52 アディールシティに帰還
「ただいま」
「ラグナくん! おかえりなさい。無事に帰ってきてよかったぁ。ま、ラグナくんは強いから大丈夫だとは思ってたけど」
洞窟に帰ると、クラリスが駆け寄ってきた。
どうやら、かなり心配してくれていたらしい。
新しい魔法を試すのを早めに切り上げてよかった。
「それで、ドラゴンは?」
「倒したよ。そしたら黒いモヤが死体から出てきて、どこかに飛んでいった」
俺の説明を聞いたイーデンが「なにっ!?」と驚愕の声を上げた。
「たった一人でドラゴンを倒したと言うのか……君は本当に何者なんだ……?」
「通りすがりの冒険者ですよ。『天墜の塔』では、弱そうに見える冒険者が実は強かったなんて、よくあることでしょう」
「うむ……確かに見た目と実力は関係ないが……それにしても」
イーデンは考え込んでしまう。
彼の仲間も「あんな子供がドラゴンを?」と囁き合う。
信じられないのは当然だ。
俺だって「弱そうな奴が強いのはよくあること」なんて言っておきながら、七歳かそこらの子供がドラゴンを倒したなんて話は聞いたことがない。
でも本当なのだ。
「で。ドラゴンを倒したら……と言うより、黒いモヤが去って行ったら、と言うべきですかね。山のモンスターたちからも黒いモヤが消えてました。帰ってくる途中、何匹か倒しましたが、通常の強さに戻ってます。今からなら下山できますよ」
「おお、それはよかった! それにしても、黒いモヤは結局、何だったんだろうか」
「ステータス鑑定を使ったら、『魔族』と表示されました」
「魔族?」
「ええ。誰か何か知りませんか?」
しかしイーデンたちも三馬鹿も知らないようだ。
うーん……魔族って本当に何なんだろう。
「ねえ、ラグナくん。モンスターが元の強さになったってことは、私の魔法も通じるのかしら?」
「そうだね。いけると思う」
「よーし。じゃあ早速、下山しましょ!」
クラリスは気合いのこもった表情で、杖をかかげて見せる。
それをきっかけに、俺たちは洞窟を出ることにした。
「お、おい……本当にモンスターは元に戻ったんだな? 嘘だったらパパに言いつけるからな……」
ジョージは歩きながら、疑り深い目を俺に向けてくる。
「嘘だったら下山できないから、パパに言いつけることもできないだろ」
俺がそう返すと黙った。
そのまま町まで黙っていて欲しい。
途中でシルバーウルフが五匹現われた。
やはり黒いモヤはない。
イーデンたちが「これなら我々だけで倒せる」と前に出た。
アディールシティで一番強いパーティーと言われているだけあり、見事な連携であっという間に五匹を倒してしまった。
「私も戦いたかったなぁ……」
クラリスは指をくわえて見つめる。
「まぁまぁ。モンスターなんてそこら中にいるから……あ、ほら。レッド・ダイヒトデーだ」
「ヒトデ! 喰らえ、フレアファランクス!」
十本の炎の矢が、ヒトデに突き刺さって内部から燃え上がらせた。
「凄い! 一瞬で倒せちゃった! 私、強い!」
「うん。この辺のモンスターなら、一対一で戦えるね。フレアファランクスなんて消費MPが高い魔法じゃなくて、ファイヤーボールでもいいと思うよ」
「え。でもファイヤーボールってそんなに強い魔法じゃないわよ……?」
「魔法ランクが上がると、同じ魔法でも威力が変わるから。クラリスさんはレベル3になったとき、炎魔法のランクがFからEになったでしょ。ファイヤーボールの威力、かなり上がってるはずだけど」
「言われてみれば、さっき撃ったときも、いつもより爆発が大きかった気がするわ。シルバーウルフには効いてなかったみたいだけど……」
「さっきのシルバーウルフは特殊だから。普通の奴には効くと思うよ」
「ふむふむ……あ、丁度いいところにシルバーウルフが出てきたわ! えいっ、ファイヤーボール!」
走り寄ってきたシルバーウルフに、クラリスはファイヤーボールを見事に命中させた。
その爆発で相手はよろける。
クラリスはすかさず、二発目を当て、更に三発目。
「やったー! 三発で倒せたわ!」
「思った通り、かなり威力が上がってたね。それにしてもクラリスさん、狙いつけるの上手だなぁ」
「そ、そう? ラグナくんに褒められちゃった……えへへ。ありがと!」
クラリスはニヤニヤと笑って嬉しそうに照れる。
シルバーウルフの走る速さは、二層では上位だ。それが不意に現われたのに、ちゃんと命中させたのだから、大したものだ。
町までの帰り道、イーデンたちとクラリスが頑張ってくれたので、俺は特にやることがなかった。
そして空が茜色に染まる頃、アディールシティの入口に到着した。




