仲を直したい者
眠い、そう心では思っていた。
昨日一睡もしていないのだ、当たり前だった。
しかし、そんな生易しいことを言ってられなかった。
頭は完全に眠気を失っていた。
スマホの時間を見ると約束の時間まであと2時間。
今から行っても早すぎることは分かっていた。
たが、それとは逆に早く行きたい自分もいた。
結局20分後、俺はかばんを持ち家を出ていた。
朝、日は出てない時々流れる風が冷たい。
しかし額からは汗が出ていた。
学校に着くと自転車が一つもない。
流石にまだ誰も来ていないようだった。
この学校は規定がゆるく職員室、科学室など盗られたら危険な物があるところ以外の場所には鍵はかけられていなかった。
教室まで歩いているが、明かりは消火用のホースが分かるように照らしている赤いライトと俺のスマホのライトだけだった。
不気味である。
学校の怪談などとよく言うがまさにその通り何か出そうな雰囲気がそこら中に漂っていた。
音は俺のコツコツとした足音しか聞こえない。
まるでこの世界には俺以外の生き物は全ていなくなっているようだった。
靴箱から一番端の教室に行く。
俺のいる1-7の教室である。
教室に入るといつも通り机の上にカバンを置く。
そして、篤と会った時のように窓を開け、外を眺める。
しかし、あの時とは違い部活動の練習もなく、日も出てるわけではない。
俺のいる校舎は、山側の校舎なためグラウンドと森しか見えない。
とても面白みのある風景とは言えない状況だった。
だが、それ以外にやることが無いので仕方なく、くるみが来るまでそうしていた。
待っていると何故か今頃になり睡魔が襲ってくる。
俺はうとうと、と睡魔に今にも負けそうになっていたが、一瞬のうちに吹き飛んでしまった。
「おはよう。光君」何処かで聞いた声。
しかし、いつもより元気の無いか弱い声。
そして、俺が振り返るとくるみがドアの前に立っていた。
いつもなら
「おっはよ〜う!ひかるん」というくるみだが、
今日は
「おはよう。光君」春花並の冷たさだった。
「おはよう」俺もいつもよりトーンを落としそう言う。
「話って何?」すぐにくるみはそう聞いてきた。
「ああ、そうだった」そう言い一呼吸置く。
「昨日は本当にごめん。くるみには何も悪くなかったのに...」言いたいように何故か言えない。
俺の頭は混乱していた。
「ううん、光君は何も悪くないよ。私が光君に悪いことを言っちゃったから...」駄目だ会話が繋がらない。
このままではもう元のようになれない。
どうすればいい...元のくるみに戻ってもらうためには。
いやあの時からもう、元に戻す事はもとからできないのか。
いやだ。
そんなのいやだ。
何かないか。
どうすればいいのか。
なんて言えば...
気まずい空気動かない二人。
時間が止まっているかのようだった。
言葉が思いつかない。
何か言わなければ。
どうすれば...
「あのさあ、俺うれしかったんだ」何を言い出しているんだ俺。そういうと下を向いていたくるみが顔を上げる。
「みんなと一緒にご飯食べれて、だけど俺中学のとき友達いなかったから、友達との付き合いって言うものが分からなくなっちゃって...」これ以上言いたい言葉がつっかえて出てこない。
「やらなきゃわからないじゃない」そう夢美はいないのにそう聞こえた。
その瞬間突っかかっていたものが解ける。
「おれもっとくるみやみんなと話しをしたい。ずっと友達でいたい。だからもう一度俺のことをひかるんって呼んでくれ」そうだ俺はひかるんと呼ばれるのをいやではなかった。
そういうとくるみの目からは涙が落ちていた。
「もちろんだよ。これからもずっと友達に決まっているじゃん、ひかるん」そういって抱きついてきた。
この絵図らをほかの誰かに見られたら本当に恋人同士に見られそうだったが、そんなことはどうでもいい。
俺はくるみとの仲が再び良くなった気がした。
「だけどね、ひかるん私たちお互いのこと結構知っているんだよ」とくるみが自分の制服のすそで涙をぬぐいそういった。「え、俺たち前にどこかであったことがあったか?」
「やっぱ覚えてないんだねひかるん」覚えてない何のことだ?「小学校のころだよ」小学校?果たして俺はその小学生の時こんな学校のどこにいても目立つような彼女にあったことがあるだろうか。
いや、なかっただろう。
そう記憶の中を探しているとくるみはかばんの中から何か物を取り出した。
それはめがねケースだった。
「これを見ても分からない」
「ごめん。わからない」そういうと、くるみはめがねケースからめがねを取り出してそれをかけて見せた。
その姿はくるみとは違いほかの女性に見える。
彼女をどこかで...
「光君。人って何で仲間を作ろうとするのかな」そうだ確かこの後俺は
「一緒にいたいと思う人がいるからだろ」と言ったのだった。「もしかして小学校5年のとき」
「うん」くるみは大きくうなずいた。
「春に転向してきた」
「そう」思い出した。
小学5年のときに転向してきたあの少女である。
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時は遡り、俺が小学5年生のときである。俺が引きこもりになる前、東京に転向する前の話。
「おーい光今年もお前と同じクラスか」と少し太り美味の男が話しかけてくる。
この男は、小学3年から同じクラスの俺の友達の中の一人(桑原亮太)である。
クラス分けが終わり、新たな担任からよろしくという挨拶があり、委員会や席替えをして初日が終わった。
ちなみに俺は、委員会は一番楽そうな風紀委員で席は一番後ろでさらには窓側隣の席に人なしと最高の場所を手に入れたのだ。
次の日からは、授業が始まった。
そんなクラスメンバー以外ほぼ何も変わらない学校生活を変えたのがくるみだった。
5年生になってから1ヶ月が経ったころであった。
いつもどおり学校へ登校するとなにやらクラス内が騒がしい。
何を騒いでいるのやらと、騒いでいるやつらを心で馬鹿にしながら席に着いた。
席に着くとクラスのやつら以外の異変に気がついた。
そう、俺の隣の席に今までなかった席があるのだ。
8時のチャイムがなりみんなが席に着く。
みんなが席に着いたのほぼ同時に担任が入ってきた。
そして担任の後ろには少女が親アヒルについていく子アヒルのように入ってきた。
教卓の前に少女と担任が立ち担任はチョークで少女の名前を書く。
少女はどうしていいか分からないようであたりを見回している。名前が書き終わったようで担任はこちらを向き
「水瀬くるみさんだ。みんな仲良くしてやってくれ」そういうと彼女はまたあせりながら自己紹介をする。
「水瀬くるみですよろしくお願いします」硬い自己紹介だった。彼女が教室に入ってからクラスでは彼女に関する小話が回っていた。
紹介が終わると担任が
「水瀬は一番後ろの光の隣の席な」と言った。
そういわれくるみは言葉には出さず(うん)とうなずき俺の隣の席に来た。
隣を見ると彼女がいる。
違和感しかない。
担任の話が終わり、授業の準備時間に入るとすぐにクラスの朝から騒いでいたやつらが彼女に周りを覆った。
彼女は戸惑っている。
さまざまな人から質問攻めにあうが何も答えずに黙っていた。
軽く彼女をちら見しながら、俺は友達と話していた。
そんなこんなで授業が始まる。
授業が終わり、彼女は考えたようだ。
彼女は授業後には教科書や参考書、小説を読み出した。
いつまでも彼女がそうするものだから、彼女に群がるやつらは、いなくなり、それと平行して彼女に話しかける人はいなくなった。
「光、あいつ、いつも小説ってなに読んでるんだ」そういい亮太はくるみの方を見た
「何で俺が知っているんだよ」
「だっておまえあいつと隣の席だろ」
「俺あいつと話したことないぞ」
「話したことないのか、隣の席なのに」
「隣の席でも話をするとは限らないからな」
「水瀬って誰とも話さないよな。あいつそんなんで学校楽しいだか」
「楽しみ方は人それぞれだ。あいつにはほかの人と話すより本を読むほうが楽しいんじゃないのか」
「そういうもんかな」
「ああそうだとも」しかし、俺は口ではそういったが心では絶対に楽しくないだろうそう思っていた。
くるみがこの学校に着てから3ヶ月ほどたち明後日から夏休みに入る。
みんな気持ちがわくわくしているだろう嫌いな勉強も最近は楽しそうにやっていた。
ただくるみを除いて。
そんなであっという間に夏休み前日になった。
「え~明日から夏休みに入る。事故の無いように思いっきり遊んでしっかりと勉強するように」と担任からの一言。
それに俺たちは「はーい」と答えた。
その後担任から通知表をみんな、いやいやながらも渡され一学期が終わり夏休みに入った。
夏休み初日。
俺は図書館に行くことにした。
読書感想文を書くためだ。
俺の毎年の夏休みの過ごし方は、5日ほどで宿題を終わらせ残りの時間を遊ぶと言う過ごし方だった。
図書館までは電車で2駅行ってすぐのところだった。
図書館に入りできるだけ薄いだが、幼稚園児が読むような本ではないものを選ぶ。
図書館を回っていると見覚えのある少女がいた。
くるみだ。
正直俺はくるみとは一切話したことがないのだが、俺はあいつを嫌っていた。
俺はクラスの中でも一番頭のいいほうだった。
しかし、くるみが来てから俺の一位の座は奪われてしまった。
テストでも毎回ほぼ100点を取っているのにもかかわらず、平然として何もうれしがらない、その姿が俺のイライラをためていった。
そこで俺は、くるみにいたづらをしようと考えた。
しかし、これは別に小学生男子が女子に振り返ってもらうためにやる。
あのいたづらとは違う。
単純にくるみに困る姿を見たい、俺にとってやり返しのつもりだった。
今くるみは、テーブルで本を広げ何か勉強をしている。
くるみがどこか行った隙に本のひとつでもとってやろうそう考えていた。
しかし、その考えはある出来事で崩れてしまう。
くるみが勉強しているとうちのクラスやほかのクラスの男子がくるみのまわりを囲った。
そして、くるみの持っていた本を取り上げた。
くるみは取り返そうとするがいいように遊ばれていた。
あの男子たちの行為は、先ほどの通りくるみに振り返ってほしいからやっているのか、くるみのことが嫌いでやっているのかわからなかった。
だが、俺にとってその男子たちは、くるみ以上にいらいらさせられるものがあった。
俺はわざと足音を立てるかのように歩いて行く。
「おいやめろよ」そう俺はいい、本を取り返す。
「お前なんだよ。あっ、おまえ3組の光じゃないか。何でお前がここにいるんだよ」
「俺がどこに至って関係ないだろ」
「本返せよ」そういい無理やり本を取り返そうとする。
「これはお前のじゃないだろ。水瀬のだろ」
「関係ない俺のだ」そう終わりのない争いを行っていたが、すぐに第三者によって止めれた。
「あなた達、図書館で騒ぐんじゃない」図書館の管理人に怒られ、俺たちは図書館から追い出された。
「お前のせいで起こられたじゃないか」そう俺に捨て台詞をはき男子たちは去っていった。
じゃないかそう逃げている男子たちを見てそう思った。
すると、くるみが近づいてきていた。
「あ、あの、ありがとう」
「いいよ、これぐらい」これがくるみと話したはじめての会話だった。
だが会話もそれまで、俺はくるみに本を渡し分かれた。