77 神を崇める者
雷魔法の練習台にするモンスターを探して俺とクラリスは砂漠を歩く。
さっきの大爆発に驚いてこの辺からは逃げてしまったようだが、一時間も歩けば出てくるだろう。
「……それにしても」
「どうしたのラグナくん?」
「いや、さっきから視線を感じるんだよね」
「え!? 私、今日はそんなにラグナくんのこと見てないわよ!」
「いや、クラリスさんじゃなくて。誰かが離れた場所から俺たちを監視しているような……」
「それって、あとをつけられてるってことっ?」
「監視されてるのが本当ならね。でもなぁ、つけられる心当たりがないし。俺に居場所を悟らせないなんて、かなりの腕前だ。そんな冒険者が三層にいるとすれば上から降りてきた連中だけど……」
俺の頭に、クリスティアナとアレクスの顔が思い浮かんだ。
あの二人なら気配を殺し、俺たちを監視し続けることも可能かもしれない。
だが、もし俺たちに用があるなら、コソコソせず直接出てくる気がする。
あいつらの人となりなど知らないが、短い戦いの中でそう感じ取った。
「気のせいなんじゃない?」
「かもね。砂漠が広すぎて感覚が変になってるみたいだ」
俺はそういう風に納得することにした。
もちろん警戒は最大限に続けるが。
「ようやくモンスターがいた。サソリにトカゲにヘビか……」
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名前:猛毒サソリ
説明:黒いサソリ。大型犬ほどの大きさがあり、そのハサミは質の悪い鉄を切断してしまう。尻尾の針には猛毒があり、かすっただけでも全身が痺れ動けなくなる。もし突き刺されたらまず助からない。動きはあまり速くないので、離れて戦えばあまり怖くない。一対一ならレベル8以上になってから挑むのを推奨する。
名前:ミニドラゴン
説明:名前にドラゴンとついているがドラゴンではなくトカゲの仲間。トカゲにしては大きく猫並みのサイズ。全身が硬いウロコで覆われており、斬撃も打撃も魔法も効きにくい。なかなか動きが素早く、鋭い牙がある。一対一ならレベル9以上を推奨。
名前:レッド・コブラ
説明:全長十メートルにもなる巨大なヘビ。牙の毒には当然注意が必要だが、単純に力も強く、体当たりや締め付けだけでも十分に人を殺せる。「ヒューッ!」という奇妙な鳴き声が特徴。一対一ならレベル11以上を推奨。
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それらのモンスターが合計二十匹ほど砂丘の下をウロウロしている。
どうやらここは、いわゆる『モンスターの湧き場』と呼ばれるスポットのようだ。
『天墜の塔』の中には、こういうレベル上げに向いた場所がところどころにあるのだ。
俺も前世でメルティゴの街を拠点にレベル上げをしていたときは、きっとここに何度も通ったのだろう。
が……何十年も前のことなので、記憶が怪しい。周りにもっと目印があれば印象に残るのだろうが、砂ばかりの砂漠では忘れるのも仕方ない。
「湧き場なのに他の冒険者がいない。ラッキーだ。ここから雷魔法を撃って練習をしよう」
「砂丘の上から? 下に降りないの?」
「降りたほうが楽しそうだけど……一対一ならともかく、あの群れにクラリスさんが飛び込んだら、ちょっと大変なことになると思うんだ」
「私はそうかもしれないけど。ラグナくんだけでも降りたら? 私はここで見物してるわよ」
「いつもならそうするんだけど。今日は変な視線を感じてるから。何かあったときすぐクラリスさんを守れるよう、あんまり離れたくないんだよ」
「そ、そうなんだ……じゃあしっかり守ってね!」
クラリスは顔を赤くして呟く。
どうやら「守る」という言葉に反応したらしい。
考えてみると、お姫様を守る騎士みたいな発言だ。
別に深い意味を込めて言ったわけじゃないけど、あまり照れられるとこっちまで恥ずかしくなってくる。
俺はクラリスから目をそらし、ミニドラゴンに狙いを定めた。
他のモンスターから少し離れて、三匹固まって休んでいる。
まずは石を拾って投げる。
するとミニドラゴンたちは俺に気づき、三匹同時に走り出し、砂丘を登ってくる。
テキストにあったとおり動きが速い。とはいえ、しょせんは三層のモンスター。俺はもちろん、クラリスだって目で追えるだろう。
「スタンバースト」
俺は一昨日覚えたばかりの雷魔法の名を口にし、ミニドラゴンに投げつけた。
一匹に命中するとバチンッと音が鳴り、残りの二匹へと電撃が広がっていく。
そして三匹のミニドラゴンは、砂丘を登り切る直前で痙攣し、動けなくなった。
俺は剣を抜き、そいつらを斬った。
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名前:ラグナ・シンフィールド
レベル:9
・基礎パラメーター
HP:786(+5)
MP:182
筋力:676
耐久力:468
俊敏性:1047
持久力:624
・習得スキルランク
氷魔法:E 風魔法:E 雷魔法:G 魔法付与:F 回復魔法:C
ステータス鑑定:A ステータス隠匿:B
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よし、レベルアップした。
「マジックブックみたいな弱いモンスターだけじゃなく、まともなモンスターも足止めできる。これなら戦力になるぞ」
「喰らうと凄いビリビリするもんねー」
「撃った本人は効果範囲内にいても何も感じないんだけどね」
「ずるーい」
クラリスは頬を膨らませながら俺を睨む。
しかし、実際ズルい魔法だと思う。
相手と至近距離で戦っているとき不意にスタンバーストを放てば、相手だけが一方的に痺れるのだ。
まあ、上層にいる強いモンスターはこの程度の電撃では痺れないだろうし、電撃を防ぐアイテムもあるので対人においても過信はできない。
それでも使いやすい魔法なのは確かだ。
「さて、と。残りのモンスターは手分けして倒そうか。オーツーグラスを覚えたクラリスさんは火力も十分だから、一匹ずつおびき寄せれば一人でも狩れるはずだし」
「そうこなくっちゃ。と言いたいところだけど……MPが20しか残ってないからマナヒールお願いね」
「魔法使いってこういうのがネックだよね」
前世の俺は剣術だけで戦っていた。残りMPを気にする必要がなく、目の前の敵に集中することができた。それが一番性に合った戦い方だと思っていたが……その結果、七層でモンスターに殺されかけたのだから、やはり魔法は必要である。
実際、魔法は強力だ。組み合わせ方で更に強くなる。
しかしMPの消費は激しく、今のクラリスのようにすぐ戦闘不可能になってしまう。
そのため魔法使いはソロに向かない。
「使ってもMPが減らない魔法ってないのかしら?」
「そんなのがあったら『天墜の塔』は魔法使いだらけだよ」
俺はマナヒールでクラリスにMPを移動させながら答える。
これで彼女のMPは最大値の106まで回復。俺は176から90に減った。
「MPを使わない魔法、ありますよ?」
ふと女性の声がした。
俺がクラリスを見ると、彼女は首を振って自分ではないと否定する。
確かにもっと大人びた声だった。
だが周りに誰もいない。
いや、かすかに上から気配がする。
見上げるとそこには――。
「ラグナくん、あの人、浮いてるわよ! 魔法!?」
クラリスはひっくり返った声で叫ぶ。
俺も取り乱しはしなかったが、同じくらい驚いていた。
「俺が知る限り、空飛ぶ魔法なんてないよ……」
風魔法を使って一時的に体を浮かせることはできる。
しかし、あの女性のように空に立つなど無理だ。無理のはずだ。
六層にいた冒険者たちだって、そんな魔法を使っていなかった。
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名前:フレイユ・アーンフェ
レベル:なし
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ステータス鑑定の結果、レベルなしと表示された。
1ではない。隠匿されて見えないのでもない。
初めからレベルがないのだ。
塔が墜ちてきてから現われたといわれているレベルやステータスといったものと、このフレイユという女性は無縁なのだ。
なのに魔法を使っている。
あり得ない。
が。
俺はもう一人、似たようなことをした女を知っている。
クリスティアナだ。
「あら。二人ともポカンとしてどうしたんです? 浮遊魔法なんて、古代魔法では初歩ですよ。本当はこっちの魔法で驚かせようと思っていたんですが」
それは二十歳くらいの女性だった。
白いワンピースに、同色のヴェール。それとは対照的な赤銅色の髪。手に身長よりも長い杖を持ち、どこか神々しい印象を放っている。
空に浮いているのだから尋常ならざる者なのは当然だが、それを抜きにしても、だ。
「その服……神聖祓魔教団のシスターか?」
「ええ、はい。よくご存じですね。この辺りにはまだ布教が行き届いていないので、ほとんど知られていないものと思っていました」
シスターは嬉しそうに微笑む。
「ねえ、ラグナくん。神聖祓魔教団って、なに?」
クラリスは俺にソッと耳打ちしてきた。
「神聖祓魔教団ってのは、神を崇めている人たちの団体だよ」
「……神って?」
マジか。そこから知らないのか。
神聖祓魔教団はマイナーだったけど、神の存在自体は二層でも知られていた。
塔の外だと、言い伝えられていないのか……。
「神とは――」
すると俺の代わりに、空中のシスターが解説を始めた。
「この世界を創造した、偉大な存在たち。この星も、植物も動物も、そして人間も。全ては神々がお創りになったのですよ、クラリスさん」
前世で何度か聞いたことのある神聖祓魔教団の説教。
それに関しては懐かしささえ覚えたが、問題なのはそのあとだ。
「……どうしてクラリスさんのことを知っている?」
「そ、そうよ! 私まだ名乗ってないのに!」
「さてさて、どうしてでしょうね? 神の預言、ということにしておきましょうか。ラグナさん、クラリスさん」
こいつ。俺の名前まで知っている。
間違いない。ずっと感じていた視線は、このシスターのものだったのだ。
だが、どうして神聖祓魔教団の者が俺たちを監視する必要があるのか。
いつから監視されていた?
今日からか?
三層に入ってからか?
二層でクラリスに異変が起きてからか?
塔に入ってからか?
もっと前からか?
それとも……俺の前世から?
「お前に聞きたいことがある」
俺は剣の切っ先をシスターに向けた。
「いい気迫ですね。それでこそ会いに来たかいがあるというものです。では『天墜の塔』に由来しない古代魔法の力をお見せしましょう」
シスターは杖を下に向け、その先端にある宝石から光のシャワーを放った。
それは俺やクラリスではなく、モンスターに降り注いだ。
そして――。
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