67 墓参り
青空の中に、白い雲がまばらに浮かんでいる。
わずかに風が吹いて、墓地に生えていた木の枝を揺らす。
「ここが我が家のお墓よ」
ロミーが見つめる先には、一枚の石版があった。
そこには沢山の名前が刻まれている。
前世の俺やロミーの御先祖様の名前だ。
その中に、両親の名前があった。
「おじいちゃん、久しぶり。やっとここまで歩いてこれるようになったよ」
そう言ってエマは花束を石版の前に置いた。
それから俺たちは、静かに黙祷を捧げる。
俺は父と母に謝った。
けれど、こうして体は変わってしまったが、何とか墓参りに来ることができたのだ。
またいつか来るから、許して欲しい。
それからロミーの夫へ。
俺がいない間、あの家と妹を守ってくれてありがとう、と。
「ラグナさん。熱心に祈ってくれてありがとう」
ロミーに礼を言われてしまった。
「いえ……名前が同じと聞いて、どうしても他人事とは思えなくて」
「そうなの? ふふ、優しい子なのね」
ロミーはクスリと笑う。
まさか俺の中身が『兄そのもの』などと想像もしないだろう。
俺は単に家族の墓に祈りを捧げていただけ。
熱心になるのは当然なのだ。
別に特別優しいわけではない。
「そう言えば。その俺と同じ名前だというお兄さん……俺と性格が似ていたりしますか?」
「あなたと兄が? いいえ、全然。兄は塔を登ることしか考えていない人だったわ。見ず知らずの……いえ、たとえ家族が病気だったとしても、わざわざ薬を取りにいったりはしなかったと思うわ」
そうだろうか?
そうだったかもしれない。
病気が今すぐ命に関わるようなものだったらともかく、ただ具合が悪いというだけでは、寄り道してまで助けようとはしなかったと思う。
剣聖ラグナは他人との関わりを最小限にして生きてきた。
他人など足手まといだとすら思っていた。
なのに、随分な変わり様だ。
それこそ、妹が全く気づかないほどに。
「あとね。兄はあんまり女の子にモテそうもなかったわね。クラリスさんみたいなかわいい彼女を連れているところなんて、想像もできないわ」
と言ってロミーは、俺とクラリスを見て、イタズラっぽく笑う。
「……クラリスさんは冒険の仲間であって、彼女とかではないんですが」
「あら、そうなの? あんまり仲がいいから、そういう関係かと思ったわ」
「はあ……そうだってクラリスさん。俺たち、恋人同士に見えるらしいよ」
「こ、こここここ、恋人!? そ、そういうのじゃないし! 今のところ……!」
クラリスはリンゴみたいに赤くなった。
やれやれ。何を照れてるんだ。
「あらあら。今のところと言うことは、時間の問題と言うことかしら?」
「ふぇ!? いや、未来のことは誰にも分からないというか、可能性は常にゼロではないわけでして……私とラグナくんが……将来……ひゃぁぁっ!」
クラリスは訳の分からない言葉を並べたかと思うと、奇声を上げながら走り去っていった。
「クラリス、どこに行くの? クラリスぅ?」
そのあとをエマが追いかけていく。
二人は墓地を離れ、隣にあった広場で追いかけっこを始めた。
エマ、本当に元気になったなぁ。
「……ロミーさん。あんまりクラリスさんをからかわないでください。あの人、メチャクチャ照れ屋で、異性関係に不慣れなんですから」
「ふふ、ごめんなさい。そう言うラグナさんは、その歳で異性関係に慣れているのかしら?」
「……いえ。あんまり」
正直、前世でも、あんまり。
「ふぅん。ラグナさんはクラリスさんのことをどう思っているのかしら?」
「どうって言われても……」
仲間としては、かけがえのない人だ。
しかしロミーは異性としてどうかと聞いている。
あまり深く考えたことがなかったな……。
容姿は綺麗だと思う。
顔立ちはかわいいし、銀色の髪が美しい。
手足が長くてスタイルもいい。胸は平らだけど……まあ十三歳だから仕方ない。
性格だって好感が持てる。
頑張り屋なところは見ていて励まされるし、彼女の優しさは胸にしみる。
何よりも。
『天墜の塔』の最上層を目指すという目的を共有しているのだ。
そのために互いの生涯をかける決意をしたのだ。
どこまでも一緒に行く、と。
嫌いになる要素なんて思いつかない。
……あれ?
俺、もしかして、クラリスのこと、好きだったりするのか?
うーん……改めて考えてみたら、そうとしか思えなくなってきたぞ。
何だか急に顔が熱くなってきた。
風邪かな?
「うふふ。ラグナさんも、クラリスさんに負けず劣らずの照れ屋のようね」
「いや、これは……いや、未来のことは誰にも分からないというか……」
俺はしどろもどろなことを言いながら、その場を逃げ出し、クラリスとエマの追いかけっこに加わった。
まったく、ロミーめ。
いたいけな兄をからかうとは、実にけしからん奴だ。
それにしても、俺がクラリスを好き?
うむむ。
まあ、可能性は常にゼロではないわけでして……。
第二部はここで終了です。
書きためができるまで更新をお休みさせて頂きます。
書籍版1巻は1月15日発売です。
よろしくお願いします。




