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92 ファング

「魔王のカケラの保有者がもう一人……?」


 クラリスが戦慄した呟きを漏らす。

 彼女が言うとおり、奴は間違いなく魔王のカケラを持っている。

 だが、俺が斬った男より、そしてクラリスよりもずっと禍々しい気配を持っている。

 いや、もしかしたらクリスティアナよりも。


――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:▓▓▓▓

レベル:なし

――――――――――――――――――――――――――――――――――


「その人相……あなたは、ファングですね?」


 フレイユが奴を見上げながら呼びかけた。ゾッとするほど凍てつく声色だった。


「あん? その服装……神聖祓魔教団か。見覚えねぇ面だが、どこかで会ったか?」


「面識はありません。しかし三十年前、先代教主が大変お世話になったと聞いています。いつかそのお礼をしたいとずっと思っていました」


 前に話してもらった、三十年前に教団本部を襲ったというのがこいつか……。

 それにしては随分と若い。老化を抑えるアイテムを使ったのか。それとも魔王のカケラの影響か。


「先代だと? するとテメェが?」


「ええ、はい。神聖祓魔教団教主フレイユ・アーンフェです。お見知りおきを――」


 そう言い終わると同時に、フレイユは光の矢をファングに向けて放った。

 が、命中する前に全て掻き消された。


「挨拶代わりに殺意たっぷりの攻撃とは気に入った。先代より見込みあるじゃねぇか。それと――」


 ファングがペラペラと語っている隙に、俺は跳躍してその右側から斬りかかった。

 同時にクラリスも飛び、杖に黒いオーラを纏わせて殴りかかる。


「お前らもなかなかいい感じだぜ」


 ファングはクラリスの渾身の一撃を、手のひらで軽く受け止めてしまった。

 同じように俺の剣を掴もうとするが、そうはさせない。

 俺は剣の軌道を途中で変える。


「な、に」


 ファングは唖然と呟く。

 そして俺の剣はその脇腹を強打した。


「ぐおっ、痛ぇ! お前、かなりやるじゃねぇか!」


 ファングは嬉々とした顔になり、クラリスを振り回して俺に叩きつけてきた。


「きゃぁっ!」


「クラリスさん!」


 俺は慌てて受け止める。

 なんとか無事に着地した。


「新しい教主に、魔王のカケラを使いこなすガキと、信じられねぇレベルの剣技のガキ。いいねぇ、三人もそそる奴に出会えた。今日はいい日だぜ。だが……そこで倒れている二人は不合格だな」


 ファングは突如、標的を俺たちから、アンガスとカーリーに変えた。

 腕の先から二人に向かって、黒いオーラを発射する。


 不味い。

 二人まとめて跡形もなく消滅させるような魔力がこもっている。

 俺は咄嗟に魔力をこめた剣を投げ、黒いオーラにぶつけた。

 なんとか二人に直撃する前に黒いオーラを爆発させるのに成功した。

 しかし爆発の熱が、アンガスとカーリーに襲い掛かる。

 傷を負って動けない二人は、全身に火傷を負ってしまう。


「お父さん! お母さん! 酷い……なんてことを!」


 クラリスはファングに向かって突っ込んでいく。


「なんだ、お前の親だったのか。そりゃ悪ぃことしたな。だが、頭に血が上った状態で俺と戦えんのか……いや、戦えんのかよ! はは、最高かよ、お前!」


 クラリスは確かに頭に血が上っている。

 しかし魔王のカケラを暴走させることもなく、かつて俺と練習した棒術をより洗練された動きで使い、ファングと接近戦を行った。


 お互い黒い翼で空を飛び回る。

 フレイユはクラリスを掩護しようとしているが、素早すぎて手を出せないでいる。


 そして剣を失った俺も、二人の戦いに入ることができない。

 魔法を使えるようになったが、それでも俺の戦法は剣を前提に組み立てている。今の俺がなにかしても、むしろ足手まといになりかねない。


「ラグナくぅん、新しい剣よ。そーれ!」


 不意に、クリスティアナの声がした。

 そして俺の目の前に剣が落ちてきた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:聖剣グロリアスソード

説明:神の祝福を受けた剣。攻撃力+200。

――――――――――――――――――――――――――――――――――


 間違いない。

 俺が前世で死ぬ直前まで使っていた剣だ。

 それがなぜここに?

 理由は分からないが、とにかくこれでクラリスを援護できる!


「はっ!」


 俺はエアロアタックを駆使して空の戦いに参戦する。

 もちろん速度が違いすぎるので追いつくことはできない。

 だが動きを予測して先回りすれば――。


「ちっ! なんでテメェがそこにいる!」


 ファングは背中から俺に斬りかかられ、慌てた声を上げた。

 俺の斬撃そのものは回避するが、不自然な姿勢になったため、クラリスの杖で頭を殴られてしまう。

 そうしてバランスを崩したところに、フレイユの光の矢が迫る。


「ぐぉっ! 思った以上にやるじゃねぇか……つーか、今の俺じゃ分が悪い!」


 光の矢を喰らったファングは、その威力を利用して俺たちから大きく距離を取った。


「かなり面白れぇ……面白れぇぞ! 俺はテメェらみたいなのと戦って勝つのが好きなんだよ! しばらく待ってな。次は俺が圧倒してやるからよぉ! ははははっ!」


 ファングは高笑いを上げながら飛んで行った。負けそうになって逃げたくせに。

 これじゃ向こうが勝ったみたいだ。

 いや、ファングは魔王のカケラを一つ得て、こっちは二人が負傷した。それを考えれば負けたのはこっちか……。


「お父さん、お母さん!」


 クラリスは逃げるファングに目もくれず、両親のところへ走る。

 それにフレイユも続き、回復魔法を使う。

 それでなんとか一命は取り留めたようだ。


「はぁい、みんなのアイドル、クリスティアナちゃんの登場よ」


 クリスティアナが金色の髪をなびかせながらやってきた。

 燕尾服を着た従者アレクスも、無言でその隣に立つ。


 やはり俺に剣を投げてくれたのはクリスティアナだった。

 クリスティアナはお宝を保管するアジトを塔のあちこちに持っているらしく、そこから剣を持ってくるためクラリスと行動を別にしていたという。


「いやいやいや。その聖剣グロリアスソードは教団が七層で手に入れたものですよ。どうしてクリスティアナが持っているんですか」


 フレイユは目を細めて質問する。


「初めてフレイユに挨拶しにいったときにね。教団本部で見かけて、あんまり綺麗だから持って帰っちゃったの」


「持って帰っちゃったの、じゃありません。完全に窃盗じゃないですか」


「そうよ。私、悪党だもの。なにを今更って感じ。それに、本来の持ち主のラグナくんに返したんだからいいじゃないの」


「まあ……今は細かいことを言っている場合ではありませんから、それでいいとしましょう」


 フレイユは頭痛を堪えるように頭を押さえながら、渋々納得した。

 そしてアンガスとカーリーに本格的な治療をするため、四層の本部まで運ぶことにする。


 一方、クリスティアナとその従者アレクスは、六層に行くと言い出した。


「ちょっと野暮用があるのよ。またそのうち会いましょう」

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― 新着の感想 ―
[良い点] パンを作る妖精さんの投擲能力の高さよ
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