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10 魔法剣を手に入れた

 校長は合格だからこのまま帰っていいと豪語していたが、試験官に「そういうわけにはいかないから」と言われたので、他の受験生と一緒にペーパーテストを受け、そのあと実家に帰った。


「ただいま。合格したよ」


「あら、お帰り。合格発表は明日じゃなかったの?」


 出迎えてくれた母さんは、不思議そうにしている。


「うん。本当は明日なんだけど。校長先生が何か勝負を挑んできたから、ぶちのめしたら授業料無料で合格になった」


「ええ!? ちょっとラグナ、何を言ってるのっ? お父さーん!」


 母さんは慌てて父さんを呼びに行った。

 うーん。驚かそうと思って、あえて説明を雑にしたんだけど。

 驚かせすぎたらしい。


「それでラグナ。どういうことなんだ? 詳しく説明しろ」


 部屋から出てきた父さんと、ついでにデールも交えて家族会議だ。

 もっとも、さっき俺が言ったことは真実。

 ただちょっと雑だっただけ。

 なので改めて詳しく説明する。


「うーん、そうか……あの校長、レベル4になったのか。凄い……で、その校長をラグナが倒した……我が息子ながらすげぇ……」


「父さん、母さん。騙されちゃ駄目だ。いくらなんでもレベル4の人に勝てるわけがない!」


 デールは何の根拠があってか知らないが、俺の言うことを嘘だと決めてかかる。


「いや。デール、お前には分からないだろうが、ラグナは強い。もう何と言うか、超強い。強すぎて語彙力がなくなる。校長に勝ったとしても不思議じゃない」


 父さんにそう言われ、デールは悔しそうに拳を握りしめる。

 デールは嫌な兄貴だが、ちょっと気の毒だ。

 せめて生まれた順番が逆だったら、ここまで嫉妬しなくて済んだだろうに。

 まあ、俺はそのうち塔にこもるから、それまでは我慢してくれ。俺もお前に我慢するからさ。


「それにしても、授業料無料は助かるなぁ」


「そうね。浮いたお金で、ラグナにもっといい剣を買ってあげましょう」


 俺の剣は校長との戦いで壊れてしまった。

 新しい剣は確かに必要だ。

 しかし――。


「あのさ。剣はそんなに高くなくていいよ。それよりも魔導書を買って欲しいんだ」


「え、魔導書だって? お前、魔法にも興味があるのか?」


「うん。剣と魔法を両方極めたい」


 するとデールが素早くツッコんできた。


「はん! 剣と魔法を両方なんて、そんなことできるわけないだろ! 世の中を舐めてるんじゃないのか!?」


 が。


「いや。ラグナならやりそうだな……」


「そうね……ラグナならやりそうね……」


 と、両親が感心しているのか呆れているのか分からない顔で呟いた。

 デールはがっくりとうなだれる。


「よし。明日、さっそく商業エリアに行って、魔導書を買おう。どの魔法がいいんだ?」


「えっと……炎系と氷系と、あと今日の試験で風系魔法を上手に使ってる人がいたから真似したい。風系の魔導書も買おう。それと俺が使っても壊れない剣を作りたいから、魔法付与の魔導書も欲しい」


「「「欲張りすぎ!」」」


 こんどは家族三人の声がハモった。

 うーん、世知辛い。




 そして次の日。

 俺は父さんと一緒に塔の周りにある商業エリアに向かった。

『天墜の塔』を近くから見上げたのは初めてだが……でかいなぁ。

 てっぺんが見えない。雲の上まで伸びている。


「ラグナ、こっちだ。まずは剣を買うぞ」


「はーい」


 父さん行きつけの武器屋に行く。

 前と同じ店で剣を買ってもらった。

 買ったばかりなのにもう壊したのかと呆れられるかもしれない。


 その店はボビーという人が店主で、かつては父さんと組んだこともある冒険者だったという。

 しかし死の危険がある冒険者を続けるよりも、武器を作って売る道を選んだ。


 店はさほど大きくないが、剣、槍、斧、弓と基本的な物は揃っている。更に、手裏剣とかヌンチャクとかブーメランとか変わり種の武器も扱っている。


 俺の剣が試験で折れてしまったことから分かるとおり、高品質とは言いがたい。

 もっとも、俺が力一杯振り回しても壊れない剣など塔の外では入手不可能なので、ボビーさんの店が悪いわけではない。


「え、もう折れたの?」


 案の定、ボビーさんは驚いた顔をする。


「いやぁ、うちのラグナがな。強いのは分かっていたんだが、まさか剣が耐えられないほど強いとは思わなくてよ……前のより頑丈な剣を一振り見繕ってくれないか? 金ははずむからさ」


「そりゃ、売上になるからありがたい話だけどよ。前の剣だってなまくらってわけじゃないんだぞ。どんな使い方をしたら折れたんだ? ブライアン、お前が使ったんじゃないのか?」


 ボビーさんは七歳の俺が剣を折ったなんて信じられないらしい。

 一応、折れた剣を持ってきたので、俺はボビーさんに差し出した。


「どれどれ……な、何だこりゃ! 折れたと言うより斬られたって感じだぞ! どうすりゃこうなる!?」


 ボビーさんは目を丸くし、俺と父さんを交互に見る。


「冒険者学校の入学試験で校長先生と戦うことになりまして。それでそうなりました」


「なんつーざっくりした説明なんだ! だが校長かぁ……それなら納得だ。しかし、どうして校長が入学試験なんかに出てきたんだ?」


「俺が試験官を倒したら嬉しそうに出てきました」


「え!? ラグナくん、試験官を倒したのか!?」


「ええ。試験官の剣を真っ二つにしました」


「俺の剣でかっ? 俺の作った剣って、他の剣を斬ったりできたのか!?」


「できましたよ」


「そうかぁ……俺の腕もたいしたもんだ」


 ボビーさんは腕組みをして、うんうんと頷いた。


「おい。言っておくが、お前の剣が凄いんじゃなくて、ラグナが凄いんだからな。俺じゃお前の剣で鉄を斬ったりできないぞ」


「そのくらい分かってる。だが、本当に駄目な剣だったら、いくらラグナくんが達人でも無理だろう?」


「そうですね。ボビーさんの剣は、手によく馴染みました。ただの鉄ではなく、もっといい金属を素材にすれば、校長先生との戦いでも折れなかったかもしれません。ボビーさんはいい腕をしていますよ」


 俺はお世辞ではなく、素直な感想を口にした。


「ラグナくん、いいこと言うなぁ。よし、とっておきの剣を売ってやろう」


 そう言ってボビーさんは、鍵付きのガラスケースから剣を取り出した。

 前に買いに来たときは、七歳の俺が使うということで小ぶりな剣を勧められた。

 しかし今回はまともな長さだ。

 俺はステータス鑑定スキルを発動させる。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:ボビーの魔法剣


・魔法効果

強度上昇:G

切れ味上昇:G

――――――――――――――――――――――――――――――――――



 やはり。

 自信満々に出してきたからもしやと思ったが、魔法効果が付与されていた。

 二種類ともランクは最低のGだ。それでも魔法効果があるのとないのでは大違いだ。

 この剣なら、校長の斬撃をもっと長時間、受け止められただろう。

 もっとも、剣の太さが違いすぎて、いくら魔法で強化しても最終的には折れていたはず。


 強度上昇:EかDくらいなら折れることなく最後まで戦えただろうか?

 俺は魔法に関してはまだ専門外なので、ハッキリしたことは分からない。

 いずれにせよ、この剣は「前よりはマシ」である。


「どうだ、魔法剣だぞ! 『強度上昇』と『切れ味上昇』の効果がかかっている!」


「マジか!? 二種類も? お前、そんなにMPあったっけ!?」


「くくく……知っての通り、魔法付与を一度やるだけで俺のMPは空になる……だからぐっすり寝てMPを回復させ、二日にわけて魔法付与を行ったのだ!」


「すげぇ! じゃあ三日かければ三種類の魔法効果を付与できるってことか!」


「いや……残念ながら俺が覚えている魔法付与はこの二種類だけだ……もっと覚えていたとしても二種類までが限度だと思う」


「そうか……いや、それでも凄いぞ! ラグナにふさわしい! ぜひ売ってくれ!」


 父さんは魔法剣を見て大はしゃぎだ。

 塔の二層でも、探せばもっと強力な魔法剣がゴロゴロあるのだが……二層の奥地は行って帰ってくるだけでも数週間はかかる。

 今のところはボビーさんが作った魔法剣で我慢しよう。


「流石はブライアン。お目が高いぜ。じゃあ二万ディーネでどうだ」


「二万だって? おいおい、前に買った剣の倍じゃないか!」


「二種類も魔法効果を付与してあるのにたった倍だぞ? これでもかなり安くしているつもりだが?」


「むむ……確かに魔法剣としては安い……よし、買った!」


「まいど!」


 父さんは金貨二十枚をボビーさんに支払った。


 このヴァルティア王国も『天墜の塔』の内部も、使われている通貨は同じだ。


 銅貨が一ディーネ。

 大銅貨が十ディーネ。

 銀貨が百ディーネ。

 大銀貨が五百ディーネ。

 金貨が千ディーネ。

 大金貨が一万ディーネ。


 町の食堂で昼ご飯を食べれば一人、五十ディーネくらいだ。

 一万ディーネあれば、人間一人が一ヶ月生活できるだろう。


 そう考えると二万ディーネは大金だ。


「父さん、いいの? 俺は別に魔法剣じゃなくてもいいんだけど……」


「子供がそんな心配するな。俺はこれでも名の知れた冒険者だぞ。稼ぎだってそれなりだ。二万ディーネくらいドンとこいだぜ!」


「父さん……ありがとう!」


 俺は本気で父さんを尊敬した。


「けど……三本目は自分で買ってくれよな」


「うん、分かってる。この剣が折れる前に、自分で稼げる冒険者になるよ」


「まあ、今から塔に行っても稼げると思うけどな」


「剣だけで戦うならね。前にも言ったけど、俺は剣と魔法を両方極めたいんだ」


「他の奴の台詞だったらアホかと返すところだが、ラグナならできる! よし、次は魔導書を買いに行くぞ!」


 魔導書と聞いて、俺は年甲斐もなくワクワクした。

 なにせ、魔法を覚えたくて転生したようなものなのだ。

 攻撃魔法を覚えれば遠距離の敵との戦いが楽になるし、魔法効果付与を覚えれば自分で魔法剣を作ることができる。

 夢が広がるぜ!

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