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神の塔  作者: 天川ひつじ
3/10

3.話によると

朝が来た。

生き延びた。


俺はすぐ傍にある球体状の部屋を恨めしく見つめた。

決して中に入ることができない。出入口が分からないからだ。


「なんでこんなことになったんだ! 俺が何したって言うんだ」

最近合流してきた1人が嘆きの声を上げた。

視線を向ければ、頭を抱えうずくまっている。


誰もが考える。だけど答えなんてない。

夜に逃げ切らなければ次の朝が迎えられないことだけが現実で、死にたくないと誰もが願っている。


「部屋に入れたら、逃げなくても良くなる」

と、他の一人が言った。嘆いている者への慰めに。


「どう入るっていうんだよ!」

と嘆いていた男が責めるように尋ねる。


「分かってたら苦労しないって」

ポツリ、と答えたのはまた違う誰かだ。女の声。


疲れ切った面々、諦めた面々。


「入り口なんてあるんだろうか」

俺の言葉は独り言めいた。

「悪魔以外、部屋から出てきたって話も聞かないし」


「だけどな、食われてねぇハズなのに、消えたヤツもチラホラいる」

と今まで黙っていた別の一人が声をあげた。

「勝手に死んだか、来た時みたいに他のとこに行っちまったか。部屋に入ったか、だ。昔いたやつが、部屋の方が、入れる人間を選んでるんじゃないかって言ってた」


「・・・」

全てが不確かだ。

発言は止まったものの、なんとも言えない雰囲気が漂ったままだ。


「な。・・・『神の塔』って知ってるヤツいるか? 聞いたこと、ある?」

と小さな声で、誰かが言った。それなりには聞こえるように、だけど広くは知らせたくない秘密であるかのように。

そんな気配に、誰もが息を潜めるようになる。


「教えてください」

と俺は急かした。


「俺は信じてる。『神の塔』にいけば、助かるって。・・・そこに行くことができれば、この世の神になれるって、前にいた人に聞いた」


「・・・本当に? そんな場所があるんですか? どんな場所ですか?」

「・・・信じるなら探してみるしかない」


信じる者は救われる?


完全にその男は信じている、ということだけは事実だった。思い当たるところがあるのだろうか、何かの確信すらあるような。


「・・・休もう」

誰かがポツリと言い、皆それぞれに思いを抱えながら、眠りについた。


***


夜が来る。

逃げるために目を覚ます。


『神の塔』の話をした男の姿が無いと、気が付いた。


二度とその男に会うことがなかった。


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