12 氷魔法を覚えた
「よし。今日は氷魔法の契約をやるぞ」
俺はリビングのテーブルに魔導書を広げる。
すると父さんが首を傾げた。
「お前、今朝一番に起きて包丁に魔法効果を付与したんだろ? なのにまだMPが10残ってるのか?」
「……包丁は小さいから、付与するのにMPをあんまり使わなかったんだよ」
「へえ、そういうものか」
やれやれ。何とか誤魔化せた。
安心した俺は、氷魔法の契約を済ませる。
早速、練習だ!
「じゃあ、俺は散歩に行ってくるよ。MPが空になったから、明日までやることもないしね」
「そうか。父さんは塔で仕事をしてくるぞ。途中まで一緒に行くか」
「え……そうだね」
何てこった。
俺も『天墜の塔』に行って、覚えたばかりの氷魔法を連射しようと思ったのに。
父さんが一緒ならできないじゃないか。
MPが百以上あるとバレてしまう!
仕方がないので、父さんと適当な所まで歩き、分かれ道で塔と反対方向に向かった。
そのまま農地を越え、岩肌が剥き出しになった荒野まで進んだ。
「よし。ここなら誰もいないから、巻き込む心配もないな」
俺は『氷魔法:G』の文字を凝視して、新しいウィンドウを開く。
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・アイシクルアロー
説明:消費MPは2。氷の矢を発射し、命中した対象を貫いたあと、内部から凍らせる。貫通力と凍らせる範囲は調整可能。ただし氷魔法のランクによって上限がある。
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なるほど、氷の矢か。
剣が届かない場所にいる敵に攻撃できるのは便利だ。
本物の弓矢と違って、持ち歩かなくていいのも助かる。
それにしても、貫通力と範囲を調整できるらしいが、どうやって調整するのだろう?
とにかくやってみよう。
俺の最大MPは153で、契約に10使ったから残り143。
つまりアイシクルアローを七十一発も撃てるのだ。
色々と試すぞ!
まずは普通にステータスウィンドウを凝視しながら、発動と念じる。
すると俺の正面に氷の矢が現われた。
長さは二十センチくらい。
それがまっすぐ飛んでいき、岩に激突した。
残念ながら岩を貫通するほどの威力はなく、その表面を凍らせるにとどまった。
しかし岩は結構大きく、成人男性が膝を抱えて丸くなった程度の体積はある。その表面を全て氷で覆ったのだ。
これなら攻撃だけでなく足止めにも使えるし、消火活動などにも役立つだろう。
「さてと。次は威力の調整をやってみるか」
俺は「貫通力上がれ上がれ」と念じながらアイシクルアローを撃った。
すると今度は、岩の表面に爪一つ分くらいの傷をつけてから凍らせた。
何度か試してみたが、どうもこれが最大の貫通力らしい。
次に「凍らせる範囲広がれ」と念じて撃つ。
凍らせる範囲が倍くらいになった。
これが『氷魔法:G』の最大範囲のようだ。
それから威力を下げる練習も行った。
貫通力を限界まで下げると、そもそも氷の矢が発射されず、目の前にポロンと落ちることが分かった。
凍らせる範囲を絞ると、完全にゼロにできるのも発見した。氷の矢が岩に当たって砕けるだけで、それ以上の変化が起らなかった。
俺はMPが尽きるまでアイシクルアローを撃ちまくった。
おかげでステータスウィンドウを凝視しなくても、念じるだけで撃てるようになってきた。
もちろん今はリラックスしているからできるのであり、モンスターとの戦闘中でも同じことができるとは限らない。
こればかりは練習あるのみだ。
とにかく氷魔法は思っていた通り、応用が利きそうだ。
アイシクルアローだけでも、直接攻撃以外に『相手の足下を凍らせて足止め』『飲み水の確保』などの使い道が思いつく。
ランクを上げれば他にどんな魔法を覚えるのか。今から胸が躍るぜ。