4.この世界
夜。朝。
毎日繰り返す。
悪魔から逃げ続け、捕えられたなら食い殺される。
螺旋階段を駆け上がり、駆け下りる。誰かが新しく迷い込む。
この世界は閉ざされている。
螺旋階段の最上部は、他の螺旋階段の最上部と繋がっている。上りきったら下るだけだ。
到底届かない高さに天井は見える。壁面、まるで絵に描いたように、太陽がそこに昇り、沈んでいく。
一方の最下部では、螺旋階段は独立している。床から1本1本生えている。
ボコボコした鉄板のような床の中央、幼児用プールが置かれたような奇妙さで、赤い池が存在する。
下は上より随分暗く、池の赤さが際立って恐ろしい。
そこから泡のように悪鬼が生まれる。
追われて最下部まで降ることになった俺も見た。
池の中に落下したら助からない。二度と浮かび上がらない。
ひょっとして何かの入り口では、と一瞬考えたとしても、実際に命をかけて試す馬鹿はいない。
そして、俺が来る前から、ここにいる人間たちは『池に落ちた人間は死ぬ、または悪鬼に変わる』という結論に至っていた。
だから、すでに螺旋階段から足を踏み外して落ちても助かるようにと、途中に緑色の網がハンモックのようにかけてあり、今もかかったままだ。
俺もこの網に一度助けられたことがある。
***
俺より古株の人間は、もういなくなってしまった。
もう何年も経って、俺はまだ生きている。
人間の中で、今では俺が一番この塔に詳しいはずだ。
どの部分で他の螺旋階段に飛び移りやすいか。どの影なら見つかりにくいか。
だから、大勢が俺を頼る。実質、俺はリーダーのようになっていた。
それでも誰かが消え、誰かが入ってくる。
***
俺たちは悪魔に追われていた。
この世界において、悪魔が一番恐ろしい。
他は、区別して悪鬼と呼ばれている。
人間よりは小さいが数が多い。悪魔の手下だ。
黒い外見で、たくさんのコブがついたように全身が醜くボコボコしている。
悪鬼の知能は低い。
だから、物陰に隠れてやり過ごし、逃げ切る事もできるのだ。
だけど悪魔は明らかに、性能が違った。
人間の倍ほどの背丈があり、1体だけしかいないくせに、俊敏であり殺傷能力が高い。
外見も悪鬼とは全く異なり、強靭な滑らかさを感じる。
最も厄介なのは、人間と同等に知能がある事だった。
地の利も俺たちより悪魔にある。
悪魔が追ってきたなら、必ず最低何人か犠牲になる。
そして。
「逃げろ! バラバラになれ!」
今、俺たちは悪魔に見つかった。