2.カギ
この灰色の世界には、太陽が存在する。
つまり、朝や夜もあるということだ。
そして、人間を襲う悪魔たちは、太陽の光が照っている時は出てこない。
だから人間は、太陽の光の元に眠り身体を休め、太陽の光が失われた夜に、悪魔から逃れるために螺旋階段を駆けまわる。
毎日、誰かが捕まり食われていなくなる。
一方で、いつかの俺のように、どこからか人間は現れ、俺たちに合流する。
顔ぶれはどんどん変わる。けれど人間の数は大きく減りもしない。
ある日は、悪魔の声が、遠方にもかかわらずハッキリと耳に届いた。
「おのれ人間ども! 払っても払っても沸いてくる害虫ども!」
そんな中で、なんとか生き延びている。
***
ん。
朝が来て、螺旋階段上、点在している部屋の影でそれぞれ休もうとした時だ。
俺は自分の首から何かぶら下がっていることに気が付いた。
いつの間にか首にかかっている紐。先に、変わった形のものがぶら下がっている。
先端は十字の形で、ハンコに見えなくもない、ハンコよりは大きなものだ。
「なんだこれ」
見ていると、俺よりも長くここにいる初老の男が気づいて教えてくれた。
「それな、皆がいつの間にか持っているカギだ」
「カギ? どこのカギですか」
と俺は尋ねた。
「『禁断の扉』だ」
その男は俺にこう尋ねた。
「場所はもう知ってるか?」
「はい」
俺は頷いた。
逃げる中、先に逃げていた人たちから、情報が共有されていくために、ある程度様々な事を知っている。
教えられた一つに、『禁断の扉』というものがある。
「悪魔でさえ恐れるほどの存在を封じてあるという場所でしょう?」
螺旋階段のうちの1つ、かなり下の方にいくと扉が現れる。そこがそう呼ばれている。
「そうだ」
とその男は頷き、首にかかっている紐をたぐりよせ、俺と同じもの、カギ、がついているのを見せてくれた。
「このカギは、あの扉を開けることができるらしい」
どうしてそんなカギが、いつの間に首にぶら下がっているのだ。
しかも多くの人間たちの首に。
勿論俺はそれについて尋ねた。
だが、少なくとも生きて今ここにいる誰もが答えを知らない。
だから、もう休むことにしよう。
俺はカギを衣服の中にしまい込む。逃げる時の動きの邪魔になる。
それに、悪魔より恐ろしいものが封じられている扉など。
禁忌であり、手を出すべきではない。