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23 明日はいよいよ入学式

 そしてついに明日は王立冒険者学校の入学式だ。

 入学式の朝に家を出たのでは間に合わないので、今日のうちに寮に引っ越しをする。


「ラグナ。一人で大丈夫? お母さんも一緒に行きましょうか?」


 実家を出ようとする俺に、母さんは何度もそんなことを言ってきた。


「大丈夫だって。試験のときに一度行ってるから迷子にはならないし。冒険者になろうって人が、母親同伴で学校に行ったら笑われちゃうよ」


「でも、でも……」


 母さんは泣きそうな顔で指を絡ませる。

 参ったなぁ。


「母さん。それ以上引き留めたらラグナが学校に行けないだろ。遅かれ早かれ、いつかは旅立つんだ。笑顔で見送ってやろう。それに旅立つと言っても、いつでも帰ってこられる距離だ。こっちから会いに行くことだってできる。そう心配しなくてもいいじゃないか」


 父さんは母さんの肩を抱いて諭す。


「そうね……ラグナ。長期休暇のときは絶対に帰ってくるのよ。それ以外のときでも帰りたくなったらいつでも帰ってきなさい」


「うん。分かってるよ」


 ここまで大切に想われていたら、頷くしかない。

 それにしても『天墜の塔』を登っている最中、もし俺がホームシックになったら、それは絶対に母さんのせいだな。


「おい、ラグナ」


 俺が出発しようとしたら、デールが声をかけてきた。


「お前がいなくなると、家が広くなって清々する」


「そうか」


「で、でも……お前からもらったペンダントは、とりあえず大切にしてやるからな……!」


「うん。ありがとう、兄さん」


 俺がそう答えると、デールは顔を赤くして引っ込んでしまった。

 ツンデレかな?


 そんな感じで家族に見送られた俺は、昼過ぎに家を出て、のんびり歩いて学校に向かい、空が赤くなる頃、到着した。


「あの。新入生のラグナ・シンフィールドです。寮ってどこですか?」


 事務所でそう尋ねると、受付嬢のお姉さんは「あなたが校長を倒した子ね!」と大声を出した。


「ええ、まあ」


「あの校長を倒したって言うから、どんなゴツイ子が来るかと思ったら……かなり可愛いじゃない。ねえ、あなた、お姉さんのお嫁さんにならない?」


「何を言ってるんですか?」


「ふふ、冗談よ。えっと、これが学校の見取り図ね。これがあなたの部屋の鍵。部屋番号はこれ。入学式は朝の八時から。七時半くらいに先生が迎えに行くから、新入生は寮の前で待ってればいいわ。あ、制服はクローゼットの中にあるから。もしサイズが合わなかったらここに来て。交換してあげるから」


「分かりました。ありがとうございます」


 見取り図を見ながら寮に行く。

 寮は木造の建物だった。俺の部屋は最上階の三階だ。

 鍵を差し込み扉を開ける。


 思ったよりも綺麗な部屋だった。

 ベッド。机と椅子。小さなクローゼットにタンス。

 それから。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:ゼンマイ式魔法のランタン

説明:火を付けなくてもゼンマイを回せば明かりがつく不思議なランタン。燃料いらずで便利。

――――――――――――――――――――――――――――――――――



 塔のあちこちで手に入るランタンが机の上にあった。

 とても便利なので冒険者なら必ず持ち歩いているし、一般家庭にも流通している。

 あまり強い光は出さないが、この部屋を照らすくらいなら問題ないだろう。


 俺は鞄と剣を降ろす。

 そして窓を開けると、風が舞い込みカーテンが揺れた。

 校舎がすぐそこにある。

 遠くには『天墜の塔』が、夕焼け空の中にそびえ立っていた。


 かなりいい眺めだ。

 授業内容はまだ分からないが、少なくともこの部屋は気に入った。


「せっかくだし、散歩でもするか」


 俺は寮を出て、あてもなく校内をウロウロすることにした。

 すると、見取り図と睨めっこしながらウロウロしている少女と出くわした。

 髪は銀色。歳は十三歳くらい。

 入学試験でエアロアタックを使い、アラン先生相手に善戦したクラリス・アダムスだ。


「ん……? あなたは校長を倒した少年!」


 クラリスは俺を見るなり、ビシッと指さして叫んだ。


「皆、俺のことそういう風に記憶してるんだな……俺の名前はラグナ・シンフィールドだよ、クラリスさん」


「ラグナ・シンフィールド……ふぅん。丁度いいわ。ねえ、あなた寮の場所、分かる?」


「分かるも何も、あれが寮だけど」


 俺はたった今、出てきたばかりの建物を指さした。


「あ、なぁんだ。こんな近くだったのね」


 クラリスは見取り図を折りたたみ、気の抜けた声を出す。


「特に迷う要素はなかったと思うけど。クラリスさん、もしかして地図を読めないタイプ?」


「そ、そんなことないわよ! この学校が迷いやすいのよ!」


「いや。凄く分かりやすいと思うけど」


「ぐぬぬ……年下のくせに生意気……」


 クラリスは俺から目をそらし、ブツブツと呟いた。


「迷うといけないから、手を繋いで連れて行ってあげようか?」


「馬鹿にしないで! 目の前にあるんだから迷わないわよ!」


「いや。目の前に寮があるのに発見できなかった人がそれを言う?」


「うぐっ……何て口が達者な子供かしら……いいわ、今日のところはあなたの勝ちってことにしてあげる」


 そう言ってクラリスはバサッと長い銀髪をかき上げた。


 俺は別に口が達者ではない。ただ事実を指摘しただけだ。

 そもそも、今のが舌戦だったという認識すら俺にはなかった。

 もしかしてこのクラリスという少女、かなりポンコツなのでは?

 入学試験ではクールな印象さえ受けたのだが……第一印象は当てにならないものだなぁ。


「どうしてついてくるわけ?」


「クラリスさんが心配だから」


「余計な心配よ!」


 まあ、流石にもう迷子にはならないと思うのだが。

 たんに暇だから追いかけているだけである。


「ところであなた。どうして私の名前を知っていたの?」


「入学試験でクラリスさんの戦い方が印象に残ったからだよ。クラリスさんを見て風魔法に憧れて、あれから俺も覚えたんだ」


「へ、へえ……私に憧れたんだ……ふぅん……悪い気はしないわね」


 クラリスは頬を夕焼けのように染めた。


「まあ、クラリスさんに対するイメージは、この数分で崩壊したけどね」


「何でよ! 憧れてなさいよ!」


 などと言っているうちに、彼女の部屋の前までやってきた。


「なんだ。俺の部屋の隣じゃないか」


「え。お隣さん? そうなんだ……まあ、そういうことならよろしくね、ラグナくん」


「こちらこそ、よろしく」


 クラリスが手を差し出してきたので、俺は握り返した。

 そのとき、ずっとツンツンした顔だったクラリスが、ふと笑顔になった。

 その綺麗な顔に、俺は年甲斐もなくドキリとしてしまう。

 いかん、いかん。

 前世から考えても、今世だけ考えても、年の差がありすぎる。


 それにしてもこの学校、男子と女子を同じ寮に住ませていいんだろうか?

 まあ、塔を攻略している最中は、男女が同じ場所で寝泊まりするのは当然なので、今のうちに慣れておけということなのかもしれないが……間違いが起きたら誰が責任を取るんだろう?

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公は母親似で可愛いからじゃね>嫁
[気になる点] お姉さんのお嫁さんに?婿じゃなくて?
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