その7
その頃イナンナは区画内最大の大陸の西端で女神をやっていた。正確に言えば「聖母」と呼ばれるものであった。
その地域のゴイムは「知性の素」にもあまりありつけず「ゴイムの目」からの恩恵も薄かったため最近までぱっとしなかったが、イナンナ担当の「ゴイムの目」をその連中が持ち去ったため彼女から知識を享受することとなった。
「知性の素」不足による頑健な身体と野蛮な精神、イナンナの伝える知識によりその連中(他より表面が白いので白ゴイムと呼んだ)は活発に動くようになり、イナンナの教えを広めるという名目のため域外に進出し、各地のゴイムから略奪行為を働いていた。
イナンナは彼らの暴力行為を見ては救いようのない蛮種だといってその血生臭い様子を楽しんでいた。
ゴイム同士の過度な衝突はシミュレーションに支障をきたす恐れがあったし、例えゴイムといえども生物であることには違いなく、全ての生命の尊厳を守るラプト人のコアトルにとってはこれも弄んで良いものではなかった。
あるとき見かねたコアトルが白ゴイムの行為を自重させるようにイナンナに注意した。
イナンナがコアトルに食ってかかって反論しようとしたときにベルズブもイナンナの悪行を責めた。
自分の楽園である巨石の島が侵略される恐れがあったからだ。
プロジェクトリーダーとしてルスもイナンナをいさめた。
3人から同時に責めを受けてさすがのイナンナも二の句が継げられず、その場は黙りこくった。
しかし腹の虫は収まらなかったようで、コアトルが所用で席を外すや否や白ゴイムをコアトルの大陸にけしかけたのであった。
イナンナの名を冠した白ゴイムの船が大陸への足がかりとなる島を見つけ、じきに白ゴイムはコアトルの大陸へ上陸した。
コアトルが平和主義で配下のゴイム達に強力な兵器を持たせなかったこともあり、白ゴイムは瞬く間にコアトルの大陸を席巻し、彼のゴイムを蹂躙した。
イナンナが区画内の時間速度を速めたために、略奪、虐殺、白ゴイムがもたらした病気によりコアトルのゴイムはあっという間に姿を消してしまった。
所用から戻ったコアトルは自分の大陸で白ゴイムが彼の愛しいゴイム達を蹂躙する様子を見た。