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29 さあ、塔に行こう

「おはよう、クラリスさん。迎えに来たよ。さあ、塔に行こう」


「さあ……じゃないわよ! ラグナくん! 何であなた入学していきなり四日も学校サボってるの!? 不良になっちゃったの!?」


 二連休の初日の朝。

 クラリスの部屋の扉を開けると、いきなり説教が飛んできた。

 それどころか頬をつままれ、むにーっと伸ばされた。


「痛いよ、クラリスさん。年下の子供を虐めるのは駄目だと思う」


「虐めてるんじゃないわよ! お隣のお姉さんとして、教育的指導をしてるの!」


 クラリスはそう怒鳴って、俺の両頬をつねる。

 痛い。


 印を持つ者は、HPがある限り致命的な傷は負わないし、痛みと衝撃も軽減される。

 しかし、こういった日常的な痛みは、そのまま伝わってくる。


 例えばナイフで斬りかかられた場合はHPが減るだけで血は出ないし、痛みもほとんど感じない。

 だがタンスの角に足をぶつけた場合は、そのまま衝撃が伝わってくる。泣くほど痛い。


「黙って授業をサボったことは謝るよ。でも、遊んでたわけじゃない。レベル上げのために必要な物を集めてたんだ」


「……まさか、その背負ってるカゴに沢山入ってるトウガラシがそれだって言うんじゃないでしょうね?」


「そうだよ。塔の一層にあるミナノ湖。そこに住むヌシを呼び出すための『凄いトウガラシ』さ。聞いたことない?」


「全然聞いたことないわ」


「あっそう……まあ、いいや。凄いトウガラシを百個集めてきたから、上手くいけば今日中にレベル2になれると思う。さあ、出発」


「ちょ、ちょっとラグナくん。まずはお風呂入ってきなさいよ。あなた汗臭いわよ!」


「え……そうかな?」


 指摘された俺は、袖口を鼻に近づけて匂いを嗅いでみた。

 なるほど。臭い。


「四日間、ずっと塔にいたからなぁ……」


「早くお風呂に入って着替えてきなさい! 世話が焼けるんだから!」


 前世では何週間も風呂に入らずに戦い続けることがザラだったが、別に風呂嫌いというわけではない。

 入れるときに入っておくべきなのは確かだ。

 俺は素直に頷いて、寮の浴場に向かう。

 するとなぜかクラリスも付いてきた。


「私もついでに朝風呂に入るわ」


「クラリスさん。壁をよじ登って男湯を覗きに来たら駄目だよ」


「それは女子が言う台詞でしょ! ラグナくんこそ覗いちゃ駄目なんだからね!」


「はは。クラリスさんの裸には興味ないから大丈夫だよ」


「本当に失礼な奴ね!」


 クラリスは肩を怒らせて女湯に入っていった。

 相変わらず、からかうといい反応を見せてくれる少女である。




 風呂を上がった俺たちは、朝食を食べてから塔に向かった。

 ちなみに二人とも学校の制服を着ている。

 普通の服よりは頑丈に作られているし、ボロボロになったら新しいのを支給してもらえるのだ。


 俺の持ち物は、凄いトウガラシが詰まった背中のカゴと、肩からさげた鞄。それとカゴと背中の間に固定した剣だ。

 クラリスさんはリュックサックを背負い、そしていつもの杖を持っている。


「ところでクラリスさんは塔に入ったことある?」


「数え切れないくらい入ったわ。スライムを何匹も倒したし……でもレベルは上がらなかった」


「そりゃ当然だよ。スライムを倒してレベル2になろうとしたら、多分、千匹以上倒さなきゃいけない」


「じゃあ、どうやって私をレベル2にしようっていうのよ」


「それはミナノ湖に行けば分かるよ」


 というわけで、俺はミナノ湖までクラリスを案内する。

 俺一人なら塔の入口から十数分で辿り着けるのだが、レベル1であるクラリスにはそんな俊敏性も持久力もない。

 二時間かけて歩いて行くことにした。


「私……こんな奥まで来たの初めて……」


 塔に入って一時間ほど経ったとき、クラリスは小さく呟いた。


「そっか。でも二層への入口は、もっと何日も歩いて行った先だよ。ここはまだまだ浅い場所さ」


「ラグナ。あなたどうしてそんなに詳しいの?」


「昔、色々あったんだよ」


「昔って……あなた七歳じゃないの」


「七歳にも色々あるのさ」


「ふぅん……」


 クラリスは納得がいかないという表情を浮かべながら、俺の隣を歩く。

 やがて、俺たちはミナノ湖に辿り着いた。


「綺麗な湖ね。でも水辺って強いモンスターがいたりするのよね」


「うん。今から、その強いモンスターを呼び出すから、クラリスさんにはトドメを刺してもらう」


「え!?」


「大丈夫。俺が攻撃して弱らせるから、クラリスさんは最後に攻撃魔法を撃つだけだよ」


「ま、待って! 心の準備がまだ……」


「じゃあ、その心の準備とやらを早くしてよ」


「分かったわ……すーはーすーはー」


 クラリスは目を閉じて、大きく深呼吸する。


「よし! どんなモンスターか知らないけど、ドンと来いよ!」


 彼女は杖を剣のように構えて、気合いの声を上げた。

 俺はそれに答える代わりに、凄いトウガラシを湖に投げ捨てる。

 次の瞬間、水面が盛り上がって、あの人間を丸呑みにできそうなほど巨大な頭が飛び出してきた。

 ミナノ湖のヌシ、グリーン・サーペントである。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」


 クラリスは耳が痛くなるくらいの悲鳴を上げた。

 どんなモンスターでもドンと来いとか言ってたのに……。

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