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85 話をまとめると

 千年前。

 復活しかけた魔王の頭上に『天墜の塔』が突き立てられ、世界の崩壊は食い止められた。

 以来、魔族は再び地中に封印され、神聖祓魔教団以外の人間はその存在を忘れてしまった。

 だが、三十年前。

 塔を攻略中の教団は突如、魔王の生まれ変わりを名乗る男と遭遇した。


 本来なら一笑に付すべき発言だ。

 しかしその男は、人間とは思えないほど膨大な魔力を持っていた。

 塔のシステムに由来するMPではなく、古代魔法の使い手が扱う魔力と同質のものだ。


 その男は四匹の魔族を従え、神聖祓魔教団の本部に襲いかかってきた。

 教団は混乱したが、しかし魔族のことは言い伝えられてきたし、それと戦うのをつねに覚悟していた。

 ゆえに犠牲を払いながらも四匹の魔族を倒し、そして魔王の生まれ変わりを自称する男を追い詰めた。

 あとわずかでトドメを刺せるというとき、もう一人、同等の魔力を持った別の男が乱入してきた。

 二人目の男は、最初の男から心臓を引き抜いて、その場で食った。

 その場に居合わせた者たちには、心臓というより魂を食っているように見えたらしい。


 次の瞬間、心臓を食ったそいつの魔力が倍に膨れ上がった。

 一人目の魔力を吸収したとしか思えなかった。

 そして二人目の男は、神聖祓魔教団に目もくれず、その場を立ち去った。

 あっという間の出来事だったらしい。


 それ以来、二人目の男の目撃情報はない。

 しかし、魔族が稀に現われるようになった。

 何年かに一度、一層や二層に黒いモヤが現われる。ステータス鑑定を使うと『魔族』と表示される。

 見つけ次第それを教団が倒しているが、魔族は目立った行動をせず、ただウロウロしているだけだ。森の奥でジッとしている魔族もいる。

 きっと教団が見つけた魔族は極一部で、その何倍も塔に入ってきているのだろう。

 だが、魔族の目的が分からない。

 そして魔王の生まれ変わりを自称する男と、それを食った男は何だったのか。

 神聖祓魔教団はいまだ何の情報も掴んでいない――。


「でも三年前。教主様は突如として、新情報を掴んだのよ。それはあまりにもショッキングで、教主様は一部の側近にしか明かしていない。その新情報を教主様に教えてあげたのが私」


 クリスティアナは自慢げに自分を指さす。

 するとフレイユは「ふぅ……」とため息をついた。


「あのときは本当に驚いたんですよ。真夜中、ふと目を覚ますと寝室に小さな女の子が立っていて。『私、魔王の生まれ変わりの一人なんだけど、話を聞いてくれない?』とか言い出して」


「だって話をするなら教団のトップに直接言ったほうがいいと思ったのよ。結果的に正解だったみたいだし?」


 苦笑するフレイユに対し、クリスティアナはイタズラっぽく微笑む。

 どうやらこの二人、かなり親密なようだ。

 また俺の中で凶暴を通り越して猟奇的でさえあったクリスティアナのイメージが、ほんの少しだけ柔らかくなっていく。

 もちろん油断などしていないし敵だと認識しているが、一触即発なのはアレクスだけらしい。


「それで、クリスティアナはフレイユさんにどんな話をしたんだ?」


「思いっきり要約すると――私は八歳の時、自分の中に得体の知れない怪物がいると自覚した。その力が暴走し、周りにいる人たちを皆殺しにしちゃった。そのあと意識を乗っ取られそうになったけど、最後は私の意志が勝った。おかげで私には自由な意識が残ったし、私の中にいた怪物の正体も分かったわ。それは、魔族の王。ただし全てじゃない。魔王は封印から逃れて地上に出るために、自分の魂を細かく砕いて、封印の隙間から地上に出た。でもあまりにも細かくし過ぎて、他の生き物に混ざってしまった。その生き物とは、人間。人間として輪廻転生を繰り返すうちに、魔王の魂は人間に少しずつ馴染んでいって……ようやく意識を乗っ取れるまでになった。それが三十年前に現われた二人の男であり、私というわけ」


「その細かく砕いた魔王の魂が、魔王のカケラというわけか……」


「そういうこと。私の中にまだ眠っているし、クラリスちゃんの中にもある。全部でいくつなのか分からないけど、クラリスちゃんのは四つ目ということね」


「お前はどうしてわざわざフレイユさんにそれを伝えに行ったんだ?」


「あら、当然でしょ? だって魔王は人間を滅ぼそうとしてるのよ? 私はたまたま勝てたけど、魔王のカケラを持つ人のほとんどは負けるわ。ラグナくんには分からないと思うけど……クラリスちゃんなら、何となく分かるんじゃなぁい?」


 クリスティアナがそう尋ねると、クラリスは小さく頷いた。


「はっきりとは分からないけど……またあのときみたいなことが起きたら……私、元に戻れない気がする……そんな予感がするの……」


「でしょ? 魔王は恐ろしいわ。そんな恐ろしい相手に勝った私は無敵の美少女なわけだけど。他の魔王のカケラの持ち主が、次々と魔王として覚醒して、合体して人間を滅ぼそうとしてきたら、さすがの私も困っちゃうわ。私、悪党だって自覚はあるけど、別に人間に滅んで欲しいとか思ってないもの。私が好き勝手に面白おかしく生きて行くには、世界を守らなきゃね。だから神聖祓魔教団に事情を打ち明けて、私以外の魔王のカケラの持ち主を保護したり、封印したり、退治したりして欲しかったんだけど……あんまり役に立ってないのよねぇ」


 クリスティアナは目を細めてフレイユを見つめる。


「仕方ないでしょう。何をするにしても、魔王のカケラの持ち主が見つからないと。それに教団の構成員のほとんどは魔族を深く憎んでいます。そんな彼らに、人間の中に魔王の生まれ変わりが潜んでいて、それが誰だか分からないと打ち明けたらどうなると思います? たんに疑わしいという理由で関係ない人を殺しかねません。教主である私が言うのもなんですが、神聖祓魔教団の組織力は今のところ当てにできません。あと役にたってないわけじゃないでしょう。クラリスさんを見つけたんですから」


「クラリスちゃんを見つけたのは私なんだけど?」


「た、たまたま二層で遭遇してケンカになっただけでしょう! こうして話をつけたのは私です!」


「話ついたの? ラグナくん、まだ納得してなさそうだけど?」


「これから納得してもらうんです!」


 クリスティアナは楽しそうにフレイユを煽り、フレイユはムキになって応える。

 まるで仲のいい姉妹みたいだ。


「……話をまとめてもいいかな?」


 俺がそう発言すると、全員の視線が集まった。


「塔が墜ちてくる前の話。魔族のこと。色々と勉強になった。けど要するに、最上層に行かなきゃハッキリしたことは何も分からない。そして塔を上るには強さが必要だ。だから神聖祓魔教団は俺に古代魔法を教えて、塔を攻略させたい」


「その通りです」


 フレイユが頷く。


「そしてクラリスさんの中にある魔王のカケラは、いつ暴走するか分からない危険なもので、クリスティアナは世界に滅んで欲しくないからその制御方法を教えてくれる」


「ええ。さっきは制御できるかどうかクラリスちゃん次第なんて言ったけど、まあ大丈夫でしょ。クラリスちゃん、芯が強そうだし」


 クリスティアナは気楽な口調で言う。


「……そして俺とクラリスは半年ほど別行動を取ることになる?」


「それは仕方ありません。ラグナさんが古代魔法を覚えるなら、教団の本部に来てもらうことになります。教団本部の近くで魔王のカケラを制御する練習をしたら、その気配を団員に察知されて討伐されるかもしれないので……クラリスさんとクリスティアナにはどこか別の場所でやってもらいます」


「俺が教団本部に行かず、クラリスさんと一緒に行くという選択肢は……」


「だーかーらー。ラグナくんは邪魔なんだってば。っていうか、クラリスちゃんが魔王のカケラを押さえる練習してる間、あなたは何するの? ぼけーっと見てるの?」


「お前がクラリスさんに変なことをしないか見張っている」


「その過保護っぷりが邪魔って言ってるの。ラグナくん、最上層までその調子で行けるつもりでいるの? あなたは確かに強いけど、そこまで強くないわ。そしてクラリスちゃんは、そこまで弱くないと思うけど?」


「それは……」


 俺だってクラリスを守りながら塔を上り続ける気はない。

 そもそも俺はソロでの攻略に限界を感じたから仲間を探したのだ。

 だからクラリスには早く強くなって欲しい。

 もちろん、そんな打算的な意味だけでなく、俺は彼女と一緒に肩を並べて進みたいのだ。

 肩を並べて……。

 そう思っているくせに、俺はクラリスを守りたいと思ってしまう。

 何なんだ、これは。


「まあ、男の子が女の子を守りたいと思うのは当然なんだけど。あんまり守られてばかりだと、見下されてる気がするわ。ねえクラリスちゃん?」


 クリスティアナは意味ありげにクラリスを見る。


「えっと……」


 クラリスはうつむき押し黙る。

 しかし不意に顔を上げ、クリスティアナとフレイユに視線を向ける。


「……明日まで答えを待ってもらってもいい……? ラグナくんと二人っきりで話し合いたいから……」


「ふーん……ま、明日までなら待つけど。じゃあ私、明日の朝また来るから。ちゃんと決めておいてね」


 クリスティアナは窓からひょいと飛び降りた。

 落ちていったのか飛んでいったのか分からないが、姿が消えてしまう。それは魔王の力なのだろうか。それとも古代魔法か。


「確かに、今いきなり答えを出すのは難しいでしょうね。今日はこの家に泊まってください。私以外は誰もいないので、気兼ねなく」


 俺とクラリスはこの家に一泊することになった。

 与えられた寝室はベッドが二つあった。

 俺たちは顔を見合わせ、ホッと安堵の息をつく。

 もし一つしかなかったら、緊張で眠れなかったかもしれない。

 ちょっと前までの俺ならまるで気にせず、むしろ赤くなるクラリスをからかっていたはずなのに。

 今は俺自身も緊張している。

 この状態でちゃんと答えを出すなんてできるのだろうか……。

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[気になる点] クラリスの両親について聞かないの? ラグナの知りたい事について何でも知ってる言ってたけど 知りたいと思ってないって事?
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