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84 何の話だ

 金色の髪。黒いドレス。人を食ったような笑み。

 見間違えるはずもない。

 無印でありながらこの俺と互角に戦ったクリスティアナだ。


「なぜお前がここにいる!?」


「あ。それは私が呼んだからです」


 フレイユは悪びれもせず、真顔で答えた。


「……なぜ呼んだんです」


 俺はクラリスを抱きしめたままフレイユを睨む。

 返答次第では――。


「そう怖い顔をしないでください。まあ二層で戦ったのをクリスティアナから聞いていますから気持ちは分かりますけど。魔王のカケラを制御するには、私たち神聖祓魔教団ではなく、クリスティアナの協力が必要になるんですよ。怒りを抑えて、とりあえずクリスティアナの話だけでも聞いてくれませんか?」


「魔王のカケラを制御する……? その方法を知っているというのか?」


 俺はクリスティアナを凝視する。

 こいつなら何かをつかんでいると思っていた。

 だが、そんな都合のいいものが出てくるとまでは期待していなかった。


「あら、やだ。ラグナくんったら、そんな情熱的に私を見つめて。もしかしてパンチラとか期待してるぅ? 残念でした。色気のないカボチャパンツよ」


 そう言ってクリスティアナは自分のスカートをめくる。

 何を考えているんだこいつは。場の空気が読めないのか。


「……あのアレクスとかいう男はどうした」


「アレクスは置いてきたわ。だって、あいつがいたら話し合いにならないでしょ? 私のパンツを見たラグナくんのこと絶対に許さないわよ」


「お前が勝手に見せてきたんだろうが!」


「私はラグナくんにカボチャパンツを見られるくらい気にしないけど、アレクスは冗談が通じないんだってば。で、ラグナくんはアレクスと違って、話をしている間くらい大人しくする理性があるわよね? 今すぐ私を斬りたいってなら、このまま帰るわよ? どうする?」


 クリスティアナは人差し指を顎に当て、挑戦的に笑う。

 心情的には、今すぐ斬ってやりたい。

 しかし魔王のカケラについて一番こいつが詳しいのは事実だろう。

 それが向こうから話す気になっているのに帰らせる手はない。


「分かった。話を聞こう。クラリスさんもそれでいいよね?」


「うん。私、自分がどうなってるのか知りたいもの。教えてクリスティアナ。私は自分の力を制御できるの?」


 クラリスはクリスティアナに臆さず、単刀直入に聞いた。


「クラリスちゃんは肝が据わってるわね。ラグナくんの影響かしら? 答えはイエスでもありノーでもあるわ。私はやり方を教えてあげることはできる。成功するかどうかはクラリスちゃん次第ね」


 つまり方法はあるが、簡単ではないということか。


「頼む。教えてくれ。俺にできることなら何でもする」


「残念。この件に関してラグナくんにできることは何もないの。クラリスちゃんを守るって決意表明に水を差すみたいで悪いけど、あなたはその間、フレイユのところで古代魔法でも学んでなさいな」


「その間って……どのくらいかかるんだ?」


「半年くらいかしら?」


 クリスティアナは小首を傾げながら答える。


「半年……? そんな長い間、クラリスさんをお前に預けろって言うのか? 駄目だ。俺も一緒に行く」


「えー、嫌よ。邪魔。ラグナくんがいたら絶対に邪魔。あなた過保護そうだもの」


「そう言う問題か!」


「そう言う問題なの。あなた両親が見てる前で過酷な修行できる? それと同じよ」


 何の話だ――と一瞬思ったが、前世を思い出して納得してしまった。

 かつての俺は、親が見たら絶対に止めるであろうことを日常的にしていた。


「確かに前世では、手の皮膚がずるむけになり血で真っ赤に染まっても素振りをやめなかった。耐久力を上げるために崖から何度も飛び降りた。俊敏性を上げるため、あえて全裸でモンスターの前に身をさらし攻撃を回避し続けた。回復魔法を鍛えるため、わざと骨折してヒールをかけた……その水準の修行をクラリスさんにやらせるつもりなのか?」


 強くなるためには必要なことだった。

 だが、それは俺が剣士だったからだ。

 魔法使いであるクラリスは、そこまで肉体を痛めつける必要はないはず。

 俺はクリスティアナの真意を確かめるため、様子をうかがう。

 すると彼女は表情を引きつらせ、ドン引きした感じだった。


「ええ……ラグナくん、そんなことしてたの? いや別に個人の自由だけど……私がそんな酷いことをクラリスちゃんにやらせるとか、あんまり怖いこと言わないでちょうだい」


 クリスティアナは目を細め、非難めいたことを呟く。

 するとクラリスも俺から少し離れ、怯えた目を向けてきた。


「ラ、ラグナくん、そのうち私にそんなことやらせるつもりだったの……?」


「いや、させないよ。あれは俺がやりたくてやってたことだし。きつい割にそんな効果的でもないし……普通にモンスターと戦うだけで十分だよ」


 俺がそう答えると、フレイユがなぜか頬を赤らめた。


「ラグナさん……好きで自分を痛めつけるって……つまりM……ってことですか……?」


「は?」


 急に何の話をしだすんだ、このシスターさんは。

 俺がMのわけがない。

 むしろクラリスをからかって遊ぶのを楽しんでいるからSっけが強いと思う。


「ねえねえクラリスちゃん。実際のところラグナくんってどうなの?」


 クリスティアナまで話に乗ってきた。

 馬鹿なのか?


「確かに……ラグナくんは虐めたくなる顔してるけど……」


 クラリスまで何を言い出すんだ。


「やっぱり? 私もそう思ってたのよねぇ。私たち気が合うんじゃないかしら?」


「ラグナくんのこと虐めちゃダメェ!」


 クリスティアナが妖艶に微笑むと、クラリスは必死な声を出しながら俺を守るように抱きしめた。


「あなたたち、本当に仲がいいわねぇ。離ればなれになりたくないって気持ちは分かるんだけど。魔王のカケラってあなたたちが思ってるより、ずっと危険なのよ。なにせその名前の通り、魔王の魂が分断された一部なんだから。ねえ、フレイユ。神聖祓魔教団が魔王のカケラと最初に接触したときのこと、教えてあげなさいよ」


「……そうですね。それに関しては、クリスティアナより私の口から語ったほうがいいでしょう。今から三十年前のことです」

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