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1/99

01 転生を決意する

6/23 序盤の展開を少し変えました。

「ついにレベル99になってしまったか……」


 俺は目の前に横たわる巨大な『三つ首の狼(ケルベロス)』の屍を見つめながら、静かに呟いた。

 この『天墜の塔』七層にいるモンスターはどれも、六層までとは格が違う。

 中でも、俺が今倒したケルベロスは、とてつもない強さを誇っていた。

 こいつ一匹を塔の外に解き放てば、瞬く間に世界を滅ぼしてしまうだろうというくらいに。


 そんな怪物を倒したのに、達成感よりも、虚しさが勝っていた。

 なにせ俺はもう成長することができないのだから。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:ラグナ

レベル:99


・基礎パラメーター

HP:755

MP:153

筋力:631

耐久力:459

俊敏性:999

持久力:587


・習得スキルランク

回復魔法:C

ステータス鑑定:A

ステータス隠匿:B

――――――――――――――――――――――――――――――――――



 俺の視界の中に、半透明のステータスウィンドウが表示されている。

 これが今現在の俺の強さを数値化したものだ。


 そして。

 ラグナという男の到達点である。


 人間は『天墜の塔』に生息するモンスターを倒し、魂を吸収することでレベルアップして強くなっていく。

 単純な筋トレや修行などで得られる成長と、レベルアップによる成長は、比べものにならない。

 だが、そこにもレベル99という限界があった。

 俺の伸びしろは消えてしまった。


 それに、俺はもう六十歳だ。

 そろそろ『ステータス異常:老化』が始まり、あらゆる数値が減少していくだろう。


 俺という人間のピークが今なのだ。

 なのに一匹のモンスターを倒すのに、一時間以上もかけてしまった。


 このケルベロスが極めて強いのは確かだ。

 しかし、このクラスのモンスターなら七層にもっといる。

 八層に上れば、更に強いモンスターがいくらでも生息しているはずだ。おそらくは――。


 断定できないのは、八層に上ったという者の話を聞いたことがないからだ。

 それどころか、六層までは何人も冒険者がいたのに、この七層に来てから誰とも出会っていない。


 もしかしたら『天墜の塔』の七層に到達したのは、人類で俺が最初かもしれない。


 実際、俺は『剣聖』とか『最強剣士』だのと呼ばれている。


 同じレベル90台の連中と比べて、俺の基礎パラメーター合計値が突出して高いというわけではない。

 しかし、ずっとソロで活動して六層まで上ったのは俺だけだった。

 剣技を主体に戦い、習得した魔法は回復魔法だけ。

 ひたすら一人で敵を倒すことだけを考えて六十歳まで生きてきた。

 それが性に合っていた。

 仲間など足手まといだと思っていた。


 だが。

 俺はもう強くなれない。

 そして仲間もいない。

 つまり、七層から先に進むことはできないということだ。


「途中で分かっていたんだ……俺のやり方じゃ行き詰まるってな」


 それに気づいたのは数年前。

 五十代も半ばを過ぎて、急に生き方を変えられるものでもない。

 そのまま意地になって突っ走り、ついには前人未踏の七層に辿り着き……俺の旅は終わりだ。


 ここでいくら戦っても、もうレベルは上がらない。

 六層に戻って仲間を作ろうにも、肝心の俺の老化が始まる。


 そもそも、六層にいる連中はどいつもこいつも癖がありすぎる。

 仲間になってくれと言って素直に頷くわけがない。



 希望を託すなら、来世――。


 俺は背負ったリュックから、一つのアイテムを取り出した。

『転生のナイフ』だ。

 ステータス鑑定のスキルを使って見つめると、アイテムの説明文が視界に現われる。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:転生のナイフ

説明:このナイフに刺されて死んだ者は、記憶とステータスを保ったまま転生できる。転生後はレベル1からやり直せる。なお、このナイフは一度使用したら消滅する。

――――――――――――――――――――――――――――――――――



 転生。生まれ変わり。その概念は知っている。

 だが実際に存在するとは思っていなかった。

 このアイテムを七層で手に入れるまでは。


「本当に転生できるのか……?」


 ステータス鑑定の説明文に書いてあることが嘘だとは思えない。

 しかし、このアイテムを使う……それは死を意味する。

 失敗しました、では済まない。


 それでも、本当に人生をやり直せるなら、危険を冒す価値はある。

 なにせステータスを保ったままレベル1になるということは、単純に考えて、今の倍強くなれるのだ。


 HPや耐久力といった基礎パラメーターは、どんな戦い方をしたかで伸び方が変わる。

 俺は剣でばかり戦ってきたから、MPがあまり伸びていない。使える魔法も回復魔法だけだ。

 しかし、次の人生で魔法主体に戦えば、剣も魔法も使えるオールラウンダーになれるはずだ。


 そして自分が強くなるのと同時に、仲間を探したい。

 この『天墜の塔』を一緒に上ってくれる、心から信頼できる仲間を。


「いや、待て。ここで衝動的に死ぬことはない。一度、六層に帰って、じっくり考えてから――」


 そのときである。

 背後から恐るべき殺気が近づいてきた。


 俺は反射的に振り向き、剣を盾にする。

 刹那、激しい衝撃に襲われ、後ろに大きく吹っ飛ばされた。


 ケルベロスの巨大な前足で薙ぎ払われたのだ。


「ちっ、もう一匹いたのか……いや、二匹、三匹……!」


 岩山の影から、黒い影が現われる。

 まずい。囲まれた

 一匹だけでもかなり手こずったのに、三匹同時ではなぶり殺されるだけだ。


 屈辱的だが、逃げるしかない。

 しかし、その逃げることすら難しい状況だ。


「こんなところで終わるわけにはいかない……押し通る!」


 俺は正面のケルベロスへと走り、剣を振る。

 ケルベロスは俺を飲み込もうと口を開け、そして剣と牙がぶつかり火花が散った。


「おおおおおお!」


 俺は雄叫びを上げながらケルベロスの真横を走り抜ける。

 包囲網を抜けた。

 ケルベロスたちが追いかけてきても、このまま逃げ切れるはず。


 と。

 次の瞬間。

 俺の体は宙を舞い、そして崖から落下した。


 何だ? 何が起きた?

 包囲網を抜けたからと気を緩めたつもりはない。

 しかし真横から突然、攻撃が飛んできた。

 四匹目のケルベロスがいたのか?

 あるいは別のモンスター?


 この俺が、まるで気配を察知できなかった。

 六層ではこんなこと、あり得なかった。

 だが、この七層は……。


 最強の剣聖と呼ばれた俺でさえ、ここでは『狩られる側』なのだ。

 それをようやく痛感した。

 あまりにも遅すぎた。


 俺は落ちていく。

 その先には――おびただしい数のモンスターがうごめいていた。


 死ぬ。確実に殺される。

 もう迷っているときではない。


「頼む、成功してくれ!」


 俺は祈りを込めながら『転生のナイフ』を心臓に突き刺した。

 まだまだHPが残っているのに、何の抵抗もなく、ナイフの刃はするりと胸の中に吸い込まれていく。

 そして俺の意識は――。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] マンガから来たけど、2年放置か… 俺たたor第一部完くらいにはなってるんかな
[気になる点] スキル構成が冒険者向けじゃないな、攻撃系のスキルが一つもないのか。 回復魔法を持っているし、タイトルからして攻撃魔法のスキルはあるのだろうけど。 恐らく世界最強であろう冒険者が物理系攻…
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