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05 六歳なのに父親に勝ってしまう

 俺はデールから奪った木刀を父さんに投げた。

 ついでに座り込んでいるデール本人も母さんのところに投げた。


「ラグナ。先に打たせてやる。どこからでもかかってこい」


 父さんは余裕ぶったことを言う。

 しかし、その表情は真剣そのもの。


「先に打たせる? 本当は父さんが先に打ち込みたいのに、俺に隙がないから動けないんじゃないの? それで先手を譲った振りをして、俺の攻撃の中に隙を見いだそうとしてるんだ」


「……さぁて、何のことかな」


 父さんは平静を保とうとしている。だが、わずかに声がうわずっていた。

 図星のようだ。

 俺は逆に感心した。


 デールは俺の強さを少しも理解できず、馬鹿みたいに振りかぶって向かってきた。

 父さんは違う。

 先に動いたら危ないと、しっかり理解している。


 さっき俺とデールの試合を見たからというのもあるだろう。

 しかし、あれは戦いと呼べるようなものにはならなかった。

 俺は実力の一割も出していない。

 だから、あれだけで判断したなら、父さんはここまで慎重にならないだろう。

 レベル2の力を活かして攻めれば、押し切れると考えたはず。


 なのに動かない。

 剣を持った俺と正面から向き合うことで、いつもと違う俺を感じ取っているのだ。


「ラグナ。お前、何者だ? 本当に俺の息子か? どうすればそこまでの気迫を放てる?」


「毎日コツコツ努力すればいいのさ」


「おいおい。それなら俺だってやってるぜ」


「だから父さんは二層まで行けるんだよ」


「まるで自分ならもっと先まで行って帰ってこられるって顔だな」


「さあ。どうだろうね」


 俺はとぼけた回答をする。

 とはいえ、レベル1相当まで力が落ちている今の状態では、二層が限度だろう。

 いくら剣技が前世と同じでも、それだけで生き残れるほど『天墜の塔』は甘くない。


「このまま睨み合っているのも疲れるな……お言葉に甘えて、俺から行くよ」


「おう! コツコツ積み上げた努力ってやつを見せてみろ!」


 父さんは大声で叫びつつも、とても集中している。

 不用意に間合いに飛び込めば、俺が逆にやられてしまう。


 だから俺は、父さんを観察する。

 瞬きのタイミング。呼吸のリズム。筋肉の微妙な動き――。

 どんなに集中していても、人間の意識には隙間がある。

 それを見つけ出して、攻める!


「なっ!」


 駆け出した俺を見て、父さんは驚いた顔になった。

 ちょっとした瞬間移動のように見えたはずだ。

 だが、それでも父さんは反応する。

 俺が振り下ろした木刀を、しっかりと受け止めてくれた。

 いや、それどころか弾き返してくる。


「やっぱり父さんは強いね!」


「ぬかせ! 少しでも遅れていたら俺の脳天にたんこぶができていたぜ」


「でも遅れなかったでしょ!」


 そして俺と父さんは、木刀を激しくぶつけ合う。

 レベル2である父さんのほうが、速度と力で勝っている。

 しかし剣技では俺が上。

 お互いが木刀であるがゆえ、武器が折れないよう力を加減して打ち合った。

 それらの要素が均衡を生み出し、戦いを長引かせる。


 父さんはしっかりした太刀筋だ。

 力任せの斬撃ではなく、剣術の基礎ができている。

 これなら努力を続ければ、三層でも通用する冒険者になるかもしれない。


 父さんがこの国ではトップクラスの冒険者だというのは分かっていたが……期待以上だ。

 こんなに心躍る打ち合いができるなんて思っていなかった。


「楽しいね、父さん!」


「そうかぁ!? 俺は心臓が口から飛び出しそうだぜ!」


 父さんは腰がひけたことを言う。そのくせ斬撃はどんどん鋭くなっていく。

 俺もまた父さんとの戦いで、この体の動かしかたを覚えてきた。

 やはり素振りだけでは足りなかったのだ。


「じゃあ、そろそろ本気で行くよ」


「ちっ、やっぱり余力を残してやがったか……きやがれ!」


 この十分近い戦いで、父さんの強さは分かった。剣筋も反射神経も思考速度も覚えた。

 あとは前世で培った技術と、この小さい体を生かして、死角に飛び込む。


「消え――」


 消えたのではない。

 最短の軌道で俺は父さんの背後に回り込んだのだ。

 そして木刀の切っ先で、後頭部をトンと叩いてやる。


「俺の勝ち、だね」


「……ああ。俺の負けだ……六歳に負けちまったぜ……」


 父さんは力なく呟いた。

 当たり前だが、かなり落ち込んでいる。

 自分でやっておいて何だが、気の毒になってきた。


 俺は前世と合わせれば六十六年分の経験がある。父さんの丁度二倍だ。

 だから父さんは決して六歳の子供に負けたわけではないのだ。

 そう教えてやりたかったが『転生』などという概念を信じてくれるとは思えない。


「ラグナ。お前がどうやってそれだけの強さを身につけたのか、しっかり聞かせてもらうぞ。まさか独学とか言わないだろうな?」


「いや、独学だけど……えっと、前世の記憶があるって言ったら信じてくれる?」


「はあ? そんなおとぎ話のようなこと言ってないで、ちゃんと教えてくれよ」


 やはり信じてもらえなかった。

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