次の日から小説化まで、そして歌う。
「うん、応援するよ。」
あー、何言ってんだ昨日の私。
しかも、一枚百円。
完全に酔ってたわー。
竜介のファングットは1500。
無料サイトとは言え少なくてもその10倍近い1万人は見ている筈だ。
私のイラストサイトは1日の閲覧が5人程度で、ファンフレンドも140人。
その140人もイベントで一回あった事ある適度のサークルの人達でただの付き合いファンフレンドだ。
竜介の小説に絵を描けば、1万人以上に私の絵が見られる。
高校生の頃の私なら喜ぶかもしれないけど、大人になった私にはプレッシャーだ。
一日中絵のことを考え何回も小説を読み直す。
あーでもない、こーでもない。
「ああっ〜、せめて一枚千円取ってやるべきだったな。くそー。」
こうして私は竜介に絵を提供し、飲みに連れて行ってもらい一枚百円で枚数分お金をもらう。
竜介の小説はイラスト付きで他の人の小説よりも目立ちどんどんファングットが増えていった。
正直私の絵が本当に役立っているかはわからなかったが、竜介の小説の人気が上がり竜介が喜ぶとわたしも嬉しかった。
こんなに一生懸命に絵を描いたのも久しぶりだし楽しかった。
ところが、ある日を境に竜介からの連絡が途絶えた。
毎日投稿してた小説も3日に1回になった。
小説は更新してるから病気とかじゃない。
なんで連絡くれないんだろ?
どうしてるのかな?
会いたいな。
竜介との小説作成は私を変えていた。
毎日飲んでたビールもやめたし、学生だった頃の様に新しい絵の技術もどんどん勉強した。
会いたいな。
気づくと私は小説用のイラスト作りをやめて竜介の顔を描いていた。
「あー、なんなのよもう。
人気が上がった途端に連絡して来なくなってー。」
私は竜介の小説のイラスト作りをやめた。
そういえば結構一緒に飲んでたのに一回も抱こうとして来なかったな。
「あー、やっぱり現実の男はダメね。」
私は私の棲家に帰ろう。
「ビールとビーエルだ!」
最近竜介が美味しいお酒ばっかり飲ますから、いつもの発泡酒が不味く感じる。
竜介が美味しい料理ばっかり食べさせたから、いつもの唐揚げが不味く感じる。
……。
そうだ!
ずっと描こうと思いながら描いてなかった、男だらけのサッカーサークルを描こう。
「♩ウホッウホッウホッ、男だらけのサッカーサークル♫」
私は自我を取り戻し、本当の自分が覚醒していくのを感じていく。
「やっぱりビールとビーエルは最高だな。」
私はそのまま深い眠り落ちた。
メイクも落とさずパソコンデスクで寝ていた私を不快な着信音が起こす。
♩ウホッウホッウホッ、男だらけの、男だらけの、サッカーサークルーーー♫
酔っ払ってていつ登録したのかわからない、私が作詞 作曲 歌の不快な着信音が空き缶だらけの部屋に響きわたる。
「あい!もひもひ、ただ今電話に出られまひぇん。」
私はうるさい不愉快な着信音を止めるため仕方なく電話に出る。
「あの竜介だけど。
俺の小説が書籍化されたよ。
嬉しくて1番にエリちゃんに見せたくて、今サンプル本持ってエリちゃん家の近くの駅にいるんだけど…。」
なんですと!
「えっ?やっ、やったー、やったね。」
「今家にいるのか?」
「うっ うん。」
「じゃあ、これから持ってくな。」
「えっ?えーーーー!」
もう既に通話は切れていた…。
あー!やばいよやばいよ。
あーっ空き缶、いやメイク、その前にシャワーやばいよやばいよ。
とりあえずシャワーに駆け込む。
急いでシャワーを浴びる。
ピンポン。
欲張って頭まで洗ったのがまずかったのか、無情にもインターフォンがなった。
とりあえずドアの鍵を開けてバスルームに駆け込む。
「お邪魔します。っておい!すごい部屋だな。」
私のアパートはワンルームで部屋とバスルームの間のドアは透明な磨りガラスだ。
竜介の方からは裸の私のシルエットが見えている筈だし、私からはとりあえず空き缶を袋にまとめる竜介が見えていた。
「部屋散らかっててごめん…。」
「いや俺の方も急に来てごめん。
少しでも早く来て完成した本見せたかったんだ。」
「おめでとう…。」
「俺ちょっとコンビニ行ってくるよ。
シャワー終わったら連絡してくれ。」
「いや、いいよ。朝まで飲みつぶれてた私が悪いんだしそこに居て。」
「なんかドア磨りガラスだろ。」
「私なんか女じゃないし、別に気にしないでいいよ。」
「いきなり何言ってんだ?」
「いやほら、一緒に結構飲んでたのに抱いてくれなかったし、利用するだけ利用して小説の人気が出たから私なんか要らなくなったって。
それで連絡して来ないんだ。
とか酷い事考えて飲んでたの。」
「それは俺が悪かったよ。
編集の人に正式発表まで言っちゃいけないって言われてたんだ。
エリちゃんにはちゃんと伝えとくべきだった。」
「そっか、そうだよね。
もう趣味じゃなくてちゃんと仕事になったんだもんね。」
「これ見てくれ。」
竜介が後ろを向いてドアの前に手を伸ばして本を渡してきた。
本当に本になっていた。
すごい、すごい、すごい!。
残念ながら挿絵は私なんかより凄く上手いプロの方になっていた。
「すごいね、おめでとう。
挿絵の人やっぱり上手いね。
私も凄く良い経験になったよ。」
「そこはエリの絵を使いたいと言ったんだけど、編集の人に駄目だって言われて…。」
涙が出てきた。
竜介は私を女として見てなく、得意のイラストもプロの編集に断られた。
寒いお風呂場に裸でびしょ濡れで一人。
私は声を出すのを堪えきれなかった。
悔しい、悲しい、惨めだ。
私は今まで何をやってたんだ。
もっともっと一生懸命絵を描き続けていればこの本の挿絵は私の絵だったはずなのに…。
「ちょっと待って。
一番最初の作者紹介を見て欲しいんだ。
そこを見せたかったんだ。」
竜介が私の鳴き声に気づいて言う。
何を言っているのかはわからないが、私は震える手で一番最初ページを開いた。
そこには作者紹介の写真欄に私が描いた竜介の似顔絵が載っていた。