60 エルブランテの葉を探せ
メヤームシティから徒歩で一週間の場所に、深い森がある。
そこに生える木々は他の場所よりも高く、地上はいつも薄暗い。
歩くだけでも困難な場所な上、生息するモンスターは他よりも強い。
障害物が多いので奇襲を受けやすいし、迷子になって脱出不可能になる危険性すらあった。
レベル上げをするには非効率的な場所といえる。
だが、そこに生息する、とある植物系モンスターのドロップアイテムを俺は欲していた。
エルブランテ。
そのモンスターの名前だ。
エルブランテがドロップする葉は、すりつぶして傷口に塗ればたちどころに塞がり、煎じて飲めば万病に効くと言われている。
もちろん、万能ではない。
体が完全に切断されてしまった傷だと、いくらなんでもくっつけたりはできない。
万病に効くのは確からしいが、完治するとは限らない。
それでも『効く』のだ。
効果不明の高価な薬や、庭で育てたハーブよりは頼りになるはず。
ところが、エルブランテの葉はなかなか市場に出回らない。
そいつが生息している森に行くだけでも面倒だし、数が少ないから遭遇するのが難しい。
何よりエルブランテは強い。
植物系だから炎が弱点だ、と分かっていてもなお強敵だ。
おまけにエルブランテだけでなく、その森のモンスターは全体的にやっかいで、レベル上げの効率が悪い……となれば、誰が森に近づくものか。
だから俺とクラリスは、直接その森に行くしかない。
片道一週間。
森で探索する日数がどのくらいになるかは分からない。
合計で三週間はかかると考えるべきだ。
流石に三週間分の食料を持っていったら、かさばって困る。
なので街で馬を借りて、荷物を運ばせることにした。
「馬に乗って移動すれば速いんじゃないの?」
クラリスが質問してきた。
「馬ってそんなに長時間走れないんだよ。足を痛めちゃう。でも体が大きいから荷物を沢山運べる」
「へえ……ラグナくんより力持ちなの?」
「まさか」
「じゃあラグナくんが荷物を持ったら?」
「重さはともかく、かさばる物は歩きにくいんだよ」
「まあ、そうよね」
というわけで、ビスケットや干し肉などを三週間分買い込んでから、馬小屋に行き、小さい馬を一頭借りた。
荷物が入った鞄をロープで馬に縛り付ける。ついでにクラリスがいつも背負っているリュックも縛っておいた。
「なるほど。荷物を背負わなくていいってのは楽ちんね」
街を出て歩き始めてすぐ、クラリスは感心した声を出した。
「でしょ? レベルが上がって筋力が増えると、荷物の重さなんてどうでもいい気がするけど……やっぱり重い荷物を背負って街の外を歩くのは、疲れるんだよ」
俺は馬を引きながら説明する。
「本当ね。お馬さん、お疲れ様」
「クラリスさんは最初、俺に馬の役目をやらせようとした……こんな小さな俺に、馬並の荷物を運ばせようとしたんだ……」
「ご、ごめんなさい! ラグナくんなら簡単だと思って……!」
「うぅ……馬の真似をするから許して、クラリスお姉ちゃん……」
「そんな、私、いつの間にラグナくんをこんなに追い詰めてたの!? 大丈夫よ、お姉ちゃん、ラグナくんを馬扱いなんてしないから!」
クラリスは半べそになりながら俺の頭を撫でてきた。
「冗談だよ」
「……え? あ、こら! ラグナくん!」
からかわれていたと悟ったクラリスは、俺の頬をむぎゅーっと引っ張ってきた。
痛い。
「ごめん、ごめん。クラリスさんの反応が面白いから、つい」
「つい、じゃないでしょ! 罰として今日一日、私をクラリスお姉ちゃんと呼びなさい!」
「ええ……それは本気で恥ずかしいからやだ……」
「さっきそう呼んでくれたじゃないの!」
「あれは冗談で言っただけだし……え、それやらないと許してくれないの……?」
「許さないわ」
クラリスの目は本気だった。
これは多分、言わないと耳を甘噛みしてくるな。
だが、しかし……ええ……恥ずかしいぞ。
「クラリス……お姉ちゃん……」
俺は意を決して呟いた。
すると。
「う、上目遣いで……はわわ……かわいい!」
クラリスは顔を真っ赤にして口元を押さえた。
何を感動してるんだ、この人。
「って、クラリスさん、鼻血出てるよ!」
「わ、大変! あとクラリスお姉ちゃん!」
「……クラリスお姉ちゃん、鼻血出てるよ」
「はぁ……幸せ……」
クラリスは鼻血の量を増やしながら、草むらの上にストンと倒れた。
変態だ……じゃない、大変だ。いや変態でもあってるんだけど。
一瞬ここに捨てていこうかなという考えがよぎったけど、そういうわけにもいかないので、荷物と一緒に馬の背中に乗せることにした。
「うへへ……クラリスお姉ちゃんですよぉ……」
寝言を言うクラリス。
無言で歩く俺。
すると馬が「ひひーん」と呆れたような鳴き声を上げた。
馬にまで呆れられてるよ、クラリスお姉ちゃん。
俺? 俺は呆れられてないぞ。多分。




