
ドアが閉じるのを見つめ、しばらくぼぉ〜っとしていた俺は、ハッと我に返りベッドからピョンと飛び降りた。
目指したのは鏡。丁度壁に大きな鏡があったので、俺はその前に立って自分の現在の姿を確かめた。
見た瞬間、俺はおお〜っと声を上げてしまった。
鏡に映った俺は、3歳くらいの男の子だった。
母親に似た、耳が隠れるほどの長さの銀髪に緑の瞳。母親と姉に比べると、やや明るめの緑だ。
色白でふっくらした頰、赤い唇。いやあ、俺も美幼児だねえ。
10年後、美少年確実?日本にいた時の俺も、一応イケメンって言われてたけど、これはもうレベルが違うよなあ。
まあ、母親があの美女だから、当然っちゃ当然か。姉も天使ちゃんだしなあ。
美少女から美女は確実。それを身内として身近で見られるなんて、俺ってばラッキーじゃん!
とりあえず、ここがどこで、なんという家なのか知らないと。
大きな窓から外を見ると、緑の木々と青い空が見えた。
それだけでは、ここがどこなのかわかりようがないが。
トントンとノックの音が聞こえたので、俺はすぐにベッドに戻った。
さっきのメイドがドアを開けて部屋に入ってくる。
メイドの手には、水の入った器と白い布があった。
「ルカスさま。痛みはありますか?」
メイドは布を水に浸してから絞ると額のコブに当ててくれた。
少し熱を持っていたのか、布が当てられるとヒンヤリして気持ちが良かった。
「ねえ、僕の名前なんだったかな」
え?とメイドが驚いた顔をする。
やべえ、聞き方間違えた。
「え、と。ルカス‥‥なんだったかなって」
ああ、とメイドは笑った。
「ルカス・アルジュ・ナ・オトゥール様ですよ」
アルジュナ〜〜?インドの神さまじゃん。凄え名前!
ん?あれ?前にもこんなこと思ったような気が。
───悪役令嬢の名前が、クリシュナってやべえよな。
───何言ってんの、○ ○。悪役令嬢のレベッカの弟なんかアルジュナよ。
───うわあ、名前決めたの誰だよ!選りに選ってインドの神さまかよ。
「‥‥‥レベッカ・クリシュ・ナ・オトゥール」
「まあ、レベッカ様のお名前もちゃんと言えるようになったのですね、ルカス様。偉いですわあ」
「‥‥‥‥‥」
マジかよ───
□ □ □
乙女ゲームに夢中になっていたのは、俺の2歳年上の従姉だった。
父親とマンションで二人暮しだった俺は、母親が病気で亡くなった中学の頃から、近所に住んでいる従姉の家によく行っていた。
父親は出張でいないことが多いので、心配した伯母がご飯を食べに来いと言ってくれたからだが。
13歳から五年。俺はもう家族のようにこの家に溶け込んでいた。
伯母は亡くなった母の姉だ。
子供は娘が一人だけのせいか、みんな俺を家族のように思ってくれていた。
従姉は、大学に入って友達にハメられたと言って、乙女ゲームなるものを熱心にやっていた。
最初は、こんな子供がやるようなもんと言っていた彼女だが、すぐに夢中になったようだ。
それに俺も巻き込まれたのだが。
ハマれば、それを誰かと共有したいというのは理解できるが、なんで俺?
ハメた友達がいるだろう、と言ったら、家でも話したいのだと言われた。迷惑な。
従姉が一番ハマっていたのが【暁のテラーリア】というゲームだった。
従姉が友達に勧めらたゲームをやってドハマりしてから買ったのが【暁のテラーリア】というシリーズものなのだが、彼女が最初に買ったのは、本編ではなく、スピンオフ的なものだったようだ。
パッケージのイラストが気に入ったからだというのだが。
それは続編にチョイ役で出てきたキャラを使って作られたもので、サブタイトルは確か『国外追放?上等です!』だったか。
王太子の婚約者だった悪役令嬢が、ヒロインを虐めたという理由で婚約破棄され国を追い出されるという話だった。普通なら己の身の不幸を嘆く筈だが、凛とした態度を崩さず、王宮を後にした彼女は凄くカッコよかった。
実際、悪役なのにヒロインより人気があった。当然か。サブタイトルからでもわかる通り、悪役令嬢がメインのゲームだ。
乙女ゲームは、普通、ヒロインが数々の苦難を乗り越え攻略対象と結ばれるというのが定番だったが【暁のテラーリア】では珍しくライバルが登場し、ヒロインと攻略対象の障害になるという話が大いに受けた。
そもそも、悪役令嬢という呼び名は、一作目が出てからファンが言い出したものだった。
続編からは普通にヒロインのライバルが悪役令嬢と呼ばれるようになった。
ゲームが気に入った従姉は、シリーズで出ているゲームを全部買い、俺はその全てに付き合わされた。
おかげで【暁のテラーリア】についてはかなり詳しくなった。
さて。で、レベッカ・クリシュ・ナ・オトゥールだが、間違いなく最初に従姉がやった【暁のテラーリア】の登場キャラだ。それも、あの人気のあった悪役令嬢。
いや、マジかよ‥‥転生先が乙女ゲーム?で、俺が悪役令嬢の弟?
俺はどうしても受け入れられず、ベッドの上をゴロゴロと転げまわった。
夢なら覚めろ!って気分だが、自分が死んだのは間違いないから諦めるしかない。
何しろ、乗っていたバスに真横から大型トラックが突っ込んでくるのを、この目でバッチリ見たのだから。
交差点で、信号は赤なのにトラックはアクセル全開で突っ込んできたのだ。
バスは乗客で満杯。俺は真ん中あたりに立っていて外を見ていた。
だからトラックを運転していた男の顔もハッキリ見えた。原因はなんなのかわからないけど、トラックを運転してた奴も死んだだろうな。あれで生きてたらスゴイわ。
「ルカス?何やってるの?」
ベッドの上でゴロゴロ転がっていたら、ふいに声をかけられ、俺はピタッと動きを止めた。
視線を向けると、いつ入ってきたのか、そこには黒髪の美幼女が不思議そうな表情で俺を見おろしていた。
「あっ、悪役令嬢だ」
心の声のつもりが、声に出していたらしく、レベッカはキョトンとして首を傾けた。
「悪役令嬢?何それ?」
「う〜んと?ヒロインを虐めて断罪される可哀想な女?」
「はあぁぁ!?」
レベッカは夜叉のように顔を歪めると、拳を作って思いっきり俺の頭をぶん殴った。
□ □ □
前世の記憶が一度に戻ったら混乱するだろうな、と思ったのだが、そんなことはなかった。
急ぐこともないので、ゆっくり記憶を整理していたら、気づいた。
俺、ルカスとして生まれた時の記憶があるわ。
産声を上げた時にはまだ前世の記憶がそのまま残ってたし。それから、なんだか記憶があやふやになり、ハッキリしたのは姉のレベッカに積み木で殴られたあの瞬間だった。
なので、俺は赤ん坊だった頃の記憶がまるで残っていない。
まあ、寝て起きて乳を飲んでというだけだし。自由に動けない状態だったから、それはそれで助かったというべきか。
俺という自我が残ったまま、女性にオシメをかえられるのはやっぱりいい気分じゃないからなあ。
姉のレベッカは、言葉を殆ど喋らないけど可愛かった弟がいなくなったとご不満の様子だ。
どうやら俺は、記憶が戻るあの時まで、殆ど喋ることをせず、ただニコニコ笑っているだけだったらしい。
歩き出すのも遅かったようなので、発達に問題があるのではないかと家族に心配されていたようだ。
それがいきなり喋り出したのだから、皆驚いたろう。
それにしても、やはり俺が転生したのは、前世従姉が好きだった【暁のテラーリア】の世界で間違いないようだ。
ここはレガール王国で、俺はそこの侯爵の息子。
そして、姉のレベッカは間違いなくゲームの悪役令嬢。
今も信じられないが。だって、ゲームの世界だぞ?人が作ったゲームの中に自分が存在しているなんて信じられるか!
実は俺は死んでなくて、意識不明状態で病院にいて、俺は夢を見ているんだということの方が現実味がある。
しかし、こうしてルカスとして生きていると、これは夢なんかじゃないと思えてくる。
現実───ズーンと落ち込む現実だが、もう一度生きていけるということに感謝すべきかもしれないとも思う。
俺はルカス・オトゥールとして生きていくことを決め、まずは知識を得ることを優先した。
俺はいずれオトゥール侯爵家を継ぐんだから、勉強は必要だ。
幸い、屋敷には沢山の蔵書があり、俺は毎日図書室に入り浸って勉強をした。
最初は姉のレベッカが色々教えてくれたのだが、十日もしないうちに俺は姉を追い越した。
父親はそれを見て、まだ早いと思っていた家庭教師を俺専用につけてくれた。
それが気に入らないらしく、レベッカはよく俺に文句を言った。
姉はまだ4歳だが、侯爵令嬢としての教育は必要らしく、ちゃんと彼女専用の教師がいる。
だが、俺の知識はもう彼女をはるかに超えていた。
この世界に魔法はないが、俺は前世の能力をちゃっかり持ってきていた。
それは、記憶能力だ。俺は、一度読んだものや見たものは絶対に忘れないのだ。
なので、俺は学校ではテスト勉強などしたことがない。
授業で覚えたことを忘れないのだから、改めて覚え直す必要はないからだ。
ゲームでやったことも全て覚えている。
どの時期にどんなことが起こるかとか、全登場人物のセリフもバッチリだ。
この世界がゲームの世界で間違いないのなら、近い未来に姉のレベッカは王太子の婚約者となり、そして将来悪役令嬢となって国外追放となる。
う〜ん‥‥それっていいことなんだろうか。
国外追放となったレベッカがどうなったかはゲームにはなかった。
ただ、彼女のことだからしぶとく生き抜いていったんだろうなあ、とは思うが。
けど、なんかムカつく。
王太子による断罪は、ハッキリ言って胸糞悪かったのだ。
考え込む俺の額に、小さな手が当てられ、俺は目を瞬かせた。
図書室に備え付けられた机に俺と向かい合って座っていたレベッカが、机の上に身を乗り出すようにして俺の額に手を伸ばしていた。
「熱はないわね。そんなに顔をしかめて、どうしたのルカス?気分でも悪い?」
俺とレベッカは、時間があればこうして邸の図書室で一緒に本を読むことが多かった。
この日も家庭教師による勉強が終わってから、夕食の時間まで二人で本を読んでいた。
相変わらず、物凄いスピードでページをめくる俺にレベッカは悪態をついていたが、俺が急に手を止め顔をしかめたので気になったらしい。
ああ、こういう所は本当に可愛い。今もこれからも、彼女は天使のままに違いない。
なのに、あのクソ王子は!
俺は、まだ見ぬこの国の王太子に対し腹が立って仕方なかった。
ゲームが始まるのは、レベッカが貴族の学校に通う時からだ。
王太子はレベッカより1歳年上だから、先に入学している。
王太子の浮気が始まるのは入学式から数ヶ月後だ。
ゲーム通りの展開になるか今はわからないが、このまま何もしないでいいとは俺には思えない。
俺はゲームの断罪シーンを見た時、悪役令嬢に同情した。
そして、今は俺のただ一人の大切な姉だ。
「 ? どうしたの?」
じーっと見つめる俺に向けて首を傾げる姉が可愛いので、つい軽口が出る。
「うん。天使ちゃんは、俺が守らなきゃって」
ぺしっと小さな手が俺の頭を叩いた。
俺が姉のことを天使ちゃんと呼ぶといつもムッとされて叩かれる。褒めてるのに理不尽だ。
またしばらく無言で本を読んでいると、メイドが呼びに来た。
メイドは、オトゥール侯爵が帰宅し、俺たちを呼んでいると伝えた。
おお〜一週間振りのご帰宅かあ。父は外交の仕事をしてるらしく、長期間仕事で戻らないことが多かった。
そういう所は前世と同じだな、と思う。
まあ、今の俺には美人の母親と天使ちゃんの姉がいるのだが。
リビングで父が待っていた。
父のそばには、見慣れない子供がいた。
一瞬、父が隠し子を連れて戻ったかと思ったが、そんな設定はなかったなと思い直す。
だいたい母にベタ惚れの父親が、他所で愛人作るなんて、まああり得ないことだった。
娘のレベッカと息子のルカスだ、と父は見知らぬ子供に俺たちを紹介する。
「この子はイリヤ。今日からうちで預かることになった」
預かる?
「預かるって、どういうこと?お父様」
「言葉通りだよ、レベッカ。彼は今日からこの家で生活することになった。イリヤは、レベッカ、おまえより三つ年上だ」
ええ〜!てっきり俺と変わらないと思ったんだけど?
顔立ちは整っているけど、かなり幼く見える。ハッキリ言って童顔だ。
黒髪なのに、銀に近い灰色の瞳をしている。
ん?
そういやいたっけ。悪役令嬢レベッカの側に影のようについていた男が。
名前も容姿の説明もなく、ただ姉の側にいた、いわゆるモブという存在だ。
黒髪の執事姿の男の後ろ姿がワンシーンだけあったっけな。
それがこいつ?
俺は父親の隣に立つ少年を姉の背後からじっと見つめた。
姉の3歳上なら、今7歳か。うん、多く見積もっても5歳にしか見えん!
緊張してるのか、表情が硬い。警戒してるようにも見える。
いったい父親は、どこからこいつを連れてきたのか。
名前だけしかないなら、平民の子なのだろうが。
う〜ん?なんか引っかかるな。まあ、考えてみれば、従姉がやってるのを見てただけだしなあ。
攻略本も見たことないし。
それでも、俺は悪役令嬢の未来がどうなるかを知っている。
知ってるからには、傍観じゃなくしっかり関わるべきだと俺は思うのだ。
よ〜し!やってやるかあ!