71 空飛ぶ本
俺とクラリスは図書館の扉を開ける。
冒険者がよく訪れる場所なせいか、ほこりっぽくて息が苦しいということはなかった。
ただし窓がなく、天井のシャンデリアと壁のあちこちにある魔法のランタンだけが光源なので薄暗い。
あのシャンデリア……ロウソクがなくシャンデリアそのものが淡く発光している。前に来たときも思ったが、何とも不思議だ。
「図書館というだけあって、凄い数の本棚ね! 迷子になりそう!」
クラリスが言ったように、所狭しと本棚が並んでおり、びっしりと本が差し込まれていた。
「見てるだけで頭が痛くなりそう……!」
「クラリスさん、勉強は嫌い?」
「嫌いじゃないけど……苦手だわ」
「同感。俺もだ。魔導書は手をかざすだけで魔法を覚えられるから、本当に助かるよ」
せっかく魔導書を手に入れても、それを熟読し、内容を理解して初めて魔法を使えるというのであれば、ラグナは魔法の道を諦め、再び剣一本の人生を歩んでいただろう。
「それで、ここに並んでるのが全部、魔導書なの!?」
そう言ってクラリスは本棚に手を伸ばす。
しかし。
「あ、あれ? 本が取れないわ……うーん、うーん!」
「顔を真っ赤にして引っ張っても駄目だよ。それ本棚と一体化してる飾りだから」
「え!? 魔導書じゃないの? 騙された!」
クラリスは唇を尖らせる。
無理もないことだ。
俺だって初めて図書館に入ったとき、これが全て魔導書かと思い感激したものだ。
そして、ただの飾りだと気づいたときは、本棚を蹴飛ばした。
「それで本物の魔導書はどこにあるの?」
「その辺をふわふわ飛んでるよ」
「と、飛んでる……?」
クラリスは訳が分からないという顔をする。
が、その目の前を、本が横切っていった。
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名前:マジックブック
説明:不思議な力で空を飛ぶようになった本。普段は静かに漂っているだけだが、攻撃されると凶暴になる。火に弱い。倒すと稀に魔導書を落とす。
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「え、え……? 本が飛んでる……本って飛ぶものだったの?」
「塔の図書館では飛ぶんだよ。マジックブックって名前のモンスターなんだけど」
「さすがは『天墜の塔』……不思議でいっぱいね」
「というわけでクラリスさん。マジックブックは火に弱い。ファイヤーボールを撃つんだ」
「分かったわ!」
もし攻撃して外したりしたら、マジックブックは凶暴になって襲ってくる。
しかしクラリスは、魔法の命中精度に関してかなり優秀だ。
俺の信頼を裏切ることなく、見事に直撃させる。
マジックブックは炎に包まれて床に落ちる。
その燃えカスは光の粒子になりクラリスに吸い込まれていく。
「一撃で倒せるなんて三層のモンスターにしては弱いのね。あ、アイテムがドロップしたわ!」
彼女が言うように、床にさっきまでなかった物体が落ちていた。
それは――。
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名前:紙切れ。
説明:ただの紙切れ。メモ用紙にどうぞ。
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「……ただの紙切れだ」
「えー……魔導書はー?」
「そんな簡単には手に入らないよ。運が悪いと、マジックブックを百匹倒しても手に入らないこともあるらしいし」
「ひゃ、百匹……いくら一発で倒せるからって、それじゃMPがなくなっちゃうわよ」
クラリスのMPは杖による補正をいれても106。
サンド・ガラスゴーレムにフレアファランクスを使って30消費した。
更に今、ファイヤーボールで2を使った。
残りは74。
ファイヤーボール三十七発分だ。
マナヒールを使って回復させてやってもいいが、何もクラリスだけに戦わせず、俺もマジックブックを狩ればいいのだ。
それに。
「百匹ってのは極端な例だよ。普通は……統計を取ったわけじゃないけど、前に来たときは三十匹に一冊は出てたかな」
「それって前世の話?」
「そうだよ」
「前世のラグナくんって魔法使ってなかったんでしょ? なのに魔導書を取りに来たの?」
「まったく使わなかったわけじゃないよ。回復魔法は剣士でも使うし。あとどんな戦い方を選ぶにしても、塔を攻略するならステータス鑑定がないと無理だ」
そして余った魔導書は売るといい収入になる。
そうやって余剰になった魔導書が、三層から二層へ。二層から一層へと回っていく。階層を跨ぐごとに高くなっていくので、塔の外だととてつもなく高価だ。
今にして思うと、父さんはよく三冊も買ってくれたなぁ……。
「そっか。じゃあ私も早くステータス鑑定を覚えなきゃ」
「そういうこと。今日ここでステータス鑑定の魔導書が手に入らなくても、他の魔導書さえ入手できれば、町に持ち帰って交換できると思うし」
「よーし。ステータス鑑定を覚えて、ラグナくんのステータスを盗み見するわよ!」
「がんばれー」
と俺は気のない声援を送る。
ちなみにステータス鑑定と対になる、ステータス隠匿というスキルもある。
俺はステータス隠匿をBまで上げている。
だから今日クラリスがステータス鑑定を習得しても、俺のステータスを盗み見することはできない。
それを指摘して彼女のやる気に水を差しては悪いので、黙っていることにした。
決してあとでからかうためではない。決して。




