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11 魔法効果付与を覚えた

 マジックショップは魔法使い以外の者にも意外と需要がある。

 たちどころに傷を癒やすポーションとか、いつまでも明かりが消えない魔法のランタンとか、そういった便利なマジックアイテムが売られているからだ。


 それに俺は魔法を覚えるために転生してきたが、前世でも回復魔法だけは必要だと思い覚えていた。

 そのために必要な回復魔法の魔導書は、二層のマジックショップで購入したのだ。


 逆に、マジックアイテムを手に入れて売りに来る場合もある。

 だからマジックショップは全ての冒険者にとって身近な場所だった。


 塔の外にあるマジックショップに入るのは初めてだが、置いてある品物の質が低いこと以外はさほど変わらない。


 魔法効果が付与された宝石や、MPを増やす杖。

 瞬間的にパラメーターを増強する薬。

 運気を呼ぶというインチキ水晶。

 飾っておく用の骸骨。


 実用性のあるものからマジックアイテムと呼べないような物までが、所狭しと並べられている。

 その中で今日のお目当ては魔導書だ。


 予想していたとおり、レア度の低い魔導書しか置いてなかった。


「うーん……重力制御の魔導書とかは流石にないか。六層ですらレア物扱いだったからなぁ」


「おい、ラグナ。重力制御って何のことだ?」


「あ、何でもないよ。気にしないで」


 魔導書を前にしてテンションがあがったせいか、独り言を呟いてしまった。

 危ない、危ない。


 俺は以前、両親に自分が転生者であることを伝えようとしたが、よく考えてみれば自分の息子がそんな存在だと知ったら、普通はショックを受けるだろう。

 俺は今の両親をちゃんと家族として慕っている。

 意味もなく不安にさせたくない。

 転生してきたことは隠すことにした。


「えっとね。まずは炎の魔法に氷の魔法……雷も欲しいし、土も便利そうだ。ああ、そうそう風も外せない。そして絶対に魔法効果付与!」


「多すぎる! この店にある魔導書ほぼ全種類じゃねーか! せめて三冊くらいにしてくれ……!」


 武器屋では子供が金の心配などするなと言っていた父さんだが、俺が魔導書を片っ端から指さしまくっていたら、顔を青くして懇願してきた。

 まあ、冷静に考えればそうだろう。

 なにせ魔導書はどこの階層でも貴重品だ。

 この店にある魔導書は、一冊一万ディーネ。

 三冊でもさっき買った魔法剣よりも高くなってしまう。


「……じゃあ、氷の魔法と風の魔法。そして魔法効果付与にするよ」


「その三冊で本当にいいんだな? あとでもう一冊追加ってのは無理だぞ?」


「分かってる。むしろ、本当に三冊も買ってもらっていいの?」


「……当然だ!」


 微妙に間があった。

 どうやら父さんがいくらこの国でトップクラスの冒険者とはいっても、魔法剣の二万ディーネに加え、魔導書に三万ディーネを一気に払うのは痛い出費のようだ。

 これは早く塔に行って、俺も金を稼がないと。

 本格的に塔の攻略をする前に、両親に十万ディーネくらいは恩返しをしたい。


 さて。

 魔法剣と魔導書を買ってもらった俺は、まるで子供のように家路についた。

 そして家族が見ている前で『魔法効果付与の魔導書』を広げてみせる。


 魔導書に書かれている文字は、正直言って訳が分からない。

 戦闘よりも研究主体の魔法使いが解読を試みているらしいが、それが進んだという話も聞こえてこない。

 しかし、文字の意味が分からなくても、眺めるだけでいいのだ。


 研究者いわく、目で追うだけで脳に情報が蓄積されていき、それが魂に影響を及ぼすのだとか。

 まあ、理屈はどうでもいい。

 とにかく、魔導書の全てのページを目で追って、最後に描かれている魔法陣に手のひらを乗せる。

 そして――。


「契約」


 俺がその言葉を口にした瞬間、魔導書は光に包まれ、俺の手に吸い込まれるように消えてしまった。

 ステータスウィンドウを開くと、しっかり『魔法効果付与:G』と刻まれていた。


「成功だ!」


 俺はガッツポーズをして喜ぶ。


「これでラグナも魔法剣を作れるようになったわけか。凄いなぁ」


 父さんは感心した声を出す。


「でも、魔法効果付与って凄くMPを使うんでしょ? 一度使ったら、その日はもう他の魔法を使えないくらいに。冒険者向きの魔法じゃない気がするんだけど……」


 母さんは頬に手を当て、心配した様子だ。


「大丈夫だよ。レベルを上げてMPを増やせば、何度でも使えるから」


「えー、でも大抵の人はレベル1でMPが15か16くらいでしょ? レベル2のお父さんがMP19。レベルアップの上げ幅なんてそのくらいよ?」


「魔法を主体に戦ってレベル上げすれば、もっとMPが増えるよ。それに俺はレベルを99まで上げるつもりだから」


「レベル99……」


 母さんはポカンとした顔だ。

 無理もない。

 前世の俺が生まれた二層でも、レベル二桁は憧れの存在だった。レベル99など目指す対象ですらなかった。

 塔の外の人間なら、なおさらだろう。


「はは、いくらラグナでもレベル99は言い過ぎだ。母さんはからかわれてるんだよ」


 父さんが笑う。

 別にからかったつもりはないんだけどなぁ……。

 ま、いいや。


「さて。次は氷魔法を契約するぞ」


「こらこら、焦るなラグナ。魔導書と契約するだけでMPを10使うんだぞ。一日に二冊も契約できるもんか」


「……あ。そっか」


 俺は慌てて二冊目の魔導書から手を離す。

 俺の剣技が強いということは家族に伝わっている。

 しかし前世のステータスをそのまま引き継いでいるとまでは教えていない。

 よって両親の中で俺は普通のレベル1。MPは15か16くらいだと思われている。


 実際はレベル1なのにMPが153もあるのだが……これは秘密にしておこう。


「魔導書を買ってもらったのが嬉しくて、はしゃいじゃったよ」


 俺は笑って誤魔化す。


 その日はお開きになって、それぞれが自分の部屋に帰って行った。

 だが、俺はまだ眠るつもりがない。


 残る二冊の魔導書と契約したら怪しまれるから我慢するとして。

 せっかく覚えた魔法効果付与を試さない手はない。


 俺はステータスウィンドウを開き、『魔法効果付与:G』という文字を凝視する。

 すると新しいウィンドウが開いた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

・強度上昇

説明:物体の強度を上昇させる。その効果は魔法効果付与のランクに応じる。また消費MPは物体の大きさによって上下する。人間が扱える武器なら10~20程度のMPを消費する。


・切れ味上昇

説明:刃の切れ味を上昇させる。その効果は魔法効果付与のランクに応じる。また消費MPは刃の大きさによって上下する。果物ナイフくらいの大きさならば消費MPは1。剣なら10~20程度である。また両刃の場合は倍のMPを消費する。

――――――――――――――――――――――――――――――――――



 まずはこの二つ。

 最もポピュラーな魔法効果だ。

 ランクを上げれば、もっと色々な魔法効果を覚えるはず。

 とても楽しみだ。


 しかし、まずはこの二つをしっかり使えるように練習しないと。

 色々と試して、どの程度MPを消費するのか、体感したほうがいいだろう。


 それに何度も同じ魔法を繰り返し使うと、レベルアップした際、その魔法のランクが上がるのだ。

 レベル2になる前に百回くらい魔法効果付与を繰り返せば、ランク:Fになれるはず。


 よし。

 さっき父さんに買ってもらった魔法剣に、同じ効果を上書きしたらどうなるか試してみよう。


 まず魔法剣を鞘から抜き、刃にそっと指先で触れる。

 そしてステータスウィンドウの『強度上昇』の文字を凝視しながら『発動』と強く念じた。

 使い慣れたスキルならこんな面倒なことをしなくても自然に使えるのだが、覚えたてのスキルは手順が必要なのだ。

 前世で回復魔法を覚えたばかりの頃もそうだった。

 それが何十回、何百回と繰り返すうちに、手足を動かすようにスキルを使えるようになる。

 知り合いの冒険者たちはこれを『魂が慣れてくる』と表現していた。


 俺も早く、全ての魔法に魂を慣らしたいものだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

このアイテムには同じ種類、同じランクの魔法効果が既に付与されています。

――――――――――――――――――――――――――――――――――



 残念ながら、そんなテキストが表示されただけで、ボビーさんの魔法剣に付与することはできなかった。

 まあ、これは予想できていたこと。

 実際にどうなるか試しただけだ。


「片っ端から付与してみよう。まずはパジャマだ」


 俺は着ていたパジャマの上着に手をかざし、強度上昇を発動。

 無事に成功し、MPが5減った。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

このアイテムに名前を付けることができます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――



 そうだ。

 魔法効果を付与すれば、自分で考えた名前を付けることができるんだった。

 特に意味はないが、誰かがステータス鑑定を使えば、その名前が表示される。

 きっとボビーさんは面倒だったから『ボビーの魔法剣』なんて適当な名前をつけたのだ。

 

 俺は違う。

 生まれて初めて魔法効果付与に成功したのだ。

 もっと記念すべき名前にしよう。


 と。

 しばらく悩み抜いた俺は『ラグナのパジャマの上着』という面白みのない名前を付けてしまった。

 いや、だって。

 そうそう格好いい名前とか思いつかないし……。


 冒険者学校に入ったら、ネーミングセンスも学ぶことにしよう。そういう授業があるかどうか知らないが、多くの人と触れ合えばセンスも磨かれるはずだ。


 今は気を取り直して、パジャマのズボンにも強度上昇の効果を付与する。名前は無論『ラグナのパジャマのズボン』だ。


 次はベッド。布団。カーテン。タンス。

 と、目に映るもの全てに強度上昇をかけまくった。


 次はリビングに移動する。

 寝ている家族を起こさないよう、そろりそろりと歩く。

 俺は七層まで行った冒険者だ。

 気配を消すくらいお手の物。

 そんな前世で培った技術を駆使して、テーブルや椅子。花瓶に窓ガラスなど、様々な物の強度を上昇させる。

 名前は全て『ラグナの~~』だ。

 だって面倒なんだもん!


「そろそろ、切れ味上昇も使ってみたいな……」


 台所に向かい、包丁を手に取る。

 くくく。

 やはり魔法効果を付与するなら、家具よりも武器に限るぜ。

 包丁は武器ではないが……テーブルに比べたら武器だ。


 しかし、夜中に一人で包丁を手に取り「くくく」と笑っている七歳児は、かなり不気味かも知れない。

 両親に見つかる前に早くやってしまおう。


 発動、っと。


 よし。これでこの包丁は切れ味抜群になったぞ。

 ただ、まな板に強度上昇をかけておかないと、大変なことになる。

 気づいてよかった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

MPが足りません。

――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ……え?

 俺はまな板を手にしたまま固まった。

 もう一度、強度上昇を行おうとする。

 結果は同じ。

 無機質なテキストが表示されるだけ。


 これは、あれだな。

 前世のパラメーターを引き継いでいるからと、調子に乗りすぎた。

 いくらレベル99になったと言っても、しょせんは剣士だったのだ。

 MPはさほどでもない。

 なのに家中の物に魔法効果を付与すれば、当然の帰結としてMPが枯渇する。


「どうしよう……」


 俺は切れ味が上昇した包丁と、普通のまな板を見比べて頭を抱えた。

 そしていくら悩んでも答えが出ないので、そのままにして寝ることにした。


 次の日の朝。

 野菜を切ろうとしてまな板ごと真っ二つにしてしまった母さんの悲鳴が家中に響いた。


 俺はしらばっくれようとしたが、どう考えても犯人は俺しかいないのでメチャクチャ怒られた。

 そしてデールにメチャクチャ馬鹿にされた。


 くそ。魔法効果付与……思ったよりも奥が深いぜ!

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