68 あれから五ヶ月
三話分書いたので、今日と明日と明後日は更新します。
そのあとはまだ未定です。
エルブランテの葉をエマのために持ち帰ってから、五ヶ月が過ぎた。
あれからクラリスのレベル上げは順調だ。
本人も楽しんでモンスターを倒している。
塔の外で出会った頃と変わらない、明るくて元気なクラリスのままだ。
そのせいで、ときどき忘れそうになる。
あの森で彼女に起きた変化のことを。
黒い翼を生やし、この俺さえ恐怖を覚えるほどの力で暴れたあの瞬間を。
謎の女クリスティアナとその従者アレクスは、クラリスが『魔王のカケラ』を宿していると謎めいた発言をしていた。
魔王のカケラ……なんなのだ、それは。
ラグナは前世で長年冒険者として活動し、七層まで上り詰めたが、そんなもの聞いたことさえない。
クラリスのような変化をする者を見たことがない。
そしてクラリス本人はあのときの記憶を失っているので、問い詰めることも無理だ。
もう一度、同じことが起きる気配も皆無。
それに俺も、あれが何だったのか深く考えるのが怖かった。
真実を知ってしまったら、クラリスともう一緒にいられないんじゃないか。
そんな予感があった。
「やったー! ラグナくん、見てた!? 私、一人でダイオウガエルを倒したわよ!」
「うん。本当に凄いよクラリスさん。これなら三層に行っても通用するね」
「えへへ……ラグナくんに褒められちゃった!」
そう言ってはしゃぐ彼女の前には広い沼と、家ほどもある大きなカエルの死体があった。
二層のボスと呼ばれるモンスター『ダイオウガエル』だ。
名前の通り、頭の上に王冠が乗っている。
なぜボスかといえば、ダイオウガエルにトドメを刺した者は、二層から三層への転送門を使えるようになるからだ。
ダイオウガエルの死体が光になり、クラリスの体に吸い込まれていく。
すると彼女は「あ!」と声を上げる。
「なんか目の前に『三層へ行けるようになりました』って表示されたわ!」
「それでクラリスさんも三層行きの転送門を使えるよ。ここまで順調にいくとは思わなかった。クラリスさん、本当に凄いなぁ」
「ありがと! でもラグナくんのサポートがなかったら、こんなスムーズにレベル上げできなかったわ。効率のいい狩り場を教えてくれるし、HPが減ったら回復してくれるし。でも……そのせいでラグナくんのレベル上げが全然進んでないわ……」
クラリスは申し訳なさそうに言う。
「それは別にいいよ。塔の上に行ってからレベル上げした方が、短時間で済むし。クラリスさんが強くなれば、それだけ上に行ける。今はクラリスさんに強くなってもらうのは最優先だ。それに、誰かを育てるのって思ったよりも楽しいしね」
「ラグナくんがそう行ってくれると助かるわ。でも……年下の子に育てられる私って……」
彼女は自嘲気味に笑い、肩を落とす。
しかし落ち込むことなど何もないのだ。
クラリスは二層に来てから、本当によく頑張った。
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名前:クラリス・アダムス
レベル:5
・基礎パラメーター
HP:65
MP:86(+20)
筋力:47
耐久力:50
俊敏性:56
持久力:51
・習得スキルランク
炎魔法:E 風魔法:E 回復魔法:G
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これが現在の彼女のパラメーターだ。
『成長負荷の印』を持つ彼女は、普通の人と比べてレベルの上昇速度が三分の一である代わりに、レベルアップしたときのパラメーターの上げ幅が、普通の約二倍。
つまりレベル5でありながら、レベル9に相当する強さを持っている。
三倍の努力をして二倍のリターンというのは今のところ、足かせでしかない。
だが、レベルは99までしか上がらないのだ。
よってレベル50になったあたりから、クラリスは通常の限界を超えた領域に足を踏み入れることができる。
普通はその前に弱音を吐きそうだが、クラリスは大丈夫そうだ。
本当に頑張り屋さんである。
「俺は前世の記憶があるから、年下かどうかは微妙だけど」
「ラグナくんは子供だもーん。私のほうがお姉さんだもーん」
「はいはい。子供っぽいお姉さんだね」
俺はそう言ってクラリスの頭をなでた。
するとクラリスは頬を膨らませ……俺の頭をなで返してきた。
「なでなでするのはお姉さんの役目なんだから!」
「いや、でもクラリスさんのほうが絶対に子供っぽいし」
「そんなことないもん。ラグナくんなんて一人でネクタイも結べなかったじゃない」
「そ、それは今関係ないでしょ」
と、二人で子供っぽい会話を続ける。
いかんな。
これじゃ本当に俺まで子供みたいだ。
前世の俺と今の俺は、記憶を引き継いでいるだけで別人――というクラリスの説は本当に正しいのかもしれない。
とはいえ、年月が経ち環境が変われば、人の性格も変わる。
本当のところは確かめようがない。
なんて俺が考えていると、沼から二匹目のダイオウガエルが現われた。
次は俺が倒す番だ。
魔法を何発も使っていたクラリスと違い、俺は剣の一振りで一刀両断にしてしまう。
これで二人揃って三層に行ける。
「やった! さすがはラグナくん! さ、早く三層に行きましょう! 二層は水ばっかりでジメジメしてて飽きたわ。次はもっとカラッとしたところに行きたい!」
「それなら大丈夫。三層は乾燥してるからね。でも三層に行く前にメヤームシティに行って、ロミーとエマに挨拶しなきゃ」
「それはそうね。エマちゃん、あれからずっと元気にしてるかしら? また病気になってなきゃいいけど……」
ロミーというのは俺の前世の妹。エマはその孫だ。
彼女らに俺の素性を明かすつもりはない。
だが、今世でも顔見知りになってしまったからには、黙っていなくなるのは不義理だろう。
というわけで俺とクラリスは二人がいるメヤームシティに向かう。
ついでに三層で必要な物も買っておこう。
準備なしで行ったら、すぐに引き返す羽目になってしまう。
それにしても……第二の人生は魔法の修行をするつもりだったのに、いまだに剣に頼りっきりだなぁ。
三層ではもう少し本気で魔法を使うようにしよう。
幸い、三層には『図書館』があることだし。
「ほら、ラグナくん、急いで急いで!」
「そんなに急いだら転ぶよ」
俺は走るクラリスの後ろ姿にそう呼びかけながらも、無理もないな、と思う。
なにせ彼女の両親は、三層に行ったきり帰ってこない。
クラリスはそんな両親を探すために冒険者になったのだから。




