75 メルティゴの街へ向かう
朝、目覚めた俺はクラリスと顔を合わせてもドキドキしなかった。
メンタルが前世寄りに戻ったらしい。
よかった。
昨夜のままだったら、会話もままならない。
しかしクラリスはまだ照れくさいままらしく、目を合わせるなり枕で顔を隠してしまった。
「何してるの?」
「だってラグナくん……私の顔が綺麗とか言うから……恥ずかしい」
「クラリスさんらしくもない。そこは自信たっぷりに『綺麗なお姉さんの顔を存分に見せてあげるわ』とか言うところでしょ」
「……私ってそういうキャラだったかしら?」
「そうだよ」
俺が断言してやると、クラリスは恐る恐る枕を降ろす。
「ラグナくんがそこまで言うなら、特別に見せてあげるわ!」
「わーい」
俺はわざとらしく喜ぶ。
実際、いつまでも顔を隠したままだと外に出ることもできないので、枕を降ろしてくれたのは喜ばしいことだ。
が、俺の顔を見たクラリスは、すぐに目をそらしてしまう。
「どうしたの?」
「いや……ラグナくん可愛くて……直視できなかったわ……」
「俺の顔なんて見慣れてるでしょ」
「そうなんだけど、ほら。寝る前に変な話をしたばかりだから、妙に意識しちゃって」
「じゃあ直視しないで横目でチラチラ見ればいいよ。ほら、ご両親の手がかりを探しに行くんでしょ」
「そ、そうだったわ!」
クラリスはベッドから跳ね起きた。
表情に活力が戻っている。これで一安心だ。
俺たちは宿の食堂で軽い朝食をとってから、聞き込みを開始する。
まずは宿の従業員だ。
なにせドズの町で宿屋はここしかない。訪れたならまず立ち寄っているはず。
が、口で特徴を伝えても「分からない」と言われてしまった。
そのあと町中で聞いて回ったが、これといって収穫なし。
「はぁぁぁ……」
クラリスは大きなため息をつく。
「仕方ないよ。いくら小さな町だといっても、色んな人が来るわけだし。一時的に立ち寄っただけの二人を覚えてる人がいないのはむしろ普通だ」
「お父さんとお母さん、本当に三層に来たのかなぁ?」
「その結論を出すのは早すぎるよ。ここ、三層の最初の町だよ」
「そうね……三層に行くって家を出たんだから、三層に来たのよ。もしかしたらもう四層に行っちゃったかもしれないけど。探しながら上っていけば、いつか会える!」
「クラリスさんはそうでなくっちゃ」
町中で聞き込みをした俺たちは、宿に帰った。
「探してる人の情報は見つかったかい?」
宿のおばちゃんが尋ねてきた。
「いえ。二年以上も前の話なので、やはり誰も覚えてないみたいです」
俺は答える。
「まあ、そうだろうね。本気で探すなら、もっと大きな街に行って、伝言所にメッセージを貼ったらどうだい? もしかしたら向こうから見つけてくれるかもしれないよ」
「やっぱりそれですかね」
俺がおばちゃんの提案に頷くと、クラリスが服を引っ張ってきた。
「ねえ、ラグナくん。伝言所ってなに?」
「ん? あ、そっか。塔の外にはないもんね」
伝言所とは名前の通り、伝言を残すための場所だ。
たとえば、とある街を待ち合わせ場所にしていたAとBの二人がいたとする。
Aは待ち合わせ場所に先に着いたが、どうしても他の用事ができて一時的に街を離れることになった。そのとき伝言所にメッセージを残しておけば、あとから来たBは安心してAが帰ってくるのを待つことができる。
「大きな街には大抵、伝言所がある。だから街に着いたら、自分向けのメッセージがないか伝言所に寄るのが基本だね。俺たちは知り合いがいないからここまで無視してきたけど」
「なるほど。そこにお父さんとお母さんに向けてメッセージを書けば、向こうから会いに来てくれるかもしれないってわけね。いえ、それどころか向こうが私向けにメッセージを残してるかも!」
「それは……どうだろう? まさかクラリスさんが追いかけてくるとは思ってないだろうし……しかもこんな早く」
「何はともあれ、大きな街に移動すればいいんでしょ」
次の目的地が定まったので、ドズの町にもう一泊してから出発することにした。
ここから一番近い街は、メルティゴの街。
歩いて一日以上かかるので、しっかりした寝袋が必要だ。なにせ砂漠の夜は、日中の暑さが嘘のように冷える。
あと三層の地図も買う。前世の知識があるから主要な街のおおざっぱな場所は把握しているが、しょせん人の記憶は曖昧だ。それに地図を見て、自分がどこまで進んだのか確認するのは楽しい。
「寒い! 夜の砂漠、寒い!」
初めて三層で野宿するクラリスは、夜の冷え込みに悲鳴を上げる。
「この寝袋は防寒対策がしっかりしてるから大丈夫だよ」
俺は背負ってきた寝袋を地面に降ろし、その中に潜り込んだ。温かい。
クラリスは「ほんとに?」と言いながら、自分の寝袋に入る。
「あ、本当だわ。これなら大丈夫そうね。でも……モンスターが来たらどうするの? 手も足も出ないんだけど……」
「手も足も出ないけど、魔法は出せるから大丈夫。モンスターが近づいてきたら俺は気配で起きるから、クラリスさんは寝てていいよ」
「私だって起きるわよ」
「はいはい」
寝ている最中、一度だけトカゲ型のモンスターが近づいてきたが、やはりクラリスは熟睡したままだった。
俺はアイシクルアローでモンスターを足止めしつつ寝袋から飛び出し、一刀両断にしてまた眠りにつく。
「平和な夜だったわね」
「ソウダネ」
夜明けとともに起きた俺たちは、また砂漠を歩く。
そして太陽が真上に来た頃、目的地が見えてきた。
石の城壁に囲まれた、メルティゴの街だ。
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