51 レッド・ドラゴン
洞窟を出て、川沿いに登っていくと、次々とモンスターが現われた。
シルバーウルフだけでなく、レッド・ダイヒトデーやオオサワガニなども黒いモヤをまとっている。
歩き始めて十分くらいしか経っていないのに、もう五十匹は倒した。
やはりクラリスたちを連れてこなくて正解だった。
「しかし……こんなに倒したのにレベルが上がらないってことは、もらえる経験値はそのままで、戦闘力だけ上がってる感じだな……最悪だ」
強くなった分、経験値が多くもらえるというなら、冒険者にとってまだ意味がある。
だが、これではデメリットだけだ。
一体、どういう現象なのだろう。
俺の知る限り『天墜の塔』は、デメリットに見合ったメリットが用意されているものなのだが。
などと考えながら進んでいくと、滝壺に辿り着いた。
しかしドラゴンの姿はない。
水中に潜っているのだろうかと覗いてみたが、水の透明度が高いのにドラゴンは見えなかった。
すると別の場所に――。
「上か!」
気配を感じた俺は空を見上げる。
と同時に、滝の上からドラゴンが落下してきた。
滝壺に巨体が着水。
水しぶきが盛大に上がり、辺り一面が土砂降りにあったかのようになる。
俺もずぶ濡れになってしまった。
しかし服を絞っている暇はない。
目の前に、赤いドラゴンが立っているのだから。
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名前:レッド・ドラゴン
説明:二足歩行の赤いドラゴン。ドラゴンタイプの中ではそれほどでもないが、強力なモンスターであることに変わりはない。もし一人で倒そうとしているならレベル20以上が望ましい。それでもなお命の危険を覚悟せよ。
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太い二本足に支えられた前屈姿勢のそいつは、頭の高さが四階建ての建物くらいある。
もうそれだけでも大きいのに、二枚の翼を広げると、視界の全てがドラゴンで埋まってしまうほどだ。
「……なるほど。確かに黒いオーラをまとってる」
ジョージが言っていた通りだ。
ただし、シルバーウルフのようにぼんやりと体にまとわりついているのではない。もっと色濃く、表皮の一部が見えなくなるほどだった。
やっぱり、異変の中心はこいつか……?
「まあ、取りあえず倒してみるか」
「GUOOOOOOOOON!」
ドラゴンは吠える。
口から火とか光線とか撃ってくるのか――と思ったが、空気を震わせただけだった。
そう言えばレッド・ドラゴンは飛び道具がないんだった。
もっと上位のドラゴンになると、離れた場所からでもバンバン攻撃してくる。
説明テキストにあった『ドラゴンタイプの中ではそれほどでもない』というのは事実。
推奨レベル20以上というのは、ドラゴンの中では弱いのだ。
「問題は黒いオーラでどのくらい強化されているか、だ」
ドラゴンは俺を踏み潰そうと、足を振り下ろしてきた。
俺はバックステップで避ける。
が、風圧と、そして巻き上がった土砂で、想定していたより後ろに下がってしまった。
おお、凄い。今の一撃で滝壺の形が変わってしまった。
直撃を喰らったら、HPが30くらいは減りそうだ。
元のレッド・ドラゴンとは比べものにならないくらい強い。
ソロで狩るなら、レベル50くらい必要なんじゃないのか?
「次はこっちから攻撃させてもらうぞ!」
俺は跳躍し、ドラゴンの頭上を取る。
そして剣を振り下ろす……しかし硬い皮膚に当たった刃は、ぽっきりと折れてしまった。
あああああっ!
この剣は父さんの友人であるボビーさんが作った魔法剣『ボビーの剣』だ。
わずかながら『強度上昇』と『切れ味上昇』の効果がかかっている。
ボビーさんはこれを「二万ディーネ」という魔法剣にしてはかなり安めの値段で売ってくれたのだが……塔に入って一ヶ月もしないうちに折れてしまった。
ごめんよボビーさん。
「くそ。ボビーさんの仇だ。アイシクルアロー!」
俺は落下しながら氷魔法をドラゴンに当てた。
だが表面をわずかに凍らせただけで、効いている様子がない。
しょせん魔法使いとしての俺はまだまだだなぁ。
「GAOOON!」
ドラゴンは腕を振り回し、俺を掴もうとしてきた。
「エアロアタック!」
風魔法を自分に当て、空中で回避。
そのままドラゴンの腕に着地し、走って登っていく。
俺の行動にドラゴンは目を見開いて驚く。
表情豊かな奴だな。
「悪いが今のところ、俺は素手のほうが強いんだ」
そう呟きつつ、ドラゴンの喉元にパンチを打ち込む。
「GYAOOOOON!」
ドラゴンから悲鳴が上がった。
急所に『筋力:664』である俺のパンチを食らったら、そりゃ痛いだろうな。
それ、もう一発。
ドラゴンは口から泡を吹いて、仰向けに倒れた。
後頭部を滝にぶつけ、崖を削りながら滝壺に体を横たえる。
ピクピクと痙攣して虫の息だが、まだ微妙に生きてるな。
このまま死ぬまで殴り続けてもいいけど、ちょっと野蛮すぎる気がする。
滝の上から、岩でも落としてトドメを刺すか。
俺は崖をピョンピョン駆け上っていく。
上まで行くと、川の隣に、俺の身長の三倍くらいの岩があった。
そいつを押して、ドラゴンの頭に落としてやった。
グシャァァッ!
滝壺が真っ赤に染まる。
「……殴り殺すより野蛮だったかもしれない」
まあ、倒せたんだから何でもいいか。
俺が自分を納得させていると、ドラゴンの死体から黒いモヤが分離して、空中でひとかたまりになった。
そしてフワフワとその場を離れようとしているではないか。
ジョージが言っていた、ドラゴンと戦っていた奴か……何者なんだ。
あれはまるで……。
調べるため、ステータス鑑定を発動。
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名前:▓▓▓▓▓▓▓▓
説明:魔族
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名前の項目にノイズが走る。
そして頭痛。
同じだ。
一層の転送門に現われた、謎の敵と同じだった。
魔族。
「お前らは何者なんだ!」
俺は逃げる黒いモヤに、アイシクルアローを放つ。
氷の矢の狙いは正確だったが、モヤを素通りしてしまう。
すでに敵はかなりの高度まで登ってしまった。俺がジャンプしても届きそうにない。
ゆえに、逃げるそいつを見つめることしかできなかった。
残されたドラゴンの死体が、光の粒子になって消えていく。
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レベル8になりました。
『アイシクルファランクス』を習得しました。
『エアロカッター』を習得しました。
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ほほう。
黒いモヤを逃がしてしまったのは残念だけど、レベルが上がって新しい魔法を覚えた。
これはこれで、よしとするか。
魔族とは、この短い期間で二度も遭遇したのだ。
なら三度目もあるに違いない。
いずれ嫌でも正体が分かる日がやってくるだろう。
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名前:ラグナ・シンフィールド
レベル:8
・基礎パラメーター
HP:782(+5)
MP:176
筋力:670
耐久力:465
俊敏性:1042
持久力:619
・習得スキルランク
回復魔法:C 氷魔法:E 風魔法:E 魔法付与:F
ステータス鑑定:A ステータス隠匿:B
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パラメーターはこんな感じか。
魔法の系統をもっと増やしたいな。
別に今のままで不便があるわけじゃないけど、電気とか炎とか色んなのを出せるようになったほうが楽しい。
けど、魔導書を買うと高いからなぁ。
金を稼いで買うか、自分で見つけ出すか……まあ、しばらくはクラリスを鍛えることに集中しよう。
クラリスがもっと強くなったら、二人で魔導書を探しに行ってもいい。
で、今回、新しく覚えた魔法を試しに撃ってみるか。
この瞬間がワクワクするんだよな。
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名前:アイシクルファランクス
説明:消費MPは30。無数の氷の矢を発射する。矢の数は氷魔法のランクが上がると増えていく。アイシクルアローと同じように、威力は調節可能である。
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川に向かって発射する。
氷の矢が十本同時に撃ち出され、命中したところに氷柱を作り出した。
連射じゃなくて同時発射というのがこの魔法のポイントだな。
瞬間的な殲滅力が凄い。
しかしアイシクルアローの消費MPは2。こっちは30だから、十五発分のMPを使って十本しか撃てないので、損をした気になる。
もっとも、氷魔法のランクが上がると、同時発射できる数が増えるようだ。
十六発以上を同時に撃てるようになったら、コストパフォーマンスでも優れた魔法になる。
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名前:エアロカッター
説明:消費MP6。風の刃を飛ばす。目に見えにくいので、遠距離の敵に奇襲するのに向いている。威力は調節可能。ただし風魔法のランクによって上限がある。
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さっきと同じように川に向かって発射。
すると水が割れて川底が露出する。アイシクルファランクスが生んだ氷柱も砕けていく。
そして大岩を真っ二つにしたところでエアロカッターは止まってしまった。
おお。
岩も斬れちゃうのか。なかなか強い。
しかも、確かに風の刃は見えにくい。
よーく目をこらすと、大気の揺らぎみたいなのがあったが、その程度だ。
いきなり撃たれたら対処するのは難しい。
説明テキストにあるように、奇襲に向いた魔法だ。
……っと。新しい魔法ではしゃいでる場合じゃない。
早くクラリスたちのところに帰らないと。




