3.話によると
朝が来た。
生き延びた。
俺はすぐ傍にある球体状の部屋を恨めしく見つめた。
決して中に入ることができない。出入口が分からないからだ。
「なんでこんなことになったんだ! 俺が何したって言うんだ」
最近合流してきた1人が嘆きの声を上げた。
視線を向ければ、頭を抱えうずくまっている。
誰もが考える。だけど答えなんてない。
夜に逃げ切らなければ次の朝が迎えられないことだけが現実で、死にたくないと誰もが願っている。
「部屋に入れたら、逃げなくても良くなる」
と、他の一人が言った。嘆いている者への慰めに。
「どう入るっていうんだよ!」
と嘆いていた男が責めるように尋ねる。
「分かってたら苦労しないって」
ポツリ、と答えたのはまた違う誰かだ。女の声。
疲れ切った面々、諦めた面々。
「入り口なんてあるんだろうか」
俺の言葉は独り言めいた。
「悪魔以外、部屋から出てきたって話も聞かないし」
「だけどな、食われてねぇハズなのに、消えたヤツもチラホラいる」
と今まで黙っていた別の一人が声をあげた。
「勝手に死んだか、来た時みたいに他のとこに行っちまったか。部屋に入ったか、だ。昔いたやつが、部屋の方が、入れる人間を選んでるんじゃないかって言ってた」
「・・・」
全てが不確かだ。
発言は止まったものの、なんとも言えない雰囲気が漂ったままだ。
「な。・・・『神の塔』って知ってるヤツいるか? 聞いたこと、ある?」
と小さな声で、誰かが言った。それなりには聞こえるように、だけど広くは知らせたくない秘密であるかのように。
そんな気配に、誰もが息を潜めるようになる。
「教えてください」
と俺は急かした。
「俺は信じてる。『神の塔』にいけば、助かるって。・・・そこに行くことができれば、この世の神になれるって、前にいた人に聞いた」
「・・・本当に? そんな場所があるんですか? どんな場所ですか?」
「・・・信じるなら探してみるしかない」
信じる者は救われる?
完全にその男は信じている、ということだけは事実だった。思い当たるところがあるのだろうか、何かの確信すらあるような。
「・・・休もう」
誰かがポツリと言い、皆それぞれに思いを抱えながら、眠りについた。
***
夜が来る。
逃げるために目を覚ます。
『神の塔』の話をした男の姿が無いと、気が付いた。
二度とその男に会うことがなかった。