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48 シルバーウルフ

 朝日とともに目を覚ますと、クラリスが俺にぎゅーっとしがみついていた。

 どういう寝相をしているんだ。

 起きなかった俺も俺だけど。

 殺気がなさ過ぎて感知できない。ただ者じゃないぞ……。


「クラリスさん、起きて起きて。ジョージたち三人を探しに行くよ」


「むにゃむにゃ……あ、ラグナくんだー」


「ラグナくんだ、じゃないよ。自分からしがみついてきたんじゃないか。ほら、しゃきっとして。お姉さんぶりたいくせに子供なんだから……」


「子供じゃないもん……お姉さんだもん……むにゃむにゃ」


「はいはい」


 クラリスの上半身を無理矢理に起こしてやると、彼女は大きなあくびをしてから目をこする。


「おはよう、ラグナくん……」


「うん、おはよう。顔を洗って、朝ご飯を食べたら出発するよ」


「朝ご飯……ビスケット~~♪」


 川で顔を洗い、クラリスの歌声を聞きながらビスケットを食べる。

 のどかな時間だ。

 ずっとこのままでもいいような気もするが、俺たちは行方不明の三馬鹿を探しに来たのだから、そうゆっくりもしていられない。

 彼らが行方不明になったのは、どうやら俺に原因があるらしいので、死体が出てくるのも寝覚めが悪いし、早めに見つけ出してやろう。


 と、俺が殊勝なことを考えながら三枚目のビスケットをかじっていると、そこに見知らぬ男たちが五人もやってきた。

 冒険者の団体だ。


「ん? 少女と……少年、か?」


 先頭を歩いていた三十代半ばくらいの剣士が、俺たちを見て呟く。

 なぜそんなに「少年」を自信なさげに呟くのか。

 いや、分かるけど。


「君たち、こんなところで何をしているんだ? まさかとは思うが、ジョージたちを探しに来たと言い出さないだろうな?」


「そのまさかですが」


 俺が答えると、冒険者たちは顔を見合わせた。


「そうか。この山に目をつけたのは褒めてやろう。だが、ここから先は俺たちに任せておけ。子供の出る幕じゃない」


 剣士がそう言うと、クラリスがムッとした顔で言い返す。


「ちょっと! あとからやってきて、それはないんじゃないの!?」


 すると剣士の後ろにいた斧使いの大男が「ガハハ」と笑いながらクラリスの前に立った。


「おじょうちゃん。元気がいいな。けど、ひっこんでな。この人を誰だと思ってる」


 そう言って、斧使いは剣士に視線を向ける。


「誰よ!」


「アディールシティ最強の冒険者、イーデンさんだ!」


「知らないわよ!」


 クラリスは切り裂くように叫んだ。


「なんだとぉ!」


 クラリスと大男は睨み合う。

 その二人を、俺とイーデンが「まぁまぁ」と宥める。


「その少女の言うとおりだ。我々は遅れてやって来たのだ。狩り場にあとから来て、場所を独占しようというのは、冒険者のマナーに反する行いだ」


 イーデンの言葉を聞いて俺は、うんうんと頷いた。

 たまにそういうマナーの悪い奴がいるのだ。

 もっともモラルやマナーをいくら訴えても、強い奴が勝つのがこの世界だけど。


「しかし、少年に少女よ。私は本当に君たちを心配して言っているのだ。この山にはドラゴンが住むという噂がある。もしそれが本当だったら、我々でも危うい。まして君たちを守りながら戦うなど不可能だ」


「ご忠告ありがとうございます。ですが、冒険者がどんな冒険をするかは自由のはずです。もし俺たちがこの山でドラゴンに襲われたとしても、それは自業自得なので、どうぞ放っておいてください。全ては自己責任。それが冒険者というものでしょう」


 俺は反論する。

 それが子供であろうと、冒険者を名乗って町の外に出た瞬間、命がけの世界に足を踏み入れたことになるのだ。

 自分の命をどう使おうと、他人に指図されるいわれはない。


「……なるほど。覚悟は決まっていると言うことか。ならば好きにしたまえ」


 イーデンはまだ何か言いたそうな顔だったが、仲間を引き連れて山に入っていった。


「思ったより簡単に引き下がってくれたな。親切だけど、お節介すぎないのがいいな」


 俺はイーデンという男を少し気に入った。

 ステータス鑑定で調べた彼のレベルは10。仲間たちは7か8だった。

 アディールシティにいる冒険者の中では高レベルのパーティーといえる。

 場数もそれなりに踏んでいそうだ。

 斧使いの男が自信満々なのも頷ける。


「ラグナくん、先を越されちゃったわよ!」


「落ち着いてクラリスさん。もともとジョージたち三人が心配だからって探すことにしたんだろう? だったら、見つけ出すのは別に俺たちじゃなくてもいいじゃないか」


「それは……確かに!」


 クラリスは『言われてみれば!』という顔をする。

 気づいてなかったのか。


「とはいえ、ここまで来たら代官から賞金をもらいたい。俺たちも急ごう」


「そうだ、賞金ってのもあったわ!」


「……忘れてたんだ」


 俺と違い、単純に三人を見つけてあげたいという気持ちだけで動いていたんだな。

 正直あの三人とかどうでもいいけど、クラリスの想いのために見つけ出さないと。


 俺たちは山を登る。

 同じ滝壺を目指し、同じ川を上っている以上、イーデンたちにはすぐに追いつく……と思いきや、その背中はなかなか見えてこなかった。


「あの人たち、どこに行っちゃったのかしら?」


「うーん……単純に速すぎて追いつけないだけかも」


「えー。私たちだって結構急いで歩いてきたわよ?」


「うん。でも慣れてくると、木の枝から枝に飛び移って移動できるようになる。森の中だとそっちのほうが速い」


「そんな技が!」


「クラリスさんも練習すればできるよ。でも練習しないでやると危ないから……今日は俺がクラリスさんを担いで行く」


「え……担ぐの? そこはお姫様抱っこじゃないの?」


「だってクラリスさん、リュックサック背負ってるし」


「ぶー」


 クラリスは頬を膨らませる。

 だが急がないとイーデンたちに追いつけないというのは分かっているらしく、いそいそと俺の背中に被さってきた。


 俺はクラリスをおんぶして跳躍する。

 頭上の木の枝へと飛び乗り、そして枝から枝へとジャンプして移動する。


「わわっ! ラグナくん、凄い!」


「これでもクラリスさんを落とさないよう、速度を落としてるんだよ」


 実際、アクロバットな動きの割に、進む速さは常人が全力疾走しているのと同じくらいだ。

 とはいえ、草をかき分けて道なき道を行くよりは遙かに速い。


「そろそろ追いつくんじゃないかな……あれ?」


「追いついたけど、あの人たちモンスターに囲まれてるわよ!」


 てっきり、俺と同じように枝から枝にジャンプする彼らの後ろ姿が見えてくると思っていた。

 しかし見えたのは、地上に降りて武器を取り、円陣を組んでいる五人。

 それを取り囲んでいるのは、三匹の狼型モンスター。

 かなり大きい。フォルムは狼だけど、サイズは馬並だ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:シルバーウルフ

説明:名前の通り、銀色の毛並みの狼。群れで狩りを行う。一対一ならばレベル5程度でも勝てるが、群れの数が増えると脅威度は桁違いに上がっていくので注意すべし。

――――――――――――――――――――――――――――――――――



 シルバーウルフなら、俺も前世で戦ったことがある。

 素早さと、牙と爪による攻撃が危険だが、実は動きが単調なので、慣れてしまうとそれほどでもない。

 説明テキストにあるように群れの数が増えると、どんどんやっかいになっていく。

 しかし、ここにいるのは三匹だけ。

 イーデンたちはそれなりに手練れの冒険者で、おまけに五人もいるパーティーだ。

 簡単に切り抜けられるはずなのだが……。


「ねえ、ラグナくん。あの狼、何か黒いモヤをまとってるんだけど……そういうモンスターなの?」


 そう。

 クラリスが言うように、シルバーウルフはその体に黒いモヤのようなものをまとっている。


「俺が知っているシルバーウルフはああじゃなかった……あんなに禍々しい気配じゃなかった」

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