69 砂漠の世界
俺たちはロミーとエマの家を訪ねた。
二人とも元気のようで安心した。
とくにエマは長い間寝たきりだった反動からか、「鬼ごっこしましょ!」「次は隠れんぼしましょ!」とねだってきて、おかげで暗くなるまで遊んでしまった。
その次の日、街で必要な物を買い、三層行きの転送門を目指す。
「メヤームシティから歩いて二日くらいだ。もう二層ではレベル上げしなくていいから、モンスターを無視して行こう」
「分かったわ。何だかんだで二層に来てから半年くらいかぁ……いざ離れるとなると、名残惜しいわね」
「あれ? こないだはジメジメしてるから早く離れたいって言ってなかったっけ?」
「それはそれ、これはこれよ」
二層から三層へ通じる転送門は、一層にあったのと同じような形だった。
灰色の石畳と、その四隅に建つ柱。その中央に描かれた、大きな魔法陣から空に向かって金色の光が伸びる。
俺とクラリスは一緒に魔法陣の中に立ち、「三層へ」と念じた。
瞬間、周りの景色が変わる。
湖と川と森ばかりだった二層が消え、砂に覆われた三層が目の前に広がった。
「あ……あっつい!」
クラリスは大声で叫んだ。
気持ちはとても分かる。俺だって初めて三層に来たときは同じように叫んだものだ。
「太陽がギラギラしてる上、遮るものがないからね。はい、クラリスさん。このマントを着て、フードも被って」
俺はメヤームシティで買ってきたマントをクラリスに渡す。
「えー。こんなの被ったら、もっと熱くなるじゃないの」
「直射日光を遮るから、あったほうが涼しいよ。通気性がいいのを買ってきたから大丈夫」
「そういうものかしら?」
クラリスは半信半疑な顔を浮かべながらも、マントを受け取った。
俺も自分のマントで体を覆う。
「あ。クラリスさん、マントを被る前に、リュックから水筒を出して首から下げたほうがいいよ。すぐ飲めるように」
「なるほど。それもそうね」
言われたとおりクラリスは水筒を首に下げてから、自分をリュックごとマントで覆った。
「えっと……最初のオアシスはあっちだな」
俺はコンパスを見て方角を確認し歩き出す。
「ねえ、ラグナくん。オアシスってなぁに?」
「砂ばかりの砂漠の中で、湧き水がぽつんと泉を作ってる場所のことだよ。三層はオアシスに行かないと水が手に入らない。だから町もオアシスの周りに作られる」
「へえ。こんな砂ばっかりの中に泉があるなんて想像できないわ。早く行きましょ!」
クラリスはワクワクした顔になり、元気よく砂漠を進んだ。
が、その元気は三十分も持たなかった。
「熱いよぅ……二層に帰りたいよぅ……」
「二層はジメジメしてるから嫌なんでしょ」
「物事には限度があるの! こんなところにずっといたら干からびちゃうわ!」
「ずっといたらね。あと三十分もしたらオアシスだから我慢して」
「はーい……」
声に張りはないが、歩みは緩めなかった。
ここで立ち止まったら、もっと辛くなると分かっているらしい。
そして、あと少しでオアシスというところで、サソリ型のモンスターと遭遇してしまった。
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名前:紅蓮サソリ
説明:真っ赤なサソリ。大型犬ほどの大きさがあり、そのハサミは質の悪い鉄を切断してしまう。尻尾の針に毒はないが、その針から炎魔法を撃つことができる。一対一ならレベル9以上になってから挑むのを推奨する。
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「クラリスさん。そいつ針から魔法撃ってくるから、気をつけてね」
「え、本当……わっ、撃ってきた!」
紅蓮サソリはクラリスに針を向け、ファイヤーボールを放った。
しかしクラリスは慌てた声を出しつつも、華麗なバックステップで避ける。
「エアロカッター!」
クラリスの杖から、風の刃が飛び出した。
それは紅蓮サソリの針を切断する。
「これでもう魔法は使えないわね! とどめよ、ファイヤーボール、三連発!」
紅蓮サソリが撃ったのと同じ魔法を、お返しにとばかりに三発連続で命中させる。
だが、紅蓮サソリは燃えながらもクラリスに向かっていく。
「あれ? あんまり効いてない!?」
「そりゃ二層のモンスターより強いからね」
「だったら……フレアファランクス!」
クラリスが使える最強の魔法だ。
十本の炎の矢が現われ、紅蓮サソリの頭部に向かって飛んでいく。
素晴らしいコントロールにより、一点に全て突き刺さった。
内部から頭を焼かれた紅蓮サソリは動かなくなり、光の粒子になっていく。
「やったわ! ラグナくんの力を借りなくても三層のモンスターを倒せた!」
「凄いよクラリスさん。やっぱり頑張ってレベル5まで上げてから来てよかったよ」
「うん! 暑すぎて参ってたけど、やる気が出てきたわ!」
「クラリスさんが元気になって、俺も嬉しいよ」
そして俺たちはまた歩き始め、砂丘の上まで行くと、その先に目的地が見えた。
「あれが転送門から一番近いオアシス。ドズの町だ」
「へえ! 本当に泉があって、その周りに小さな町があるわ! 不思議な感じね」
決して大きな町ではない。
しかし、こんな砂漠の中にも人が住んでいるのだ。
それをクラリスはキラキラした目で見つめる。
俺もこんな感じだったなぁと、ふと思い出してしまった。
「とりあえず行こうか。外から見るのもいいけど、やっぱり町は中に入らないと」
「そうね。美味しい物あるかしら?」
「クラリスさんは食いしん坊だなぁ……」




