14 天墜の塔に向かう
俺は毎日毎日、散歩と称して荒野まで行き、魔法を連発しまくった。
アイシクルアローとエアロアタックの練習はもちろん、その辺の小石に片っ端から『強度上昇』の効果を付与しまくった。
おかげでその一帯は、やたらと頑丈な『ラグナの石』が何百個も転がることになった。
誰も小石などにステータス鑑定を行わないだろうし、落ちている小石が多少頑丈になったからといって世の中に影響は及ぼさないだろう。
本当は刃物を見つけ次第『切れ味強化』を付与してみたいのだが……これは世の中に影響を及ぼしてしまいそうなので自重だ。
さて。
これだけ魔法を使いまくったのだ。
今レベル2になれば、魔法のランクが上がるはず。
しかし『天墜の塔』の外でいくら頑張っても、レベルアップはしない。
レベルアップとは倒したモンスターの魂を吸収することによって起きる現象だ。
鍛錬による技術の向上とは、また別の話なのだ。
レベルアップのために塔に行きたい。
だが、数日前から父さんが塔にこもっている。
俺が魔法を乱射してモンスターを狩っているところを見られたら大変だ。
剣で戦う分には問題ない。
剣技だけでも俺が父さんより強いというのは家族全員が知っている。
しかし魔法を乱射したら、俺のMPが百を超えていると知られてしまう。
そうなれば、転生してきたということまでバレるかもしれない。
まあ、バレたらバレたでいいのだが……もうしばらくは普通の家族でいたいものだ。
でも、塔に行きたい!
俺がそんな悶々とした気持ちで皿洗いを手伝っていると、父さんが帰ってきた。
「今回は『浄化の石』が沢山手に入ったから、いい稼ぎになったぞ」
「まあ。じゃあ、しばらくは家でゆっくりできるわね」
母さんはとても嬉しそうだ。
自分もかつては冒険者だったから、それが命がけの仕事だと分かっているのだ。
だから夫にはできるだけ家にいて欲しいのだろう。
「ああ、三ヶ月分の生活費を稼いだからな。それでも一週間くらい休んだらまた塔に行くけどな」
「あら、どうして? ゆっくりしていけばいいのに……」
「俺だってまだまだラグナに負けたくないからな。生活費を稼げたからって家でのんびりしているような奴は、冒険者とは呼べない。そうだろう、ラグナ」
「うん。俺もそう思うよ」
父さんの意見には激しく同意だ。
とはいえ、夫を心配する母さんの気持ちも分かる。
結婚して子供が生まれてしまったからには、「俺の生き様はこれだ!」などと言って塔で死ぬような無責任な真似はできない。
家庭を持つというのは大変なことなのだなぁ……。
「ま、冒険者としての意気込みはともかく。しっかり休むことも大切だよ。疲労を残したまま挑めるほど、『天墜の塔』は甘くないんだから」
「それもそうだな。しかしラグナ。お前、まるで塔に入ったことがあるみたいな言い方だぞ。あるのか?」
「え……あるわけないだろう……あはは」
俺は笑って誤魔化そうとする。
「そう言えばラグナ。あなた最近、よく散歩に行くって留守にしてるわよね。まさか塔に行ってたの?」
母さんまで疑わしそうな視線を向けてきた。
「いや、それは違うよ。荒野に行って、魔法の練習をしてたんだ」
「本当に?」
「本当さ」
これは嘘ではないので、自信たっぷりに答えることができる。
「ふーん……でもラグナ。あなた夕飯の時間まで帰ってこなかったわよね。そんなに長く魔法の練習できるほどMPあるの?」
「いや、それは……魔法だけでなく剣の素振りもしていたから……」
いかん。
怪しまれてる。
ここは強引に話をそらそう。
「と、とにかく! 俺は魔法がかなり上手くなったんだ。だからそろそろ塔に行って実戦をしたい。父さんが帰ってきたなら丁度いい。家は父さんに任せて、今度は俺が塔に行くよ」
「待てラグナ。塔に行くなら、父さんと一緒のほうがいいだろう?」
「いやいや。父さんはゆっくり休んでなよ。それに俺はもうすぐ学校の寮に入るんだ。いつまでも親同伴ってわけにはいかないよ。子供の自主性を認めて欲しいな」
「お、おう……母さんはどう思う?」
「何だかラグナのほうが大人みたいねぇ……私たちも子離れを考えなきゃいけないのかしら……」
という感じで俺は両親を説得し、塔に向かった。
ただし、毎日ちゃんと『晩ご飯の時間までには家に帰る』という条件をつけられた。
これでは二層まで行くのは不可能だ。
もっとも、七歳の子供をいきなり何日も塔に放置する親などいないだろうから、この条件は仕方がない。
俺は曇り空の下、目的地に辿り着いた。
商業エリアの中心にそびえ立つ、雲の上まで伸びる塔。
その入り口は東西南北にそれぞれ一つずつあった。
金属製の門がついているが、ずっと開きっぱなしになっている。
冒険者たちは自由に出入りしていた。
「おい、ボウズ。塔の見物はいいが、中に入るのはやめておけ」
俺と一緒に門をくぐろうとしたオッサンが、親切に忠告してくれた。
「大丈夫。こう見えても俺は冒険者です。塔は初めてじゃありません」
「そうなのか? まあ、それならいいが……」
何せ七層まで行ったことがある。
心配してくれるのはありがたいが、いらぬ世話というやつだ。
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