20 凄いトウガラシを沢山手に入れた
レベル上げの二日目。
俺は塔に入る前に、商業地区をブラブラしていた。
まずは昨日手に入れた『浄化の石』を売る。
もし面白そうな物が売っていたら、その金で買ってもいいし、特に欲しいものがなければ、あとで両親に預ければいいだろう。
父さんいわく、俺が手に入れたサイズなら、二千ディーネくらいで売れるらしい。
それだけあれば四人家族で一週間、かなりいい食生活を送ることができる。
歩いていると、『浄化の石と粉の買い取り屋』というのを見つけた。
中に入ると、狭い空間に小さなカウンターがあるだけの店だった。
本当に買い取り専門のようだ。
「あの。これを買い取って欲しいんですけど」
俺は鞄から『浄化の石』を出し、カウンターに乗せた。
店員の四十代くらいのオジサンは、「ほう……」と感心したような声を出す。
「こりゃ見事な石だ。少年、これをどこで手に入れた?」
「自分でモンスターを倒して手に入れたって言ったら信じます?」
「はは。嘘はもっと上手につくものだよ」
「なるほど。いえ、実はですね。昔、俺の父親が知人にお金を貸したのですが。知人はどうしてもお金を返せず、代わりにこの『浄化の石』をくれたんです。それで最近、父が病気になって寝込んでしまったので、いい薬を買うため、石を売ることにしたんです。だから、お願いします。高く買ってもらえませんか?」
嘘を上手につけと言われたので、俺は頑張ってストーリーをつくてみた。
ただ語るだけでなく、母さんゆずりの顔に涙すら浮かべてみた。
これなら大抵の人は同情的になるだろう。
「そうか……それは大変だな……」
オジサンは俺の目を見て、不憫そうな顔をした。
やったぜ。
「君を助けるため、千八百ディーネで買ってあげよう」
よし、値段がついたぞ……って、おいおい。
父さんは二千と言っていたのに、二百も安い。
このオジサン、同情していると見せかけて、足下を見るつもりだな。
「二千ディーネになりませんか?」
「無理だね。他の店じゃ、もっと安いと思うよ」
「そこを何とか」
「じゃあ、千八百五十。これ以上は高くならないよ」
「二千」
「……君ね」
「二千」
「そんなに言うなら他の店に持って行きなさい」
「はい、分かりました。では、さようなら」
俺は石を鞄にしまい、スタスタと出て行こうとする。
するとオジサンは慌てて呼び止めてきた。
「ま、待った! なら千九百。これでどうだ」
「二千」
「……千九百十」
「二千」
「せ、千九百十五」
「二千」
交渉の末、きっかり二千ディーネで売れた。
やれやれ。俺が子供だと思って馬鹿にして。
最初から相場価格で買ってくれれば、お互い無駄な時間を使わなくても済んだのに。
でも、価格交渉はちょっと楽しかった。
前世ではあまり意識したことがなかったが……機会があれば、またやってみよう。
「さーて。何かめぼしい物は……って、んん!?」
とある店の前に『凄いトウガラシ入荷しました! これであなたもヌシと戦える!』という張り紙があった。
マジか!
俺は慌てて店に飛び込んだ。
そこは雑貨屋のようで、カゴとかクワとかナイフとかロープとかロウソクとかホウキとか、とにかく色々な物が並んでいた。
そんな店の奥。カウンターの後ろに、ひときわ目立つ赤い物体が!
うずたかく積まれた巨大なトウガラシ。
念のため、ステータス鑑定で確かめる。
うん。間違いない。
凄いトウガラシだ。
二十個くらいあるぞ。
「あの! 凄いトウガラシって、一ついくらですか!?」
俺は店のオバチャンに大声で尋ねる。
「一万ディーネさ。子供の買うもんじゃないよ」
一万……人間一人が一ヶ月生活できるくらいの金額だ。
確かに、凄いトウガラシが生えているという山は、かなり遠かった。
行くのに時間がかかるというだけでなく、道中で多くのモンスターと遭遇するだろう。
それらと戦いながら、こんな大きなトウガラシを持ち帰るのは大変だ。
だが、それにしても一つ一万ディーネ……高い。
「オバチャン。もし俺がそれを全部まとめて買うと言ったら、いくらになる?」
「そうだね……二十個まとめて買ってくれるなら、全部で十九万ディーネにまけてもいいよ。まあ、どのみち、あんたには関係ないだろ。冷やかしは帰った帰った」
俺はオバチャンに追い出されてしまった。
その脚で、別の店を探す。
どの店がいいだろうか……宝石屋? 悪くはないが、それよりも……そうだ、マジックショップ!
前に魔導書を買ったあの店がいい!
というわけで、俺はマジックショップに駆け込み、店のおじいさんに『グリーン・サーペントの宝石』を差し出した。
「なんと。長いことこの店をやっているが、『グリーン・サーペントの宝石』を売りに来たのは君が初めてじゃ。HP+5……素晴らしい……」
おじいさんはステータス鑑定のスキルを持っているので、一目でそれが本物だと見抜いてくれた。
「単刀直入に言います。いくらで買ってくれますか?」
「そうじゃな……十八万ディーネでどうじゃ?」
「いやいや、そこは十九万ディーネくらいは出せるでしょう」
「うーむ。流石はブライアンの息子じゃな。ちゃっかりしておる。なら十八万三千でどうじゃ?」
「おじいさん。さっき、これを売りに来たのは俺が最初だと言いましたよね? それだけ貴重なアイテムなんです。効果はHP+5。とても強力です。ケチケチせず、二十万ディーネくらい出しましょうよ」
「こらこら。さっきよりも高くなってるぞ。なら十八万五千」
「十九万」
「しつこいのぅ……」
最終的に十八万八千ディーネで売れた。
さっき『浄化の石』を売って手に入れた二千ディーネと合わせると、十九万ディーネになる。
俺は雑貨屋に走り、金貨が詰まった革袋をカウンターにドンと置く。
「オバチャン。約束通り、凄いトウガラシ二十個を十九万で売ってください」
「まあ! 本当に十九万ディーネあるじゃないの……あんた、金持ちの息子かい?」
「金持ちじゃなくて力持ちなんですけど、ま、そこは気にせず」
「そうだね。あたしはお金さえ払ってもらえたらそれでいいよ」
俺は無事に凄いトウガラシを二十個手に入れた。
それを鞄に詰めて、あの湖に向かう。
今日はグリーン・サーペントを狩りまくるぞぉ。