5.悪魔が
皆のために声を出しながら俺も駆け下りる。
誰かが死ぬ。悪魔に追われている時点で確定している。
まとまっていた方が大勢死ぬ。バラバラに散らなければ大勢死ぬ。
後方、酷い悲鳴が聞こえてきた。
俺は、向こう側に見える螺旋階段に飛び移る。
ガシャーン!
度肝を抜く、大きな着地音が響いた。
ハッと背後を振り返ると、音に気付いた悪魔が顔を上げてこちらを見た。
そして、悪魔は捕まえていた誰かをゴミのように投げ捨てた。
ガバリ、と悪魔の顔部分が大きく割れる。滴る赤が現れた。
まるで黒い岩石の中の灼熱の溶岩。悪魔の口だ。
恐怖で全身の毛が逆立った。
「お前か!」
と悪魔が叫んだ。
そしてバネのような脚力で、俺の移った螺旋階段に飛び乗ってきた。
ガシャーン!
大きな着地音が響く。俺より随分と上の位置。だけど俺の位置も大きく揺れ、俺はその衝撃で我に返った。
完全に目をつけられた。リーダーだと認識された。
死にたくない。
こんな訳の分からない場所で、訳の分からないまま死ねるか。
駆け下りる。
追ってくる。
飛び移る。
部屋の陰に入る。視界から逃れる。良い道はないか必死で、瞬間的に決断し続けて逃げる。違う未来があるはずだ。
駄目だ、振り切れない。
完全に狙われている。
どうすれば良い。逃げきれない。
恐怖で涙がにじむ。
方法がない。
・・・あっ
それはまるで奇跡的な啓示だった。閃くように思い出した。
脳裏に、観音開きの大きな扉が浮かんでいる。
『禁断の扉』
そう呼ばれ続けている場所。決して開けてはいけないと言われているもの。
丁度今、この螺旋階段を降りていけば、ある。
俺は衣服の上から、胸の位置にぶら下がっているカギを片手で握りしめた。ある。カギがある。
悪魔の手にかかるのならばいっそ。悪魔さえも手にかけることのできる存在を封じ込めたという、あの、扉を・・・!
俺は走った。
悪魔が迫っている。
胸元にぶら下がるカギを衣服の中から取り出し握り込んで走る。
『禁断の扉』にたどり着いた。
ドアノブのような場所が光って見える。俺は十字のカギを押し付けた。
「それを開けるなぁあああっ! それは『神の塔』さえ飲み込むぞっ!!」
俺の行為に、悪魔が叫んだ。
恐怖で立ちすくみそうになったのを、奮い立ってまた駆け出す。
扉は開いたのか。何かが現れたのか。分からない。
だが、悪魔が追ってこない。足止めできている。
確実に、俺は封印を解いている。