70 図書館に到着
ドズの町の……というか三層にある町では、ナツメヤシがよく栽培されている。
乾燥した気候でも育つし、デーツと呼ばれるその果実はとても栄養価が高いのだ。ラクダのエサにもなる。
他にも泉の周りに生えた草でヤギを育て、その乳製品も主食になっている。
「砂漠でも、みんなたくましく生きてるのね」
クラリスは泉のそばに腰を降ろし、買ってきたデーツを食べながら呟いた。
「んん~~甘~~い」
「クラリスさんは本当に幸せそうに食べるね。見てるこっちまで幸せになってくるよ」
「うふふ。それも私の人徳ってやつね」
「うん、間違ってはないけど」
彼女の笑顔が周りによい影響を与えるのは確かだ。
けれど『人徳』と表現するには、もう少し威厳が欲しい。
とはいえクラリスに威厳があったら、それはそれで調子がくるう。
「ん? ラグナくん、私の顔を見てどうしたの?」
「別に。さ、そろそろ宿に行こう」
その日はドズの町に一泊する。
翌朝、デーツを乾燥させた保存食と、ヤギのチーズなどを調達する。
飲み水は、魔法で氷を出して溶けたのを水筒にいれるから買わない。
「よし。出発だ、クラリスさん」
「図書館ってところに行くのよね。楽しみ!」
目的の図書館まで、丸一日くらいかかる。
つまり今夜は砂漠で野宿だ。
「砂漠って昼間はあんなに暑いのに、夜はかなり涼しいわよね。不思議だわ」
「前世で理由を聞いたことある。確か……空気中の水分が少ないからだ。普通の場所だと日中に空気中の水分が温められて、夜になるとその熱がゆっくり放出されるから、そこまで急激に冷えない。でも砂漠は水分がないから、一気に冷えるんだ」
「へえ、さすがはラグナくん。『天墜の塔』のことなら何だって知ってるんだから」
「ま、何でもってわけじゃないけどね。前世では七層まで行ってるから。俺より詳しい人はそんなにいないかな」
「あ、ラグナくんがドヤ顔してる。可愛い~~」
クラリスは毛布の上で寝転んだまま、同じく隣で寝転ぶ俺の頬をツンツンしてきた。
「虐めないでよ、クラリスさん。早く寝なよ。モンスターがこないか、俺が見張ってるから。途中で交代してね」
「はーい」
そうやって一夜を明かし、朝日とともに歩き出す。
図書館はすぐに見つかった。
それは砂漠の中にポツンと建つ、四角い建物だった。
もともとは白かったのだろうが、長い年月を砂に晒された結果、外壁が砂色になっている。
「あの中に魔導書があるのね!」
図書館を見たクラリスは、いつものように好奇心たっぷりの声を上げる。
魔導書。
それは魔法を習得するために絶対に必要なアイテムだ。
一層や二層でも探し回れば見つかるし、塔の外でも売っていた。
だが一層、二層だとレア過ぎて効率が悪い。
そして買うとなれば非常に高価だ。
塔の外ではそれなりに裕福な父さんが、三冊しか買ってくれなかったくらいである。
しかし三層から上は違う。
図書館と呼ばれるダンジョンが点在しており、その中は他の場所に比べ魔導書が入手しやすいのだ。
「さっそく中に入りましょ!」
クラリスは図書館に向かって走って行こうとする。
「ちょっと待って、クラリスさん。入り口の近くをよく見て。門番がいる」
「……あ、本当だ! 透明で分からなかったわ!」
砂漠の中にある砂色の図書館。
その前には、ガラスで作られた巨人がいた。ガラスといっても、さほど透明度は高くない。うっすらと砂色が混じっている。そのことが逆に見えにくくしていた。
大きさはクラリスの三倍ほど。
ドラゴンなどに比べたら小さいが、それでも近くから見上げたら首が痛くなりそうだ。
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名前:サンド・ガラスゴーレム
説明:施設を守る番人。砂漠の砂から作られたガラスの体。飛び道具はないが、凄まじい腕力を持っている。接近戦は避けるべき。一対一で挑むならレベル18以上が望ましい。
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「ガラスってことは……クラリスさん。あいつ、割と楽に倒せるかも」
俺はクラリスに作戦を説明した。
複雑な作戦ではないし、原理が分かりやすかったので、クラリスはすぐに納得してくれた。
「アイシクルファランクス!」
まずは俺が十本の氷の矢を放つ。
それでゴーレムの全身が氷に閉ざされた。しかしゴーレムは死んではおらず、そのパワーで氷を強引に砕き、こちらに向かって歩いてきた。
とはいえ、その表面温度が急激に下がったことに変わりはない。
「フレアファランクス!」
続いてクラリスが十本の火の矢を撃った。
ゴーレムの巨体のあちこちにまんべんなく当たり、今度は温度を一気に上げていく。
結果、ゴーレムを構成するガラスに無数のヒビが走った。
「急激な温度変化が起きると、ガラスって割れやすいからね。普通に暮らしてても家のガラスが割れたりするんだ。それが攻撃魔法によるものだったら、ガラスのゴーレムなんて楽勝だよ」
「ラグナくんったら策士ね!」
だが、ゴーレムはヒビだらけになりながらも、ゆっくりと近づいてくる。
自重で勝手に崩壊していた。
クラリスはゴーレムの体を杖で「えい!」と殴った。
それがトドメになり、完全にバラバラになってしまう。
かつてゴーレムだったガラスの破片は、やがて光になりクラリスに吸い込まれていく。
「よし。これで図書館に入れる」
「魔導書を探すわよー!」




