迷う者(編集、中)
俺は山麓に行くと自転車を荒く投げ捨て荷物もすべてそこに投げ捨て、また柵を登り山を登った。
俺が、山を登ったのは、夢美のいるあの家を目指したわけではない。
俺は誰もいない山を目指した。
ただひたすらに山を登り続ける。
そして俺は気づけば、あの夢美が泣いていたあの崖にいた。
何をしているんだろ俺。
近くの木の下で膝を抱え座った。
そこでは何も考えず、ただ時間が過ぎるのを待っていた。
夕日が沈みかける5時ぐらいになると、またあの少女は現れてまたあの言葉に似たフレーズの言葉を口にする。「どうして、あなたがここにいるの」声で分かる。
夢美だ。
しかし、俺は何も答えなかった。
答えられる元気もなかった。
「あなたよ、変態」
そんな呼び方やめてくれよ。
だが言い返す気にもなれず、黙ったままでいた。
その後少しの間夢美は、声をかけてこなかった。
そこから、無音の時間が過ぎていった。
夢美は帰っただろうか、返事もしなかったからふて腐れて帰っただろう。
風が吹いてきた。
夕日も落ちただろう下を向いていたがかなり暗くなってきた。
寒い。
このままここに居てもなにもならない。
不本意ではあるが帰るか。
そう思い、俺は顔を上げた。
すると、前の木下で木の実の入った籠を隣に夢美が膝を抱えて座っていた。
「あっ、やっと起きた」
俺の顔を見てそういってきた。
俺はまた顔を背ける。
言葉を返したくなかった。
夢美が帰るまで待っていようと思った。
するとまた、夢美が声を掛けてくる。
「こんな所にいると動物とか危ない人に襲われるよ」
無視したかったがどうしてもこのまま帰ってくれそうになかったので答える。
「おまえこそなんでこんなところにいる。早く帰らないとお前を待っているやつがいるんじゃないか」
そう夢日には帰る場所がある。
誰かに必要とされている。
しかし、俺の居場所は...
俺は誰かに必要とされているのか...
「それは、おばあさん、たぶん私を待っていると思うけど、なんとなくまだここにいたい気分なの」
...
「なあ、お前はほかのやつらに何か負けたらどう思う」
と俺から突然質問をした。
別に意味はないただ聞いてみたかっただけだ。
そう聞くと夢美は驚いた姿勢を見せ
「いきなりどうしたの」
そう聞いてきた。
しかし、俺は答えなかった。
夢美それ以上聞かず、その後悩むように右手をあごに当てて答える。
「私、あなたや、おばあさん以外にしゃべったことがないから分からないけど、そりゃ負けたら悔しいでしょ」
「その悔しい気持ちはどうする」
「どうするってどういうこと」
「何か行動を起こさないのか」
「ああ、そうね私だったらその負けた原因とか考えて次は必ず負けないようにするわね」
「かなわないと分かっていてもか」
「そんなのやってみないとわからないじゃない」
「何でいきなりそんなこと言うの」
俺は今日あったことを言うか迷ったが、少しぐらい聞いてみようと簡略的に学校での出来事を話した。
「~~こういうわけなんだ」
説明をすると夢美はふーん興味ないような反応をして口を開いた。
「それじゃあ最後に暴言を吐いてここまで逃げてきたわけ」
「ああ、そうだ」...
「ばっかじゃない」
「ばかとはなんだ、ばかとは」
「自分の問題なのに他人のせいにするんだもん。それは間違いなく馬鹿がやることよ」
そんなこと自分でも分かっている。
俺は八つ当たりをした。
サイテーなことをした。
でも言葉ではそういったが俺はあのグループが好きだった。
「俺のことみんな許してくれるかな...」
「私はその人と話したことはないし、会ったこともないけど、本当にあなたのことを友達と思っているなら許してくれる。友達ってそんなもんでしょ」
平然に夢美はそういった。
しかし、俺にはその言葉は信じられなかった。
俺は、何度も言っている通り中学校時代、友達と呼べる人が誰一人としていなかった。
さらには、そのとき引きこもりとなっていた。
このことから俺は信頼と言うものはないと思っていた。
つまり人間不信となっていた。
そんなことを思い暗い顔でもしていたんだろう夢美がまた口を開く。
「そんなに絶望した顔しないの。うーん。よし、練習しよう」
「え?なんの」
「きまっているじゃない。今日あったことを誤る練習よ」
冗談ではない本気で言っているようだ。
「本気でやるのか」
「もちろんよ。さあ、早く」
恥ずかしい気持ちはあるが俺のことを思ってやってくれるのだ。
言う通りにやることにしよう
「え、ええっと、昨日はごめん」
そう言い俺は頭を下げた。
.....えっといつ頭を上げるのだろうか。
やはり相手から何か言葉を発するまでだろうかそう考え待っていると
「ぷっ、わはははは」
と思いっきり大声で笑ってきた。
俺は頭を上げ不愉快な顔をする。
しかし、夢美は腹を抱えて笑っている。
「おい、何で笑っているんだよ」
俺はまるで上司が部下をしかるような顔をしてそういう。
「こっちは真剣にやっているんだぞ」
「ごめんごめんあまりに真剣にやるから」
そう言いながらまだ笑っている。
「もう一回やろう」
と言ってきた。
「いやだよ。どうせまた笑うんだろう」
「まあそうなんだけどね」
そういってまた笑った。
練習とは言うもののどう考えても俺を使って遊んでいるようにしか思えなかった。
しかし、それはそれでありがたかった。
これでもし明日起こるであろう場面と同じようにされたらそれこそどんな顔をしていいか分からず精神的にも負けていたかもしれない。
これは、夢美なりに俺のことを思ってやってくれたのだろう。
そう思うことにした。
「ありがとうな、夢美」
気持ちの余裕が少しできた俺は夢美にそういった。
すると、夢美は
「わ、私の名前を気安く呼ぶな」
と言葉では怒って言っていたが、顔はうれしそうにしていた。
「それじゃあ俺帰るよ」
俺はもうここにいる必要はない。
もう大丈夫だ。
「そう、それじゃあね」
夢美は木下においてある籠を背負いそういった。
俺も
「ありがとな」と言うと夢美は籠からいきなり何か取り出しこちらに投げてきた。
危うく落としそうになったが、なんとか落とさず捕まえる事ができた。
夢美が投げたのはミカンだった。
「5倍にして返してよね!」
そう笑顔で言い走って行ってしまった。
いつも通り軽やかな夢美だった。
俺はさっそくみかんの皮を剥き中身を食べる。
酸味が効いていたが甘味の方が強く美味しかった。
崖から見た景色は夕暮れ時で太陽は沈みかけ暗くなっていたが、少しの光でもこの町を照らしている姿は、美しかった。